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改善事例

利用者の「問題行動」が減った施設がやっていたこと|行動を「サイン」として読む支援

——職員の対応が変わったとき、Dさんも変わった

本記事について(エビデンスと予測の区別)
本記事の人物・施設は架空です(実際のコンサル支援先を参考に加工しています)。「行動の背景を読む」アプローチは応用行動分析(ABA)に基づきます。職員の会話・場面描写は「こうした状況がよく見られる」という観察に基づく再現であり、統計的な裏付けや統制された試験(RCT等)のエビデンスではありません。「支援を変えると行動が減る」という関係は、本事例の観察に基づくものです。

問題発生——「また始まった」が口癖になっていた現場

午後1時すぎ。作業活動が始まって20分ほど経ったとき、生活介護事業所(定員22名)のフロアに大きな音が響きました。

(棚に並べてあった他の利用者のカバンが床に落ちる音)
支援員・田中:「Dさん、またやった! ○○さん、大丈夫ですか?」
支援員・鈴木:「田中さん、私が行きます。Dさん、こっち来て」(Dさんを別室に誘導する)
支援員・鈴木:「ダメだよって言ってるでしょ。なんでわかんないの」(Dさん、鈴木に腕をつかまれ、その場でうずくまる)
(30分後、Dさんは作業室に戻るが、また同様の行動が起きる)

この状況が、週3〜4回繰り返されていました。支援員の田中さんと鈴木さんは、Dさん(30代男性・知的障害・障害支援区分5)への対応で毎日消耗していました。「また始まった」——これが、フロアでDさんの行動が起きるたびに出てくる言葉でした。管理者のCC氏がコンサルに相談してきたのは、「職員がDさんへの対応で疲弊しきっている」という状況からでした。

最初の確認——「なぜ起きているか」を記録から読む

コンサルとCC管理者が最初にやったのは、難しいことではありませんでした。「過去1か月の支援記録を、Dさんの行動が起きた日だけ抜き出して並べる」——それだけです。記録を並べると、すぐにパターンが見えてきました。

記録から見えてきたパターン(過去1か月・22件の行動記録より)

■ 行動が起きた時間帯

  • 午後13時〜15時:18件(82%)/午前:4件(18%)

■ 行動が起きる直前に多かった状況

  • 田中さんまたは鈴木さんが別の利用者に付いていた:15件(68%)
  • 作業が単調な繰り返しになっていた(封入・箱詰め等):14件(64%)
  • プログラムの切り替え直前(次が何か不明な状態):10件(45%)

■ 行動の後に起きていたこと

  • 支援員がDさんのそばに来た:21件(95%)
  • 別室に移動した:9件(41%)

【エビデンス注記】上記のパターン分析は「ABC分析(行動の前後の観察)」の考え方に基づきます。ABC分析は応用行動分析(ABA)の実践手法として広く用いられています。ただし、記録から得られたパターンは「仮説」であり、確定的な因果関係ではありません。

CC管理者と支援員で記録を見たとき、田中さんが「あ」と声を上げました。

田中:「Dさんの行動って、私か鈴木さんが別の人のそばにいるときが多い……」
鈴木:「言われてみれば。Dさんへの声かけって、何か起きたときだけかもしれない」
CC管理者:「そうなんです。午前中は何も起きていない。午前と午後、何が違うか、みんなで考えてみましょう」
田中:「午前は、Dさんが好きな折り紙をやっている時間が多いです」
鈴木:「午後は2時間ずっと封入作業……確かに、Dさんが飽きてそうな顔をしているのを何度か見ました」

仮説——「Dさんは何を伝えようとしているか」

記録の分析と支援員の観察から、2つの仮説が立ちました。

【仮説①】Dさんは「職員に関わってほしい」というサインを出している

行動の後、ほぼ毎回、職員が来る(95%)——この結果が繰り返されることで、「この行動をすると職員が来てくれる」という学習が起きている可能性があります。
(エビデンス:「問題行動が社会的注目によって維持される」パターンは応用行動分析の研究で広く報告されています)

