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改善事例

新規利用者が3か月で退所していた施設|受け入れ体制で定着率を改善

——定着率を上げた「受け入れ体制」の見直し

問題発生——新規利用者の半数が3か月以内に退所

「新しい利用者さんが来ても、3か月もたたないうちにいなくなってしまう。何が悪いのかわからなくて、ずっと悩んでいました」——就労継続支援B型(定員18名)を運営するN法人の管理者・O氏が相談を持ちかけてきたのは、年度が変わって間もない頃でした。

O管理者が過去1年間の退所者を調べてみると、新規利用者8名のうち5名が利用開始から3か月以内に退所していました。退所理由は「他事業所への変更」「体調不良」「家族の意向」などさまざまでしたが、退所後に相談支援専門員から聞いた本音は、もっと核心を突くものでした。

【相談支援専門員から聞いた退所の本音(複数件のヒアリングより)】
「利用者さんが『行きたくない』と言い出したのが2週目からでした。理由を聞いたら、『誰も話しかけてくれない』と」
「最初の1か月、担当職員が誰なのか本人も家族もわからなかったそうです」
「見学のときと実際の雰囲気が違った、と家族が言っていました」

N法人の新規利用者退所状況(直近1年間)

  • 新規利用開始者:8名
  • 3か月以内退所:5名(62.5%)
  • 退所時期の内訳:1か月以内2名、1〜2か月2名、2〜3か月1名
  • 退所後の行き先:他事業所4名、自宅(通所なし)1名

→ 定員18名に対し、常時2〜3名の空きが生じている状態
→ 空き1名あたりの月間機会損失:約60,000〜80,000円(サービス種別・区分による)

原因分析——退所の「本当の理由」を掘り下げる

O管理者は相談支援専門員へのヒアリングと、退所者家族への簡単なアンケートをもとに原因を整理しました。見えてきたのは「支援の質」ではなく「受け入れ体制」の問題でした。

原因①:「慣らし期間」の設計がなかった

N法人では新規利用者が来ると、初日から既存の利用者と同じプログラムに参加させていました。「早く馴染んでもらった方がいい」という善意からでしたが、初めての場所・初めての人・初めての作業が同時に押し寄せる状況は、利用者にとって大きなストレスでした。

特に対人関係に不安を抱えやすい利用者にとって、「誰も自分のことを知らない集団の中に突然入れられる」体験は、その後の通所意欲を大きく損なうことにつながりかねません。

原因②:担当職員が「名目上」の存在になっていた

N法人では新規利用者に担当職員を設定していましたが、担当者が積極的に関わる仕組みがなく、「担当がいるが話したことがない」という状態が続いていました。担当職員も「何をすればいいかわからない」「他の利用者の支援もあって手が回らない」という状況で、担当制が機能していませんでした。

原因③:家族への情報共有が「入所時の説明だけ」だった

利用開始時にサービス内容の説明は行っていましたが、その後の定期的な状況報告がありませんでした。家族は「どんな様子か」を知る機会がなく、利用者本人の「行きたくない」という言葉だけが情報源になっていました。

「本人が嫌がっているなら無理に通わせることはない」という家族の判断が退所につながるケースが複数ありました。早期に施設側から「こんな良い変化がありました」という情報を届けていれば、結果が変わっていた可能性もあります。

改善策——導入した「3か月定着プログラム」

O管理者は「最初の3か月が勝負」と位置づけ、新規利用者向けの定着プログラムを設計しました。既存の支援体制を大きく変えるのではなく、「受け入れの流れを整える」ことに集中しました。

プログラム①:「慣らし期間」の設定(1〜2週目)

利用開始後の最初の2週間を「慣らし期間」として正式に設定し、プログラム参加を段階的に増やすことにしました。

慣らし期間のスケジュール(例)

【第1週】

  • 午前のみの利用(10時〜12時)
  • 作業は見学または補助程度。無理に参加させない
  • 担当職員が1日1回必ず声をかける(内容は問わない)
  • 施設内の場所・トイレ・休憩室などを丁寧に案内する

