家族からの電話が減らない|「もっと情報を」ではなく「何を知りたいか」を合わせる
「今日、本人は昼食をどのくらい食べましたか」「昨日は活動に参加したのでしょうか」「先週お願いしたことは職員間で共有されていますか」「職員によって説明が違うのですが」——。
一件ずつを見れば、大きな苦情ではありません。しかしこうした電話が毎日のように入ると、現場の職員にも管理者にも負担がかかります。この記事では、その電話がなぜ繰り返されるのかを分解して考えます。
※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の内容は改善の考え方を分かりやすくするための想定です。取り組みの効果は事業所の状況によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。
「心配性のご家族が多い」で終わらせない
想定するのは、家族からの問い合わせや要望が多く、管理者がその対応に追われていた事業所です。職員の一部からは「心配性のご家族が多い」「かなり丁寧に説明しているのに、また電話が来る」という声も出ていました。
ところが連絡内容を分析すると、別のことが見えてきました。ご家族が求めていたのは、必ずしも「もっと多くの情報」ではありませんでした。
求められていたのは、「必要な情報が、必要なタイミングで、同じ内容で届くこと」でした。
職員は説明している。それでも伝わっていなかった
この事業所では、ご家族との連絡手段が複数ありました。連絡帳、送迎時の口頭説明、電話、面談。職員によっては、質問された際にかなり詳しく説明していました。一見すると十分に共有できているように見えます。
問題は、「誰が、何を、どこまで伝えたのか」が施設内で共有されていないことでした。よくあるのが、こうした流れです。
- 朝の送迎時に、ご家族から「最近、食事量が減っているので見てほしい」と言われる
- 送迎担当者は「分かりました。見ておきます」と答える
- ところが、その情報が昼食介助を担当する職員へ十分に伝わっていない
- 夕方、ご家族が別の職員へ「今日は食べられましたか」と聞く
- その職員は状況を知らないため「確認しておきます」と答える
ご家族から見れば「朝お願いしたのに、施設内で共有されていない」となります。職員側に悪意も怠慢もありません。ご家族から受けた情報が、施設内で「誰かの記憶」に留まっていた——それだけです。
電話を「件数」ではなく「目的」で分類する
ここが出発点になります。1か月間、ご家族から入った電話・相談の内容を分類してみます。おおむね次のように分けられました。
- その日の様子を知りたい
- 以前伝えた要望が共有されているか確認したい
- 支援方法について相談したい
- 職員から聞いた内容を確認したい
- 施設運営や制度について質問したい
- 苦情・不満を伝えたい
ここで分かったことがあります。明確な「苦情」は一部でした。多くは「情報が届いているか不安なので確認する電話」だったのです。
つまり、電話対応の技術だけを高めても根本の解決にはなりません。ご家族が確認しなくても「施設の中で情報が共有されている」と感じられる状態をつくる必要があります。
整え方① 「分かりました」ではなく「次に何をするか」を伝える
家族対応で意外に多いのが、「分かりました」「伝えておきます」「確認しておきます」という返答です。職員としては丁寧に答えているつもりですが、ご家族には誰が、いつ、何をするのかが分かりません。
そこで返答の形を変えます。
- 「分かりました」→「昼食担当へ共有し、今日の食事量を確認します。帰りの送迎時にお伝えします」
- 「確認しておきます」→「管理者に確認して、明日の午前中までにこちらからお電話します」
家族対応では、説明量を増やすことよりも次の行動を具体的に示すことが安心につながります。
あわせて、ご家族から受けた連絡は「情報提供/質問/要望/変更依頼/相談/苦情」のように分類して残します。とくに「要望」については、誰が対応し、いつまでに確認し、誰が返答するのかまで決めます。「食事量を確認してほしい」を単なる申し送りで終わらせず、「昼食担当者が3日間確認し、金曜日に担当職員からご家族へ報告する」とするわけです。
▶ 受け取った情報をどこに残すか、連絡帳・電話・面談の役割をどう分けるか、重要な説明の担当をどう決めるか——記録と体制の側の整え方は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ|「聞いていない」が生まれる3つの原因と情報共有の整え方 にまとめています。あわせてご覧ください。
整え方② 定期報告と緊急連絡を分ける
何を伝えるかについても整理が必要です。すべてを毎日詳しく伝えようとすると、職員の負担が増えるだけでなく、本当に重要な情報が埋もれます。
- すぐ伝える……事故、急な体調の変化、重大な行動の変化など
- その日のうちに伝える……当日中に知っておいていただきたいこと
- 定期的にまとめて伝える……活動への参加状況、生活上の小さな変化など
後者は、ご本人・ご家族の希望も確認しながら、連絡帳や定期の面談でまとめてお伝えする方法も選べます。「何でも電話する」でも「何も電話しない」でもなく、重要度に応じて伝え方を変えるということです。
整え方③ 家族ごとに「何を知りたいか」を確認する
ここがこの取り組みでもっとも効く部分です。
ご家族が知りたい情報は、同じではありません。食事量を詳しく知りたい方、活動への参加状況を知りたい方、他の利用者との関係を心配している方、健康状態を重視する方——それぞれ違います。
そこで個別支援計画の面談などの機会に、「施設での生活について、特にどのようなことをお知りになりたいですか」と確認します。