【仮説②】午後の単調な作業が長時間続くことへの不快感が背景にある

午後に行動が集中している(82%)・午前の好きな活動中は起きにくい——この観察から、プログラムの内容・環境が行動の遠因になっている可能性があります。
(筆者推測:環境の不適合が行動上の課題と関連する可能性は、TEACCHプログラム等の文献でも言及されていますが、本ケースへの直接適用は仮説です)

「Dさんが悪い」のではなく「Dさんは言葉の代わりに行動でコミュニケーションしている」——この視点の転換が、支援を変える出発点になりました。ただしCC管理者は支援員に対してこう伝えました。「これはあくまで仮説です。やってみて、変化を記録しながら確かめていきましょう」。

変えた3つのこと——具体的な場面とともに

変えたこと①:「何もないとき」にDさんに声をかける

最も重要な変化は、シンプルでした。

【変更前の関わり方】Dさんに職員が声をかけるのは、何か問題が起きたときがほとんど。問題がない時間は、Dさんのそばに寄らない。
【変更後の関わり方】午後の作業中、10〜15分に1回、問題がない状態のDさんに声をかける。「Dさん、上手にできてるね」「集中してるね」など、短い声かけでいい。行動が起きたときは、最小限の対応(危険がなければその場を静かに離れる)。

最初は支援員が戸惑いました。

鈴木:「何もないのに声をかけるって、わざとらしくないですか?」
CC管理者:「最初はそう感じるかもしれません。でも2週間やってみて、変化があるか記録してみましょう。なかったら別の方法を考えます」
田中:「問題が起きたときに最小限の対応、というのが難しそうです。つい声をかけてしまいそうで」
CC管理者:「そこが一番難しいです。でも、行動が起きたときに大きく反応すると、それが強化になる可能性がある。意識してみてください」

【エビデンス注記】「問題行動への反応を減らし、望ましい行動を強化する」手法は「分化強化(Differential Reinforcement)」と呼ばれ、知的障害のある方を対象とした複数の研究でエビデンスが示されています(Carr et al., 2002; Cooper et al., 2020)。ただし、本ケースへの適用効果は個別の観察によるものです。

変えたこと②:午後のプログラムを「40分+休憩」に区切る

午後2時間の連続作業を、40分ごとに区切り、間に「Dさんが好きな活動(折り紙・音楽)」を入れました。さらに、次の活動を写真カードで事前に示すようにしました。「次は折り紙の時間」というカードを見せることで、Dさんが見通しを持てる環境を作りました。

(1か月後・午後の作業中)
田中:「Dさん、あと10分したら折り紙の時間だよ」(カードを見せる)
Dさん:(カードを見てうなずく。作業を続ける)
鈴木:「田中さん、今日Dさん、全然落ち着いてますよね」
田中:「そうなんです。さっき私が別の人についていたときも、何もなかった」
(その日の記録:行動上の課題 ゼロ件)

【エビデンス注記】視覚的スケジュールの提示による不安軽減・行動安定の効果は、自閉スペクトラム症・知的障害のある方を対象とした研究で報告されています(Mesibov, Shea & Schopler, 2004, The TEACCH Approach)。ただし、視覚的スケジュールの効果には個人差があります。

変えたこと③:職員間で「Dさんへの見方」を統一する

変化の中で最も難しかったのは、「職員全員が同じ対応を取る」ことでした。一人でも「問題が起きたとき大きく反応する」職員がいると、その職員がいるときだけ行動が起きやすくなります。(筆者推測:行動の維持には一貫した対応が重要とされていますが、本ケースでの検証はできていません)

