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お役立ちコラム

服薬事故を防ぐ|「薬を預かる施設」から「医療とつながる施設」へ

障害福祉施設の服薬事故を防ぐ医療連携の仕組みづくり|Engood合同会社

利用者の高齢化や重度化にともない、障害福祉の現場では服薬、受診、慢性疾患の管理など医療との接点が増えています

今回取り上げるのは、中止になった薬を配薬の直前まで準備していたというヒヤリ・ハットをきっかけに、情報の流れそのものを見直した事例です。幸い事故には至りませんでしたが、「たまたま気づけた」という状態が続いていました。

※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではありません。取り組みの効果は事業所の状況によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。

最新の処方が、どこにあるか分からなかった

この事業所では、処方の変更に関する情報が複数の経路から入っていました。ご家族からの口頭での連絡、持参された薬袋、受診の結果。それぞれが別のタイミングで届きます。

その結果、「いま何を飲んでいるのか」という最新情報がどこにあるのか分かりにくい状態になっていました。実際には、経験豊富な職員の記憶が安全を補っていた——つまり、その職員が休んだ日には同じ安全性が保てない状態です。

服薬の業務を7つの工程に分ける

「服薬」とひとまとめにすると、どこが弱いのかが見えません。そこで工程に分解します。

  1. 処方の変更
  2. 情報の到着
  3. 薬の受け取り
  4. 保管
  5. 準備(配薬)
  6. 服薬の確認
  7. 記録

分けて見ていくと、この事業所で弱かったのは次の3点でした。

  • 情報の入口が分散している(②)
  • 最新情報を更新する担当者が決まっていない(②〜④)
  • 準備のときに最新の処方と照合していない(⑤)

「配薬のときに気をつける」だけでは、②と③で入った情報のずれは防げません。どの工程が弱いのかが分かって初めて、打つ手が決まります。

前提の整理——福祉職はどこまで関われるのか

服薬の話をするとき、避けて通れないのが「福祉職がどこまで関わってよいか」です。ここは施設が独自に決められる部分ではありません。

厚生労働省の通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(平成17年7月26日 医政発第0726005号)では、医療機関以外の介護の現場等において原則として医行為ではないと考えられる行為が列挙されています。薬に関する部分は次のとおりです。

皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く。)、皮膚への湿布の貼付、点眼薬の点眼、一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)、肛門からの坐薬挿入又は鼻腔粘膜への薬剤噴霧を介助すること。

ただしこれは無条件ではありません。同じ通知では、患者の状態が次の3つの条件を満たしていることを医師・歯科医師または看護職員が確認していることが前提とされています。

① 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
② 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
③ 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと

そのうえで、これらの免許を有しない者による医薬品の使用の介助ができることを本人またはご家族に伝えている場合に、事前の本人またはご家族の具体的な依頼にもとづき、医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により患者ごとに区分し授与された医薬品について、医師または歯科医師の処方および薬剤師の服薬指導のうえ、看護職員の保健指導・助言を遵守した使用の介助、という組み立てになっています。

つまり「一包化されているから大丈夫」ではありません。容態が安定していること、経過観察が必要な状態でないこと、誤嚥などの専門的な配慮が要らないこと——これを医療職が確認していることが前提です。状態が変われば前提も変わります。

【重要】この通知はその後も追加の整理が示されています。また実際にどこまでを介助として行えるかは、利用者の状態、主治医・看護職員の指示、サービス種別によって異なります。判断に迷う場合は自己判断せず、主治医・看護職員・薬剤師に確認し、体制上の取扱いについては所管の行政窓口にもご確認ください。

整え方① 服薬情報を一本化する

まず、利用者ごとに「現在の服薬内容を確認する正式な一覧」を一つ決めます。そこを見れば最新が分かる、という場所を作るということです。

このとき処方が変わった日も一緒に記録します。日付があると「この情報はいつ時点のものか」が分かり、複数の情報が届いたときにどちらが新しいかを判断できます。

あわせて、誰がいつ最新性を確認するのかまで決めておきます。一覧を作っただけで更新の担当が決まっていないと、結局また記憶に頼ることになります。

整え方② 口頭情報だけで重要な変更を判断しない

送迎時にご家族から「あの薬、やめになりました」と言われることがあります。悪意はもちろんありませんが、口頭の情報だけを根拠に配薬の内容を変えるのは危険です

医療上重要な変更については、処方情報など確認できる形の情報を基本とし、判断に迷う場合は管理者や医療職へつなぐ、というルールにします。

ここで職員に伝えておきたいのは、「確認のために止めることは、仕事が遅いことではない」ということです。急いで進めて誤薬になるより、確認して5分遅れるほうがはるかによい。この認識が共有されていないと、現場は忙しさに流されます。