これが重要なのは、施設側が重要だと思って伝えている情報と、ご家族が知りたい情報が一致しているとは限らないからです。情報提供の量を増やすのではなく、家族ごとに情報の優先順位を合わせる。それだけでやり取りの質が変わります。
整え方④ 小さな不満を「苦情になる前」に拾う
苦情が突然発生するとは限りません。その前に、こうした言葉が出ることがあります。
「最近ちょっと気になっているんですが」「前にもお願いしたのですが」「別に苦情ではないんですけど」。
職員には、「別に苦情ではない」という言葉ほど記録するように伝えます。小さな違和感の段階で確認し、必要ならサービス管理責任者や管理者が対応する。大きな苦情への対応力を高めるだけでなく、大きな苦情になる前に対応する仕組みへ変えるということです。
家族の希望をすべて実現することが「良い家族対応」ではない
ここは丁寧に整理しておきたい点です。
ご家族の要望をすべて受け入れることが、良い家族対応というわけではありません。ご本人の意思、ご本人の権利、個別支援計画、他の利用者への影響、職員体制、安全性——これらを踏まえたうえで、対応できない要望については、その理由を説明する必要があります。
家族満足を高めることと、家族の希望をすべて実現することは同じではありません。障害福祉サービスの中心にいるのは、あくまで利用者ご本人です。
ご本人の意思確認が難しい場合も、表情、行動、これまでの選択、支援記録などを含めて、本人中心で検討します。ご家族の要望を、そのままご本人の希望として扱わないことが大切です。
▶ 支援方法そのもののばらつきを整理する進め方は 職員によって支援が違う|「統一すべき支援」と「個別に判断する支援」を分けて標準化する で解説しています。
接遇研修だけでは解決しない理由
家族対応に課題があると、「もっと丁寧に話しましょう」「接遇研修をしましょう」という対策になりがちです。接遇はもちろん重要です。
しかし、職員がどれだけ丁寧でも、朝伝えたことが夕方の職員へ届いていない/職員によって説明が違う/「確認します」と言われたまま返答がない——この状態では信頼は高まりません。
家族との信頼関係を支えるのは、職員個人の話し方だけではなく、組織として約束を守れる仕組みです。
要望を受けた職員が一人で抱えるのではなく、記録する・担当者を決める・対応する・結果を返すという流れができると、職員ごとの説明のばらつきも自然に減っていきます。管理者も、日常的な確認は担当職員や主任に任せ、本当に管理者が関与すべき案件へ集中できるようになります。
▶ 判断を現場へ返して管理者を本来の仕事に戻す進め方は 管理者に判断が集中する施設、ご家族への定期的な発信を仕組みにした実例は 利用者家族からのクレームが減ったグループホームが変えた「1つのこと」 をご覧ください。
実践のポイント
- ① 「電話が多い家族」ではなく「何を繰り返し確認しているか」を見る……同じ質問が多ければ、施設側の情報提供に改善の余地があります
- ② 要望は「伝えておきます」で終わらせない……誰へ伝えるのか、いつ確認するのか、誰が返答するのかまで決めます
- ③ その場で答えられない質問には期限を伝える……回答の内容だけでなく、いつ返事が来るか分かることが安心につながります
- ④ 家族の要望を、そのまま本人の希望として扱わない……ご本人の意思確認が難しい場合も、表情・行動・過去の選択・支援記録を含めて本人中心で検討します
- ⑤ 苦情がない施設が、満足度の高い施設とは限らない……「言っても変わらない」とご家族が諦めている可能性もあります。面談などで施設側から「何か改善してほしいことはありませんか」と聞くことも必要です
利用者・家族対応チェックリスト
- □ ご家族から受けた要望を記録している
- □ 要望ごとに対応する担当者が決まっている
- □ 返答が必要な案件には期限を設定している
- □ 「伝えておきます」だけで対応を終えていない
- □ 職員によって説明内容が大きく異ならない
- □ 緊急の連絡と定期の報告を分けている
- □ ご家族が特に知りたい情報を把握している
- □ 小さな不満も管理者・責任者へ共有できる
- □ ご家族の希望とご本人の意思を区別している
- □ 苦情の件数だけで家族満足度を判断していない
まとめ——電話を減らすことが目的ではない
こうした取り組みの結果として、ご家族からの確認の電話は減ります。しかし「電話を減らすこと」そのものを目標にしてはいけません。電話が減っても、ご家族が施設への期待を失って何も言わなくなったのであれば、それは改善とは言えないからです。
目指すのは、こう感じていただける状態です。
- 電話しなくても、必要なことは施設内で共有されている
- 質問すれば、いつまでに回答してもらえるか分かる
- 誰に話しても、大きく違う説明はされない
その信頼をつくるために必要なのは、特別な接遇技術だけではありません。受けた言葉を記録する、担当者を決める、対応する、結果を返す。そしてご本人の意思を中心に、ご家族と施設が同じ方向を向けるよう調整すること。この基本的な流れを組織として守ることです。
家族対応が難しいと感じたときは、「このご家族へどう説明するか」だけでなく、「このご家族が、なぜ何度も確認しなければならない状態になっているのか」まで考えてみてください。そこに入口があります。
あわせてお読みください。記録と体制の側から家族対応を仕組みにする方法は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ、定期的な発信を仕組みにした実例は 利用者家族からのクレームが減ったグループホームが変えた「1つのこと」、新規利用者のご家族への報告を受け入れ体制に組み込んだ実例は 新規利用者が3か月で退所していた施設 で解説しています。家族対応・運営体制の整備のご相談は サービス内容 もあわせて お問い合わせください。初回相談は無料で承っております。


