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お役立ちコラム

記録システムを入れたのに残業が減らない|ICTの成果は「何をやめられたか」で測る

障害福祉施設のICT記録システムを業務改善につなげる|Engood合同会社

障害福祉の現場でもICT化が進んでいます。支援記録システム、勤怠管理、シフト作成、請求ソフト、タブレット端末、チャットツール——選択肢は以前より格段に増えました。

ところが導入した事業所から、こうしたご相談をいただくことがあります。「システムを入れたのに残業が減らない」「紙の方が早かったという職員がいる」「結局、パソコンにも紙にも書いている」

※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の数値・内容は改善の考え方を分かりやすくするための想定値です。取り組みの効果は事業所の状況やシステムの仕様によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。

タブレットを入れたのに、ポケットには紙のメモ

想定するのは、約30名の利用者が通う障害福祉事業所です。支援記録システムとタブレット端末を導入し、法人としては「これで記録業務が効率化する」と期待していました。

しかし半年後も、職員は利用者の帰宅後にパソコンへ向かって記録入力を続けています。さらに現場を見ると、タブレットを導入したにもかかわらず、職員のポケットには手書きのメモ用紙が入っていました

問題はICTそのものではありませんでした。紙で行っていた業務の流れを変えないまま、入力先だけをデジタルへ変更していたのです。

「紙に書く→入力する→申し送りで話す」が全部残っていた

この事業所では、日中の利用者の様子を職員が小さなメモに記録していました。食事量、排泄、活動参加、体調変化、家族からの連絡、気になった行動。そして利用者の帰宅後、そのメモを見ながら支援記録システムへ入力します。さらに重要事項は夕方の申し送りで口頭共有し、場合によっては別の一覧表にも記入します。

つまり一つの出来事について、手書きメモ → システム入力 → 口頭申し送り → 別帳票への転記と、何度も情報を扱っていました。

職員からすれば「システム入力という仕事が増えた」という感覚になります。ICT化によって仕事が減るどころか、紙の仕事にデジタルの仕事が追加されていたわけです。

▶ そもそもICTを入れるの順番——不要な業務をデジタル化しても不要な仕事が速くなるだけなので、先に業務を整理してから導入する——という原則は 「人を増やす前」に業務の棚卸しを で解説しています。本記事は、すでに導入してしまったICTをどう生かすかを扱います。

原因は「情報の入口と出口」が決まっていないこと

利用者に関する一つの情報が、どこから入りどこへ流れるのかを追ってみます。たとえば「昼食時にむせ込みがあった」という情報です。

現場職員がメモし、支援記録へ入力し、看護職へ口頭で伝え、夕方の申し送りでも共有し、必要に応じて家族へ伝え、翌朝また別の職員が確認する。この流れ自体に必要なものもあります。

問題は、どの記録が正式な情報なのかが決まっていないことでした。だから職員は「念のため紙にも書いておこう」「念のため口頭でも伝えよう」と情報を重複させます。

これは職員がICTを使えないからではありません。情報が抜けることを恐れて、職員自身が安全策として二重・三重の記録を作っていたのです。ここを理解しないまま「二重記録をやめてください」と言っても、現場は従えません。

整え方① まず「なくす紙」を決める

ICT化というと「何をシステムへ入れるか」から考えがちですが、順番を逆にします。導入によって何をやめるのかを先に決めるのです。

支援記録をシステムへ一本化するなら、同じ内容を記録する紙帳票は原則として廃止します。一つの帳票を廃止するだけでも、記入・印刷・ファイリング・保管・廃棄という複数の業務がまとめてなくなります。

【重要】ただし何でも廃止してよいわけではありません。法令上必要な書類、災害時やシステム障害時に必要なもの、現場で紙の方が安全性の高いものまで無理に廃止する必要はありません。保存が必要な書類の種類や期間はサービス種別・自治体の運用によって異なるため、廃止の判断に迷う場合は所管の行政窓口でご確認ください。大切なのは「デジタル化したのに紙も残す」を無条件に続けないことです。

整え方② 「あとで入力する」から「その場で短く入力する」へ

利用者の帰宅後に記録が集中する大きな原因は、日中の出来事をすべて後から入力していたことでした。

そこで、タブレットを持つこと自体を目的にせず、入力のタイミングを見直します。活動終了後、昼食後、送迎出発前など、業務の区切りに短時間の記録時間を設定します。

ただし、利用者の支援中に画面ばかりを見ている状態は避けなければなりません。ICT化は利用者との時間を減らすためのものではないからです。支援を中断しない範囲で、記憶が新しいうちに短く記録する——この考え方に変えます。