整え方③ 薬局を「連携先」として使う

意外と活用されていないのが薬局です。ご本人・ご家族の同意等を踏まえたうえで、薬剤師に相談できる関係をつくっておきます。

  • 複数の医療機関にかかっている場合の重複
  • 剤形(錠剤が飲みにくい、粉が苦手など)
  • 服用のタイミング
  • 飲みにくさや拒否の背景

「飲んでくれない」を支援の工夫だけで解決しようとする前に、薬の側で調整できる余地があるかを専門職に聞く。この経路があるだけで、現場の負担も利用者の負担も変わります。

▶ 代表は歯科医師として30年以上の経験があり、口腔ケアや摂食嚥下の観点からのご相談も承っています。詳しくは 障害者施設の口腔ケア・摂食嚥下障害支援 をご覧ください。

整え方④ 確認するポイントを決めておく

配薬の場面で何を確認するのかを、あらかじめ決めておきます。

  • 利用者(誰の薬か)
  • 薬剤(何を)
  • 量(どれだけ)
  • 時間(いつ)
  • 最新の指示内容(中止になっていないか)

とくに見落とされやすいのが「中止になった薬を外す」という作業です。薬が変わったとき、追加された薬には注意が向きますが、中止された薬は意識に上りにくい——今回のヒヤリ・ハットもここで起きています。「増えたもの」と「なくなったもの」の両方を確認する手順にしておきます。

整え方⑤ ヒヤリ・ハットを工程別に分析する

ヒヤリ・ハットが出たとき、「誰が」ではなく「どの工程で」起きたのかで分類します。処方の変更/情報の伝達/保管/準備/本人確認——先ほどの7工程に当てはめます。

すると、同じ工程に集中していることが見えてきます。職員個人を責めるのではなく、弱い工程を改善する——この形にしないと、報告そのものが上がってこなくなります。報告が減ることは、危険が減ることとは違います。

▶ ヒヤリ・ハットや不適切な支援を報告しやすい職場をつくる方法は 障害者施設における虐待防止の実践|形骸化させないための具体的な方法 で解説しています。

医療連携とは、福祉職が医療判断をすることではない

ここが本質です。医療連携という言葉から、福祉職が医療的な判断をできるようになることをイメージされることがありますが、そうではありません。

必要なのは、福祉職が判断してよい範囲と、医療専門職へ確認すべき範囲が明確になっていること。そして必要なときに実際につながれることです。

「迷ったら止まって確認する」を職員が選べるようにするには、止まったときの相談先が決まっていなければなりません。相談先が曖昧なままでは、現場は「たぶん大丈夫」で進めてしまいます。

実践のポイント

  • ① 薬が変わったら、追加だけでなく中止薬も確認する……なくなったものは意識に上りにくく、事故はここで起きます
  • ② お薬手帳や処方情報は「誰がいつ最新性を確認するか」まで決める……置き場所を決めるだけでは更新されません
  • ③ 服薬拒否・嘔吐・落薬時の連絡手順を事前に決めておく……起きてから考えると判断が遅れます
  • ④ 受診の結果を日常の支援へ戻す……受診記録が受診記録のまま終わっていないか確認します
  • ⑤ 医療機関・歯科・薬局の連絡先を定期的に更新する……担当者が変わっていることがあります

管理者のためのチェックリスト

  • □ 最新の服薬情報を確認する場所が一つに決まっている
  • □ 処方が変わったときの更新担当者が決まっている
  • □ 中止になった薬を外す手順がある
  • □ 疑問が生じたときの相談先が明確である
  • □ 服薬できなかった場合の対応手順がある
  • □ ヒヤリ・ハットを工程別に分析している
  • □ 福祉職が介助してよい範囲を、医療職に確認したうえで共有している
  • □ 利用者の状態が変わったときに、その範囲を見直している

