入院した利用者が、なかなか施設へ戻ってこられない|「退院してから連絡を待つ」をやめ、医療機関との退院前連携で通所再開を支えた生活介護事業所
※本記事は架空のモデル事例です。退院時期や通所再開の判断は本人の状態、本人・家族の意向、医師等の医学的判断、相談支援、事業所の支援体制等を踏まえて行う必要があります。稼働率を理由に無理な利用再開を促すものではありません。
はじめに――「退院したら連絡してください」で終わっていた
週5日生活介護を利用していたAさん。肺炎で入院しました。家族から連絡を受けた職員は、「分かりました。退院したらまたご連絡ください」と答えました。1か月、2か月、連絡がありません。ようやく家族へ確認すると、「もう退院しています。でも体力が落ちて、以前のように朝から夕方まで通えるか分からなくて……」とのことでした。
事業所側は、「退院したら元の週5日利用へ戻る」と思っていました。家族側は、「以前と同じように通えないなら利用できない」と思っていました。その結果、Aさんは退院後も長期間自宅で過ごしていました。ここに大きなすれ違いがあります。
入院前の状態に戻ってから通所するのではなく、通所を再開しながら地域生活を立て直すという選択肢が検討されていなかったのです。
1.改善前の状況――入院した瞬間、施設の支援が止まっていた
利用者が入院すると、欠席処理、家族からの連絡待ち、退院後に再開という流れでした。入院中の本人の状態、ADLの変化、食事形態、移動方法、服薬、疲労、医療的な注意点を事業所が把握する仕組みは十分ではありませんでした。そのため退院しても、「以前と同じ支援ができるか分からない」という不安から利用再開が遅れます。
2.原因分析――「退院=元通り」という前提があった
入院後、とくに高齢化した利用者では、入院前と状態が変化することがあります。歩行できていた人が車椅子になる、常食だった人の食形態が変わる、服薬が増える、疲れやすくなる、長時間利用が難しくなる、家族の介護負担が増える。ところが事業所は「退院日」しか確認していませんでした。必要なのは、「退院後、どのような生活になるのか」という情報です。
3.具体的な改善策①――入院時に「連絡を待つ人」を決める
入院したら、サービス管理責任者等、事業所内の担当者を明確にします。本人・家族の意向や必要な同意、関係機関との連携方法に配慮しながら、入院理由、おおよその見通し、退院後に変化しそうな支援を確認します。毎日病院へ連絡する必要はありません。重要なのは、「誰も状況を知らない」状態を作らないことです。
4.具体的な改善策②――退院前に「以前との違い」を確認する
退院が見えてきた段階で、必要に応じて本人・家族、相談支援専門員、医療機関等と情報を共有します。確認したいのは、移動、食事、排泄、服薬、疲労、コミュニケーション、医療的注意事項、送迎、利用時間などです。「通える・通えない」という二択ではなく、何を調整すれば通えるのかを考えます。
5.具体的な改善策③――「週5日フル利用」以外の再開方法を検討する
Aさんは入院前、週5日9時30分から15時30分利用していました。退院直後は体力的に難しい。そこで本人・家族や関係者と検討し、最初の週は週2日、昼食後まで、次の段階で週3日、状態を確認しながら時間を延ばすという段階的再開を検討します。
もちろん制度上の手続きや支給決定、個別支援計画等との整合を確認します。大切なのは、100%戻れるまで0%にしておく必要はない場合があるということです。
6.具体的な改善策④――「通所再開チェック」をつくる
再開時には、送迎車へ安全に乗れるか、施設内移動はどうするか、食事形態は変わったか、服薬内容は変わったか、休息場所が必要か、トイレ介助は変わったか、緊急時対応に変更はあるかなどを確認します。これを職員全員へ共有します。「久しぶりにAさんが来るらしい」という状態で当日を迎えないようにします。
7.具体的な改善策⑤――家族の「もう少し元気になってから」を具体化する
家族から、「もう少し元気になってからお願いします」と言われることがあります。当然、その意向は尊重します。しかし、「何ができるようになれば再開できそうですか」と一緒に整理することはできます。朝起きられること、送迎車に乗れること、昼食を安全に食べられること、2から3時間座って過ごせることなど、具体化すると、「半日なら試せるかもしれない」という選択肢が見える場合があります。
8.売上への効果――週5日利用者が3か月休む影響