整え方③ 長文記録をやめ、「定型+特記事項」にする

職員によっては、毎日の記録を非常に丁寧な文章で書いていることがあります。丁寧さ自体は悪いことではありません。ただ「昼食は全量摂取された。その後、歯磨きを実施し、午後の活動に参加された」というほぼ同じ文章を毎日入力する必要があるかは、検討の余地があります。

食事量、排泄、活動参加、健康状態といった定型的な項目は、選択式や定型入力を活用します。文章で残すのはいつもと違うこと、支援の判断に必要なこと、次の職員へ伝えるべきことを中心にします。

記録の目的は文章量を増やすことではありません。次の支援に必要な情報を残すことです。

整え方④ システムを「保管庫」ではなく申し送りにも使う

システムへ入力しているのに、朝夕の申し送りで記録内容を最初から読み上げているケースがあります。これでは記録する仕事と申し送る仕事を別々に行っている状態です。

そこで「全員が口頭で聞かなければならない情報」だけを申し送りの対象にします。重大な体調の変化、事故、支援方法の変更、家族からの重要な要望、安全に関わる情報。それ以外はシステム上で確認します。

ICTの価値は保存できることだけではありません。必要な人が、必要な情報へアクセスできることにあります。

▶ 申し送りを「全員共有/担当者共有/管理者共有」に分ける考え方は 「探す・待つ・聞く・戻る」を減らす|業務時間ではなく「中断」を測る業務改善 で解説しています。

整え方⑤ 「ICTが苦手な職員」を置き去りにしない

導入で最も注意したいのが、職員間の習熟度の差です。操作が得意な職員はすぐ慣れますが、「間違えて消してしまいそう」「どこを押せばいいか分からない」という職員もいます。

ここで「慣れてください」だけで終わらせると、その職員は紙へ戻ります。そして紙が残れば、二重記録も残ります。

対策は、長時間の操作研修ではありません。ログイン/記録入力/修正/申し送り確認/ログアウト——日常的に使うこの5つ程度の操作だけを一枚にまとめ、まずはこの5つを迷わず操作できる状態にします。

高度な機能を使えることより、全職員が最低限の操作を同じようにできることを優先します。一人でも紙に戻る職員がいると、その分の二重管理が組織に残り続けます。

整え方⑥ 障害時の手順を先に決めておく

意外に効くのがこれです。ICTへ一本化するほど、システムが使えないときの対応が重要になります。

「システムが使えないときはどう記録し、復旧後にどう処理するか」を事前に決めておく。これがあると、職員は安心して紙との二重管理をやめられます

逆に言えば、障害時の手順が決まっていないから、職員は「念のため」紙を残しているとも言えます。二重記録をやめさせたいなら、やめても大丈夫だと言える根拠を先に用意することです。

成果は「何台導入したか」ではなく「何をやめられたか」

ICT導入では、「タブレットを10台導入した」「クラウド型システムへ移行した」という話が成果として語られがちです。しかしそれは設備投資の結果であって、業務改善の結果ではありません。

本当に確認したいのは、導入したことで何の仕事がなくなったのかです。

  • 紙への記録がなくなった
  • 転記がなくなった
  • 集計がなくなった
  • ファイルを探す時間がなくなった
  • 同じ情報を何度も説明する必要がなくなった

ここまで到達して初めて、投資の効果が現れます。実際、記録を探す場面でも変化が出ます。以前はファイルを取り出して該当日を探していたのが、検索機能で必要な記録を確認できる。個別支援計画のモニタリングでも、過去の変化を追いやすくなります。ICTが単なる記録装置ではなく、支援を振り返るための情報基盤になるということです。

一方で、すべてをデジタル化すればよいわけでもありません。障害福祉の中心は利用者支援です。職員が画面入力に追われて利用者を見る時間が減ったのであれば、本末転倒になります。ICTは人の代わりに支援するものではなく、人が支援へ時間を使えるようにする道具——この原則は外せません。

実践のポイント

  • ① 導入前に「廃止する業務リスト」を作る……できることを並べるだけでなく「この紙をなくす」「この転記をやめる」まで決めます
  • ② 重複入力を洗い出す……一つの情報をメモ・支援記録・日報・申し送り・別帳票と複数回扱っていないか確認します
  • ③ 導入前後を数字で比べる……記録時間、残業時間、紙の使用量、情報検索の時間、転記の回数など
  • ④ 苦手な職員を責める前に環境を見る……端末の置き場所、ログイン方法、入力項目の数、文字サイズ、通信環境に問題がないか確認します
  • ⑤ 障害時の代替手順を決めておく……決まっていれば、職員は二重管理をやめやすくなります