まとめ——事故を防ぐのは「ミスをしない人」ではない

事故を防ぐ施設とは、ミスをしない人だけが集まった施設ではありません。迷ったときに止まり、確認し、必要な専門職へつながれる施設です。

そのためには、止まったときに見る場所(正式な一覧)と、つながる先(主治医・看護職員・薬剤師)が決まっている必要があります。どちらも、事故が起きてから整えるものではありません。

医療情報の流れを整えることは、利用者の安全だけでなく、ご家族の安心と、職員が「たぶん合っている」という不安を抱えずに働けることにもつながります。

あわせてお読みください。支援方法そのもののばらつきを整理する進め方は 職員によって支援が違う|「統一すべき支援」と「個別に判断する支援」を分けて標準化する、記録や情報共有の仕組みづくりは 記録システムを入れたのに残業が減らない、ご家族との情報のすれ違いを減らす方法は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ、夜間の緊急対応の体制づくりは グループホームの夜間緊急対応で失敗した施設 で解説しています。口腔ケア・摂食嚥下のご相談は 障害者施設の口腔ケア・摂食嚥下障害支援、運営体制の整備は サービス内容 もあわせて お問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

よくあるご質問

福祉職は、利用者の服薬にどこまで関わってよいのですか?
厚生労働省の通知(平成17年7月26日 医政発第0726005号)では、皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)、皮膚への湿布の貼付、点眼薬の点眼、一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用を含む)、肛門からの坐薬挿入、鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助が、原則として医行為ではないと考えられる行為として挙げられています。ただし無条件ではなく、容態が安定していること、連続的な経過観察が必要な状態でないこと、誤嚥の可能性など使用方法そのものに専門的な配慮が必要でないことを、医師・歯科医師または看護職員が確認していることなどが前提です。その後も追加の整理が示されているため、判断に迷う場合は主治医・看護職員・薬剤師に確認し、所管の行政窓口にもご確認ください。
「一包化されているから介助してよい」と考えてよいですか?
一包化されていることだけを根拠に判断するのは適切ではありません。通知では、容態が安定していること、副作用の危険性や投薬量の調整等のため医師や看護職員による連続的な容態の経過観察が必要な状態ではないこと、誤嚥の可能性など使用方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと、といった条件を医療職が確認していることが前提とされています。利用者の状態が変われば前提も変わりますので、定期的な見直しが必要です。
処方の変更情報が、いろいろな経路から入って混乱します。
利用者ごとに「現在の服薬内容を確認する正式な一覧」を一つ決めてください。あわせて処方が変わった日も記録しておくと、複数の情報が届いたときにどちらが新しいかを判断できます。さらに、誰がいつ最新性を確認するのかまで決めておかないと、一覧を作っても更新されず、結局は職員の記憶に頼ることになります。
家族から口頭で「あの薬はやめになりました」と言われたら、どうすればいいですか?
医療上重要な変更については、処方情報など確認できる形の情報を基本とし、口頭の情報だけで配薬の内容を変えないルールにしておくことをおすすめします。判断に迷う場合は管理者や医療職へつなぎます。あわせて職員には「確認のために止めることは、仕事が遅いことではない」と伝えておくことが大切です。
服薬事故は、配薬のときに気をつければ防げますか?
配薬の場面だけでは防ぎきれません。服薬の業務を「処方の変更/情報の到着/薬の受け取り/保管/準備/服薬の確認/記録」の7工程に分けてみてください。情報の入口が分散している、最新情報を更新する担当が決まっていない、準備のときに最新の処方と照合していない——といった弱い工程が見えてきます。とくに、薬が変わったときは追加された薬に注意が向きやすく、中止になった薬を外す作業が見落とされがちです。
ヒヤリ・ハットは、どう扱えばいいですか?
「誰が」ではなく「どの工程で」起きたのかで分類してください。処方の変更、情報の伝達、保管、準備、本人確認といった工程に当てはめると、同じ工程に集中していることが見えてきます。職員個人を責める形にすると報告そのものが上がってこなくなりますが、報告が減ることは危険が減ることとは違います。
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