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改善事例

利用者の預り金・金銭管理を見直す|不祥事を防ぐ運営者の仕組みづくり

※本事例は、実際の複数の事例をもとに再構成した架空のモデルケースです。特定の法人や事業所を指すものではありません。文中の数字は、説明のために置いた仮定の数字であり、実際の事業所の実績や、効果を保証するものではありません。

はじめに

障害福祉の現場では、利用者の方から、お小遣いや日用品の購入費などの金銭をお預かりする場面があります。本人や家族の希望に応じて、事業所が管理を手伝うこともあります。しかし、金銭管理は、ひとたび不適切な取り扱いが起これば、利用者の権利を損なうだけでなく、法人の信頼を大きく失う原因にもなります。

今回は、運営者・法人の管理者の視点から、預り金・金銭管理の仕組みをどのように点検し、見直していくかを、モデルケースで考えます。

事例の概要

架空のA法人は、生活介護事業所と共同生活援助(グループホーム)を運営しています。利用者の中には、ご家族の希望で、お小遣いを事業所が預かっている方が十数名おられます。これまで、金銭の管理は、各事業所の担当職員が、ベテラン職員の経験に頼りながら行ってきました。現金は事業所の金庫に保管し、出し入れは担当職員が一人で記録していました。

ある日、定期的な内部確認の際に、ある利用者の出納の記録と、現金の残高に数千円のずれがあることがわかりました。調べたところ、記録の付け忘れが原因で、不正があったわけではありませんでした。しかし、運営者は、「たまたま悪意がなかっただけで、同じ仕組みのままでは、何が起きても気づけない」と危機感を持ち、仕組みそのものを見直すことにしました。

コンサルタントの視点――何が起きていたのか

このケースで重要なのは、「担当者の不注意」として片付けないことです。出し入れの記録、現金の保管、残高の確認が、すべて一人の職員に任されていました。この状態では、記録の間違いも、不適切な取り扱いも、発見が難しくなります。

運営者の立場で考えるべきは、「誰を信用するか」ではなく、「誰が担当しても、間違いや不正が起きにくく、起きても気づける仕組みになっているか」という視点です。職員を疑うためではなく、職員を守るためにも、複数の目で確認する仕組みが役立つと、現場の実務では一般に考えられています。

ただし、どこまでの仕組みが必要かは、預かる金額や人数、事業所の規模によって異なります。

見直しの手順

A法人では、次の順で見直しを進めました。最初に、現在の運用の洗い出しです。誰の、どれだけの金額を、どこで、誰が保管しているか。出し入れのたびに、誰が記録し、誰が確認しているか。本人や家族からの預かりの依頼は、書面で残っているか。これらを、すべての事業所で確認しました。

そのうえで、四つの見直しを行いました。一つ目は、預かりの同意の整理です。本人や家族から、預かる範囲と目的、使い道について、書面で同意を得る形に統一しました。二つ目は、出し入れの手順です。出し入れのたびに、記録する職員と、確認する職員の二人が署名する形にしました。

三つ目は、定期的な残高確認です。月に一度、担当以外の職員または管理者が、記録と現金の残高を照合します。四つ目は、本人・家族への報告です。月ごとの出納を、本人や家族に見える形で報告するようにしました。

なお、利用者の金銭を預かる場合の取扱いや、必要な手続きは、事業の種類や自治体の指導内容によって異なる場合があります。見直しにあたっては、最新の基準や、指定権者の案内を確認し、必要に応じて、弁護士や社会福祉士などの専門家にも相談しました。

数字で見る変化の見通し

ここでは、あくまで仮定の数字で、見直しの手間と効果を考えてみます。預かっている利用者を15名とし、月1回の残高照合に、1名当たり10分かかると仮定します。この場合、月の照合時間は、15名×10分=150分で、約2.5時間です。年間では、2.5時間×12か月=30時間となります。

管理者の時給換算を2,000円と仮定すると、年間の人件費の目安は、30時間×2,000円=6万円です。この金額は、万が一の不祥事が起きた場合の信頼の低下や、対応にかかる負担と比べて、小さいかどうかを考える材料になります。

ただし、これは説明のための単純な試算です。実際の手間や費用は、事業所ごとに大きく異なります。また、仕組みを整えれば、不祥事が確実になくなるわけではありません。仕組みは、リスクを下げるための手段であり、効果を保証するものではないことを、運営者は理解しておく必要があります。

運営者が特に気をつけた点

運営者として特に気をつけたのは、次の点です。まず、現場の職員が「疑われている」と感じないようにすることです。見直しの目的は、職員を守り、利用者の権利を守ることだと、繰り返し説明しました。次に、仕組みを複雑にしすぎないことです。

手順が煩雑になると、現場で守られなくなります。署名欄を一つ増やす、月に一度の照合をする、といった、続けられる範囲から始めました。

さらに、本人の意思を尊重することを忘れないようにしました。金銭の管理を事業所が担うのは、本人や家族の希望や、必要性に基づくものです。本人が自分で管理できる部分まで、事業所が取り上げることのないよう、定期的に管理の範囲を見直す機会を設けました。

実践アドバイス

同じような課題を抱える運営者の方に、次のような順序をお勧めします。まず、現在の金銭管理の実態を、書面で洗い出してください。誰が、何を、どこで、どう記録しているかを、一覧にするだけでも、リスクの高い箇所が見えてきます。次に、記録と保管を一人に任せていないかを確認します。

ここは、費用をかけずに見直しやすい部分です。そのうえで、本人・家族への報告と、定期的な照合の仕組みを整えるとよいでしょう。

一方で、万が一、ずれや不明点が見つかったときの対応手順も、あらかじめ決めておくことが大切です。誰に報告し、どのように事実を確認し、本人や家族へどう説明するか。事前に決めておくことで、慌てずに対応しやすくなります。

運営者のためのチェックリスト

  • ご自身の事業所を振り返るときの観点です。
  • 預かりの範囲と目的について、本人や家族から書面で同意を得ているか。
  • 出し入れの記録と、現金の保管を、一人の職員に任せきりにしていないか。
  • 出し入れのたびに、複数の職員が確認しているか。
  • 月に一度など、定期的に、担当以外の職員が残高を照合しているか。
  • 本人や家族に、出納を見える形で報告しているか。
  • ずれや不明点が見つかったときの対応手順が決まっているか。
  • これらのうち、いくつ「はい」と答えられるかを、定期的に確認してみてください。

まとめ

利用者の金銭管理は、担当者の誠実さだけに頼るのではなく、誰が担当しても間違いや不正が起きにくく、起きても気づける仕組みで支えることが大切です。同意の整理、複数の目での確認、定期的な照合、本人・家族への報告。この四つを、続けられる形で整えることが、利用者の権利を守り、職員と法人を守ることにもつながります。

なお、利用者の金銭を預かる場合の取扱いや、運営基準、自治体ごとの指導内容は、制度改正や運用の変更によって変わることがあります。実際に見直しを行う際は、最新の基準や通知を確認し、不明な点は指定権者(都道府県・市町村)や、弁護士などの専門家に確認したうえで進めてください。

権利擁護・虐待防止の考え方は 障害者施設における虐待防止の実践 と 「冗談のつもり」が虐待につながる前に、ご家族への報告・説明の整え方は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ、声を上げやすい仕組みは 苦情解決体制の見直し もあわせてご覧ください。

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