【第2週】

  • 午前+昼食まで(〜13時)
  • 利用者本人が「やってみたい」と言った作業を優先して経験させる
  • 他の利用者との自然な交流を担当職員が仲介する

【第3週以降】通常プログラムに移行。本人の状況に合わせて柔軟に調整。

「最初から全部参加させなくていい、という発想の転換が大きかった」とO管理者。慣らし期間の設定により、利用者が「自分のペースで入っていける」という感覚を持てるようになりました。

プログラム②:担当職員の「最初の1か月アクションリスト」

担当職員が「何をすればいいかわからない」という状況をなくすため、最初の1か月間の具体的なアクションをリスト化しました。

担当職員・最初の1か月アクションリスト

【第1週】

  • 初日に自己紹介・施設案内を行う
  • 利用者の好きなこと・苦手なことを1つずつ把握する
  • 1日1回、意図的に声をかける(内容は問わない)

【第2週】

  • 利用者が「楽しそう」「嫌そう」な場面をメモする
  • 昼食時に隣に座り、5分間話す機会を作る

【第3〜4週】

  • 個別支援計画の原案作成に向けたアセスメントを実施
  • 家族への第1回連絡ノートを送付する
  • 1か月の振り返りをサビ管に報告する

「リストがあるだけで、担当職員の動きが全然変わった」(O管理者)

プログラム③:家族への「3か月定期報告」

利用開始から3か月間、月1回の家族への連絡ノートを必ず送付することをルール化しました。内容は「今月の様子・印象に残った場面・来月の見通し」の3点に絞り、担当職員が作成します。

「最初の3か月は特に家族の不安が高い時期。そこに定期的に『こんな良い変化がありました』という情報を届けることで、家族が施設を信頼するきっかけになる」とO管理者。

【家族から届いた声(プログラム導入後)】
「先月のノートに、娘が初めて自分から作業を『やってみたい』と言った場面が書いてありました。家では何もやりたがらないのに、と驚いて泣いてしまいました」
「最初の1か月、正直不安でした。でも毎月連絡をもらえるので、安心して通わせられています」

改善後の変化——プログラム導入から6か月

指標 導入前(直近1年) 導入後(6か月)
新規利用者数 8名 5名
3か月以内退所者数 5名(62.5%) 1名(20%)
3か月時点での継続率 37.5% 80%
平均通所日数(新規・3か月後) 月11.2日 月16.8日
相談支援専門員からの紹介数 年3件 半年で4件(増加傾向)

※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。利用者の障害特性・地域の社会資源・事業所規模により異なり、同様の成果を保証するものではありません。

【O管理者の6か月後の言葉】
「退所が減っただけでなく、通所日数が増えた。これは報酬にも直接影響します。でも一番うれしいのは、新しい利用者さんが3か月後にちゃんと施設に馴染んでいる姿を見られるようになったこと。それが職員の励みにもなっています」

予想外の効果——相談支援専門員からの紹介が増えた

定着率が上がったことで、予想外の効果が生まれました。地域の相談支援専門員からの評判が変わったのです。「あの事業所は新しい利用者さんが定着しやすい」という口コミが広がり、半年で4件の紹介が来るようになりました。導入前は年3件だったことを考えると、明らかな変化です。

相談支援専門員は「利用者が定着できる事業所」を優先的に紹介します。定着率の改善は、新規紹介という形で経営にも返ってくることを、O管理者は実感しています。なお、相談支援事業所との連携そのものを強化した事例は 相談支援事業所との連携で利用者紹介が倍増した事例 でもご紹介しています。

まとめ——「来てもらう努力」より「定着させる努力」

新規利用者の定着率が低い施設の多くは、「新規利用者を増やすこと」に注力しがちです。しかし、定着しなければ空きはまた生まれます。採用と同じで、「入口」より「定着」に投資する方が、長期的な経営安定につながります。

N法人が実施した3つのプログラムは、いずれも大きなコストをかけずに始められるものです。慣らし期間の設定・担当職員のアクションリスト・家族への定期報告——この3つを「仕組み」として整えることで、定着率は変わっていきます。

「うちも新規利用者がなかなか定着しない」と感じている管理者は、まず直近1年間の退所者とその時期を調べることから始めてみてください。数字の中に、改善の手がかりが見つかるはずです。

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