説明用に1利用日当たりの事業所収入を12,000円と仮定します。週5日利用なら、5日×4週×12,000円で月額240,000円。3か月では72万円相当です。もちろん入院中の利用を売上のために急いで再開させるべきではありません。
しかし、本人が退院し、医学的にも通所可能で、本人も希望しているにもかかわらず、「以前と同じ状態ではないから」という理由だけで3か月利用できないとすれば、支援上も経営上も改善余地があります。例えば1か月早く、週2日の短時間利用から適切に再開できれば、本人の地域生活再構築を支援すると同時に、利用実績の回復にもつながります。
※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算はサービスの種類や障害支援区分、利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。
9.改善結果――「戻れるまで待つ」から「戻る過程を支える」へ
モデル事例では、入院利用者について退院前から支援条件を確認するようになりました。その結果、短時間から再開、利用曜日を一時的に調整、休憩を増やす、食事支援を変更、送迎方法を調整など、以前なら「まだ難しい」と判断していたケースでも、本人の希望に応じた再開方法を検討できるようになりました。
職員からも、「状態が変わって戻ってくるのが怖い」という声が減りました。事前情報があるからです。
10.コンサルタントの視点――入院は「欠席管理」ではなく生活の転換点
障害福祉施設で入院は、「今月の利用日数が減った」という経営数字として見えます。しかし本人にとっては、もっと大きな出来事です。身体機能、生活リズム、食事、服薬、家族関係、支援量、さまざまなものが変わる可能性があります。だからこそ入院を、「サービスが一旦止まる期間」ではなく、「次の地域生活を再設計する期間」として考える必要があります。この視点を持つことが、結果として長期利用休止を減らします。
11.今回のテーマに特化した実践アドバイス
過去1年間に入院した利用者について、入院日、退院日、通所再開日を並べてみてください。特に、退院日から通所再開までの日数を確認します。長いケースについて、医学的理由だったのか、本人の希望だったのか、施設側の準備不足だったのか、家族が不安だったのかを振り返ります。ここに改善余地が隠れています。
退院・利用再開支援チェックリスト
- 入院利用者の担当者が決まっている。
- 本人・家族の意向を確認している。
- 必要な同意のもと関係機関と連携している。
- 退院予定を把握できる仕組みがある。
- 入院前後のADL変化を確認している。
- 食事形態の変更を確認している。
- 服薬変更を確認している。
- 医療的注意事項を確認している。
- 送迎方法を再評価している。
- 長時間利用だけを前提にしていない。
- 段階的利用再開を検討できる。
- 職員へ変更点を共有している。
- 個別支援計画等との整合を確認している。
- 退院から再利用までの日数を把握している。
- 売上目的で無理な早期利用を促していない。
12.まとめ――施設へ「戻る」のではなく、生活へ「戻る」
入院前は週5日通っていた、だから退院したら週5日へ戻す、それができなければ休む。この二択では、本人の生活を十分に支えられない場合があります。退院した本人は、以前と同じ身体ではないかもしれません。だからこそ、2時間から、週1日から、昼食まで、休憩を入れながら、必要な医療連携を行いながら、本人に合った方法で地域生活を再構築していく。
生活介護事業所には、その過程を支援できる可能性があります。そしてこれは経営にもつながります。入院者の席を別の人で埋めることだけが稼働率対策ではありません。現在利用している人が、病気や入院を経験しても再び安心してサービスへ戻れる仕組みをつくることも、重要な稼働率対策です。
「退院したら連絡してください」で終わらせず、「退院後、どのような生活へ戻りたいですか。そのために私たちにできることは何ですか」と考える。医療連携と経営をつなぐ出発点は、そこにあります。
医療面の不安を理由に受け入れを見送っていた施設の見直しは 医療連携で受け入れを見直した事例、「いつもと違う」を医療につなぐ仕組みは 体調変化と医療連携のコラム、利用者の高齢化への備えは 高齢化対応の事例、欠席を理由ごとに見直す方法は 欠席と実利用率のコラム もあわせてご覧ください。
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