グループホームの夜間緊急対応で失敗した施設|夜間支援体制を整えた3か月の記録
——体制を整えた3か月の記録
問題発生——深夜2時、世話人は何もできなかった
「あの夜のことは今でも忘れられません」——グループホーム(定員6名)を運営するT法人の管理者・U氏はそう切り出しました。
深夜2時過ぎ、夜間支援中の世話人・Vさん(入職4か月)から管理者に電話が入りました。「○○さんが突然、激しくベッドから起き上がって、部屋の中をうろうろしています。声をかけても反応がなくて、どうすればいいかわからなくて……」
Vさんは入職後に夜間支援の「基本的な注意事項」は口頭で伝えられていましたが、緊急時にどう動くかの手順は示されていませんでした。管理者も電話口で「様子を見て、悪化するようなら救急に電話して」と伝えるのが精一杯でした。
その後、利用者は30分ほどで落ち着きましたが、翌朝ホームに来た管理者が見たのは、疲弊しきった表情のVさんと、記録用紙に「夜中に騒いだ」とだけ書かれたメモでした。
【Vさんの言葉(翌朝)】
「何かあったらどうしようと、朝まで眠れませんでした。自分が何をすべきかわからなかった。もし本当に倒れていたら、どうなっていたんだろうと思うと怖くて……」
この出来事から1か月後、Vさんは退職しました。
T法人の夜間支援の実態(問題発覚時点)
- 夜間支援体制:夜間支援員1名(世話人が兼務)
- 夜間支援の引き継ぎ:口頭のみ(書面なし)
- 緊急連絡先:管理者の携帯番号のみ(貼り紙あり)
- 緊急時マニュアル:存在しない
- 利用者ごとの夜間対応メモ:存在しない
- 夜間支援後の報告:翌朝の記録用紙のみ
→ 「何かあったら管理者に電話」が唯一のルールでした。
原因分析——「なんとかなっていた」が続いていた
原因①:「これまで大きな問題がなかった」という慢心
T法人のグループホームは開所から3年が経過していました。夜間に大きなトラブルがなかったため、「うちの利用者さんは夜間は穏やか」という認識が管理者・職員の間に定着していました。
しかし実態は、「問題が起きていなかった」のではなく「小さな問題が記録されずに流れていた」だけでした。Vさんの退職後に他の世話人に聞いたところ、夜間に不眠・不安・軽い体調変化が月に数件あったことが初めてわかりました。
原因②:夜間支援員への「引き継ぎ」がなかった
日勤帯の職員から夜間支援員への引き継ぎは口頭のみでした。「○○さんは今日少し体調が良くなかった」という情報が伝わらないまま夜間を迎えるケースが常態化していました。情報がなければ、世話人は「普段と違う」サインに気づくことができません。異変への気づきの遅れは、対応の遅れに直結します。
原因③:利用者ごとの「夜間特性」が共有されていなかった
利用者の中には、特定の時期に不眠が増える方、気圧の変化で体調が崩れやすい方、夜間に不安が高まりやすい方がいました。しかしこれらの情報は担当職員の頭の中にあるだけで、夜間支援員には伝わっていませんでした。「知っていれば対応できた」情報が共有されていないことが、夜間支援員の孤立と不安を生む構造的な問題でした。
改善策——3か月で整備した「夜間緊急対応体制」
U管理者はVさんの退職を「施設の構造的問題が引き起こした結果」として受け止め、3か月で以下の体制を整備しました。
整備①:利用者ごとの「夜間対応カード」の作成(1か月目)
利用者6名それぞれについて、夜間に特有の状態・対応方法・連絡判断の基準を記載した「夜間対応カード」(A5・1枚)を作成しました。ホームの目立つ場所に掲示し、夜間支援員が誰でも即座に確認できる状態にしました。
夜間対応カードの記載項目(1名分・A5サイズ)
- 氏名・部屋番号・緊急連絡先(家族)
- ①夜間によく見られる状態:例)「月1〜2回、深夜に目が覚めてトイレに行くことがある。声をかければ戻れる」
- ②対応が必要なサインと目安:例)「30分以上落ち着かない・発熱38度以上・嘔吐 → 管理者に連絡」/「意識がない・呼吸が止まる・大量出血 → まず119番、その後管理者に連絡」
- ③対応の手順(フローチャート):状態確認 → 声かけ → 改善しない場合の連絡先と手順
- ④過去にあった夜間トラブルと対応例:例)「昨年10月、夜間に嘔吐。翌朝受診。胃腸炎と診断」
整備②:「緊急連絡フローチャート」の作成と掲示(1か月目)
「何が起きたら誰に連絡するか」を一枚のフローチャートにまとめ、ホームの電話横に掲示しました。深夜に焦っている状態でも迷わず動けるよう、判断の分岐を極力シンプルに設計しました。
緊急連絡フローチャートの構造
- STEP1:利用者の状態を確認する