ICT業務改善チェックリスト

  • □ 同じ情報を紙とシステムへ二重記録していないか
  • □ ICT導入によって廃止した帳票・業務があるか
  • □ 正式な記録がどこにあるかを全職員が理解しているか
  • □ 記録入力が終業直前へ集中していないか
  • □ 定型情報と特記事項を分けて記録しているか
  • □ システムの情報を申し送りにも活用しているか
  • □ 職員が必要な過去記録を検索できるか
  • □ ICTが苦手な職員への操作支援があるか
  • □ システム障害時の代替手順が決まっているか
  • □ 導入後の残業時間や転記回数を評価しているか

まとめ——デジタル化とは、紙を画面に変えることではない

紙の支援記録をタブレットへ入力する。紙の日報をシステムの日報へ変える。紙の予定表を画面で表示する。それだけでは、業務そのものはほとんど変わりません。場合によっては「紙の仕事+デジタルの仕事」となり、かえって負担が増えることさえあります。

ICT化で最初に考えるべきなのは「このシステムで何ができるか」ではありません。「このシステムを使えば、今やっている何をやめられるか」です。

一回の転記、一枚の印刷、一回のファイル探し、一度の重複した申し送り。小さな作業でも、何十人もの職員が毎日繰り返していれば大きな時間になります。

そして削減した先にあるべきなのは、さらに多くの事務仕事ではありません。利用者の表情を見る。話を聞く。活動へ一緒に参加する。支援について職員同士で考える。人にしかできない仕事へ時間を戻すことです。

ICT導入の成功を「タブレットを何台入れたか」で評価するのではなく、「導入前にはあった、どの仕事がなくなったか」で評価してみてください。

あわせてお読みください。ICTを入れる前の業務の棚卸しは 「人を増やす前」に業務の棚卸しを、探す・待つ・聞く・戻るという中断を減らす方法は 「探す・待つ・聞く・戻る」を減らす、業務時間の内訳から改善幅までを数字で追った実例は 職員一人あたりの生産性を上げた施設がやった業務改善、記録の精度を上げて国保連の返戻をなくした実例は 毎月の請求ミスを「ゼロ」にした仕組み で解説しています。業務改善・ICT活用のご相談は サービス内容 もあわせて お問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

よくあるご質問

記録システムを導入したのに残業が減りません。なぜでしょうか。
紙で行っていた業務の流れを変えないまま、入力先だけをデジタルへ変えている可能性があります。手書きメモ→システム入力→口頭申し送り→別帳票への転記、と一つの出来事を何度も扱っていると、紙の仕事にデジタルの仕事が追加された状態になります。まずは一つの情報がどこから入りどこへ流れるかを追ってみてください。
職員が紙とシステムの両方に書いてしまいます。
どの記録が正式な情報なのかが決まっていないことが原因であることが多くあります。職員は情報が抜けることを恐れて、安全策として二重・三重の記録を作っています。ICTを使えないからではありません。正式な記録の場所を明確にし、あわせてシステム障害時の代替手順を決めておくと、職員は安心して紙をやめやすくなります。
ICT化にあたって、紙の帳票はすべて廃止してよいですか?
すべてではありません。法令上必要な書類、災害時やシステム障害時に必要なもの、現場で紙の方が安全性の高いものまで無理に廃止する必要はありません。保存が必要な書類の種類や期間はサービス種別・自治体の運用によって異なるため、判断に迷う場合は所管の行政窓口でご確認ください。避けたいのは「デジタル化したのに紙も残す」を無条件に続けることです。
記録の入力が終業前に集中してしまいます。
日中の出来事をすべて後から入力していることが原因であることがあります。活動終了後、昼食後、送迎出発前など、業務の区切りに短時間の記録時間を設定する方法があります。ただし利用者の支援中に画面ばかりを見る状態は避けてください。支援を中断しない範囲で、記憶が新しいうちに短く記録するという考え方です。
ICTが苦手な職員には、どう対応すればいいですか?
長時間の操作研修より、日常的に使う操作だけを絞るほうが効果的です。ログイン/記録入力/修正/申し送り確認/ログアウトの5つ程度を一枚にまとめ、まずはこの5つを迷わず操作できる状態にします。「慣れてください」で終わらせるとその職員は紙へ戻り、その分の二重管理が組織に残り続けます。あわせて端末の置き場所、入力項目の数、文字サイズ、通信環境など、使用環境に問題がないかも確認してください。
ICT導入の効果は、何で評価すればいいですか?
「何台導入したか」ではなく「何の仕事がなくなったか」で評価してください。紙への記録がなくなった、転記がなくなった、集計がなくなった、ファイルを探す時間がなくなった、同じ情報を何度も説明する必要がなくなった——ここまで到達して初めて投資の効果が現れます。記録時間、残業時間、紙の使用量、情報検索の時間、転記の回数を導入前後で比べると見えやすくなります。
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