(2か月目・週次のミーティングにて)
CC管理者:「先週、火曜日だけDさんの行動が2件ありました。火曜日、誰がフロアにいましたか?」
山田(非常勤):「私です……Dさんが棚を触り始めたので、『ダメ』と言いました」
CC管理者:「山田さん、悪いことをしたわけじゃないです。でも今Dさんには、行動が起きたときに反応を小さくする対応をお願いしています。次回からぜひ試してみてください。あと、10〜15分に一度、何もないときに声をかけてみてください」
山田:「何もないときに声をかけるって、最初は変な感じがしましたが、やってみたらDさんが笑ってくれたことがあって、嬉しかったです」

3か月後——数字と現場の変化

指標 取り組み前 1か月後 3か月後
行動上の課題(週平均) 3〜4回 1〜2回 0〜1回
午後プログラム参加時間(日平均) 約40分(中断多) 約65分 約90分(ほぼ全参加)
「また始まった」をフロアで聞く頻度 毎日 週1〜2回 ほぼなし
Dさんが職員に自分から話しかける場面(週) 1〜2回 4〜5回 7〜8回

※ 上記は支援員の記録・観察に基づく参考値です。観察者バイアスが含まれる可能性があります。3か月という短期間の観察であり、長期的な維持については継続的なモニタリングが必要です。同様の成果を保証するものではありません。

【田中さんの言葉(3か月後)】
「Dさんへの声かけを続けていたら、ある日、Dさんが私のそばに来て腕を触ってきたんです。今まで腕をつかまれるのは、問題が起きたときだけだった。でもそのときは、ただ触ってきただけで、表情が穏やかだった。Dさんが変わったんじゃなくて、私たちが変わったから、Dさんが変わった。そう思っています」

【CC管理者の言葉(3か月後)】
「退所を考えていたDさんが、今は施設の中で一番笑顔が多い利用者の一人です。でも正直、今でも『これが正解だったのか』と思うことがあります。仮説が当たっただけかもしれない。だから記録は続けています。変化があればまた見直す、その繰り返しです」

まとめ——「また始まった」から「なぜ今日は起きたか」へ

BB法人の事例で最も大きな変化は、Dさんの行動が減ったことよりも、職員の「見方」が変わったことでした。「また始まった」は、行動を「Dさんの問題」として見ている言葉です。「なぜ今日は起きたか」は、行動を「状況のサイン」として読もうとしている言葉です。この違いが、対応を変え、結果を変えました。

「うちの施設でも同じような状況がある」という支援員・管理者の方は、まず「過去1か月の記録で、行動が起きた時間帯と直前の状況を書き出してみる」ことから始めてみてください。記録を並べるだけで、見えていなかったパターンが見えてくることがあります。(筆者推測:記録の可視化が支援の気づきにつながるという点は、コンサル現場での観察に基づきます。統計的な裏付けはありません)

【参考文献・エビデンスの出典】

  • Cooper, J.O., Heron, T.E., & Heward, W.L. (2020). Applied Behavior Analysis (3rd ed.). Pearson.(応用行動分析の標準テキスト)
  • Carr, E.G., et al. (2002). Positive Behavior Support for People with Developmental Disabilities. American Psychological Association.(分化強化・ポジティブ行動支援)
  • Mesibov, G.B., Shea, V., & Schopler, E. (2004). The TEACCH Approach to Autism Spectrum Disorders. Springer.(視覚的構造化)
  • 厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)テキスト」(ABC分析・行動の機能理解の国内実践資料)

【本記事の筆者推測箇所】 「行動の一貫した対応が維持に重要」の部分は筆者推測を含みます。「記録の可視化が気づきにつながる」も筆者の経験則です。職員の会話・場面描写は実際の現場から着想した再現であり、特定の事実ではありません。

※ 本記事は行動分析の専門的訓練の代替ではありません。他者への危険がある行動が続く場合は、公認心理師・行動分析の専門家・医療機関との連携を強く推奨します。

行動の背景を理解する支援は、身体拘束や不適切な対応を防ぐ 障害者施設における虐待防止の実践 とも深くつながります。職員の「見方」を変える取り組みは 職員会議で意見が出ない施設が「建設的な場」に変わった実例 もあわせてご覧ください。

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