- STEP2:意識・呼吸・出血を確認
- 意識なし・呼吸停止・大量出血 →【119番】→ 管理者に連絡
- 上記以外 → STEP3へ
- STEP3:夜間対応カードを確認
- 「管理者に連絡」の基準に該当 →【管理者に電話】
- 該当しない → 様子を見て15分後に再確認
- STEP4:記録に残す(時刻・状態・対応内容・経過)
連絡先一覧(管理者・副管理者・緊急医療機関・最寄り病院)を同じ紙に記載しました。
整備③:日勤→夜間の「書面引き継ぎシート」の導入(2か月目)
日勤帯から夜間支援員への引き継ぎを、毎日の「夜間引き継ぎシート」(A4・1枚)で行うことにしました。所要時間は記入5分・確認2分。シンプルに徹したことで継続できています。
夜間引き継ぎシートの記載項目
- 日付・夜間支援員名
- 今日の利用者の状態(6名分・一言ずつ) ○:変わりなし/△:少し気になる/×:要注意(詳細を記載)
- 特記事項(体調変化・服薬変更・家族からの連絡等)
- 夜間に注意してほしいこと(具体的に)
- 夜間支援員からの質問・確認事項欄
「△や×がある日は夜間支援員から管理者に一言電話する」というルールも設定しました。
整備④:夜間支援員向け「着任時研修」の設計(3か月目)
新しい夜間支援員が着任した際に行う研修の内容を文書化しました。「夜間対応カードの読み方」「フローチャートの使い方」「緊急時のロールプレイ」を30〜45分で実施する内容です。
「夜間支援は一人だからこそ、着任前に一度でも練習することが大事」とU管理者は言います。ロールプレイで「もし○○さんが倒れていたら」を体験することが、本番での焦りの軽減につながります。
【着任時研修のポイント】
- 夜間対応カードを一緒に読み、利用者の特性を口頭でも補足説明する
- フローチャートを見ながら「この状態ならどうする?」と質問形式で確認する
- 「管理者に電話していい」「わからなければためらわず連絡する」と明示する
- 「以前こういうことがあった」という事例を共有し、イメージを持たせる
所要時間:30〜45分。管理者または主任が実施します。
改善後の変化——3か月後・6か月後
| 指標 | 整備前 | 3か月後 | 6か月後 |
|---|---|---|---|
| 夜間の「対応不明」事案 | 月2〜3件 | 月0〜1件 | 0件 |
| 夜間支援員からの深夜連絡 | 月0件(連絡できない) | 月1〜2件(適切な相談) | 月1件前後(定着) |
| 夜間記録の記載量 | 「異常なし」のみ | 状態・対応を簡潔に記録 | 継続定着 |
| 夜間支援員の「怖い・不安」 | ほぼ全員が不安を抱える | 「手順がわかって安心」 | 「慣れてきた」 |
| 夜間支援員の離職 | 年2名(夜間不安が理由) | 0名 | 0名 |
※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。利用者の障害特性・ホームの規模・職員の経験年数により異なり、同様の成果を保証するものではありません。
【U管理者の6か月後の言葉】
「Vさんが辞めたとき、本当に申し訳なかった。あの環境で一人で夜間をやらせていた。でも何もしてあげられなかった。今の世話人さんたちは、夜間について安心して働いていると言ってくれる。遅すぎたけど、やっと当たり前のことができた気がしています」
まとめ——夜間支援員を「一人にしない」ことが経営者の責任
夜間支援は、グループホーム運営の中で最もリスクが集中する時間帯です。少人数体制・孤立した環境・突発的な緊急事態——これらは構造的な課題であり、「夜間支援員が頑張る」だけでは解決しません。
T法人の取り組みで作成した4つのツール(夜間対応カード・緊急連絡フローチャート・引き継ぎシート・着任時研修)は、いずれも大きなコストなく作れるものです。必要なのは時間と意志です。
「うちのホームは夜間に大きなトラブルがない」という管理者ほど、今すぐ確認してほしいことがあります——「夜間支援員は本当に安心して働けているか」。その答えが「わからない」なら、整備を始める時期です。
夜間支援員が安心して働ける体制づくりは、職員の定着にも直結します。グループホームの職員が辞める背景と対策は グループホームの職員はなぜすぐ辞めるのか、離職を防ぐ定着・採用支援は 職員の離職・定着支援 もあわせてご覧ください。
グループホームの夜間支援体制の整備・マニュアル作成・運営改善のご相談は、サービス内容もあわせて、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。