障がい者施設さま向け|経営の再生・改善を現場目線でまるごと支援 神奈川中心 × 全国対応|初回相談0円
改善事例

大雨警報が出たのに「誰から帰すか」を決められなかった|BCPを“保管する書類”から“動ける計画”へ変えた生活介護事業所

※本記事は、障害福祉施設で起こり得る課題をもとに構成した架空のモデル事例です。特定の施設・法人における実績ではありません。改善結果等は、改善手法を具体的に示すための想定です。実際の防災対応では、所在地のハザード、自治体の避難情報、個々の利用者の状態等に応じた計画が必要です。

はじめに――BCPはあった。それでも誰も動けなかった

今回のテーマは、前回の「虐待防止・権利擁護」とは分野を変え、防災・BCP(業務継続計画)と利用者の安全確保を取り上げます。舞台は、送迎を利用する人が多い定員20名の生活介護事業所です。

梅雨時期のある日、朝から強い雨が降っていました。昼過ぎにはさらに雨脚が強くなり、職員から、「早めに利用者さんを帰した方がいいのではないですか」という意見が出ました。ところが管理者はすぐに判断できません。送迎車は3台。車椅子の利用者がいる。自宅に家族が戻っていない人もいる。一人暮らしの利用者もいる。道路の一部は冠水する可能性がある。職員自身にも、自宅が遠方の人がいました。

「では誰から送りますか」と聞かれた瞬間、会議が止まりました。Aさんは自宅が遠い。Bさんは車椅子。Cさんは家族の帰宅が17時。Dさんは自宅近くに川がある。Eさんは急な予定変更が苦手で、混乱する可能性がある。全員を同時に帰すことはできません。

結局、その日は天候が大きく悪化せず通常送迎で対応できました。しかし管理者は気づきました。「BCPは作った。しかし、災害が起こったときに誰をどう動かすかまでは決めていなかった」のです。

改善前の状況――40ページのBCPが棚に置かれていた

事業所にはBCPがありました。地震、風水害、感染症、停電、連絡体制、備蓄品、避難場所。必要事項はかなり記載されています。

しかし職員へ、「大雨になったとき、最初に何をしますか」と尋ねると答えが分かれました。「管理者の指示を待ちます」「家族へ電話します」「送迎を始めます」「避難所へ行くのではないですか」。さらに、「管理者が不在だったら誰が決めますか」と聞くと、誰も明確に答えられませんでした。

問題はBCPがないことではありません。BCPに書かれている内容と、現場職員が実際に取る行動がつながっていないことでした。

原因分析――災害を「施設全体」で考え、利用者一人ひとりで考えていなかった

原因を整理すると、大きく四つありました。

第一に、「避難する・しない」しか考えていませんでした。実際の災害対応では、通常営業を続ける、早期帰宅する、施設内で待機する、別の場所へ避難する、家族へ引き渡すなど複数の選択肢があります。ところが計画では「避難場所」が決められているだけでした。

第二に、利用者ごとの避難条件が整理されていませんでした。車椅子、歩行介助、医療機器、服薬、強い不安、コミュニケーション上の配慮、家族への引き渡し条件。災害時には平常時以上に個別性が重要になります。しかし、個別支援計画とBCPが別々に管理されていました。

第三に、送迎車を「避難資源」として考えていませんでした。通常は3台の車両で送迎しています。しかし災害時に、どの車に車椅子利用者を乗せるのか、運転できる職員は誰か、道路が通行できない場合はどうするか、誰を先に送るのかという運用までは決まっていませんでした。

第四に、管理者に判断が集中していたことです。最も大きな問題でした。「何かあったら管理者へ連絡する」というルールです。しかし災害時に管理者が施設にいる保証はありません。電話がつながるとも限りません。BCPが存在していても、管理者一人がいなければ動けない組織では実効性が低いのです。

改善策① 「災害が起きてから」ではなく「起きる前」に動く基準をつくる

最初に見直したのは、避難方法ではなく判断を始めるタイミングでした。台風や大雨は、地震と違い、事前に情報を得られる場合があります。

そこで施設では、自治体の防災情報、気象情報、交通状況などを確認しながら、「情報収集を強化する段階」「家族・職員へ連絡準備をする段階」「送迎変更や早期帰宅を検討する段階」「施設内待機や避難を判断する段階」と、行動を段階化しました。

重要なのは全国共通の数値を機械的に決めることではありません。施設の所在地、河川、崖、道路事情、利用者特性を踏まえて判断基準を作ることです。

改善策② 利用者ごとに「災害時個別シート」を作成する

BCPとは別に、一人一枚で確認できる簡易シートを作りました。記載するのは例えば、移動方法、車椅子等の使用、コミュニケーション方法、服薬等で必要な情報、緊急連絡先、家族への引き渡し方法、自宅までの送迎で特に注意する事項、急な予定変更時の配慮、災害時に携行する必要があるものなどです。

目的は利用者を危険度で順位付けすることではありません。非常時に、その人へ必要な支援を短時間で確認できるようにすることです。

改善策③ 「誰から帰すか」ではなく「誰が、どの方法なら安全か」を決める

当初、職員は利用者へ1番、2番、3番と帰宅順位をつけようとしました。しかし、それでは災害の種類によって対応できません。

そこで、家族への早期引き渡しが可能な人、施設待機の方が安全な可能性がある人、移動に複数職員が必要な人、特定車両が必要な人、自宅周辺の状況確認が特に重要な人というように、必要となる対応条件を整理しました。

「障害が重い人から先」という単純な基準にはしません。災害の種類、時間帯、道路状況、家族の受け入れ状況によって最適な対応は変わるからです。

改善策④ 家族に「災害時はどうしますか」と事前確認する

施設だけで計画を作っても成立しません。そこで家族面談等の機会に、大雨等で早期送迎となった場合に受け入れ可能か、家族と連絡がつかない場合はどうするか、本人が施設にいる時間帯に大規模災害が起きた場合、どのような引き渡しを想定するか、緊急連絡先は最新かなどを確認しました。

すると、「昼間は家に誰もいません」「母は車を運転できません」「父が勤務中は電話に出られません」など、BCPだけでは分からない事情が見えてきました。

家族の連絡先を持っていることと、災害時に家族と連携できることは同じではありません。

改善策⑤ 「管理者不在訓練」を実施する

今回の改善で最も効果を期待したのが、この訓練です。訓練当日は、あえて管理者が判断しません。想定は、「午後2時。大雨が強まり、事業所周辺の道路状況が悪化し始めた」としました。

職員だけで、誰が情報収集するか、誰が家族へ連絡するか、誰が利用者を支援するか、誰が車両を準備するか、誰が全体判断を代行するかを決めてもらいます。

すると、電話担当が利用者対応も兼ねていたり、車の鍵の場所を一部職員しか知らなかったりと、小さな問題が次々に発見されました。これこそ訓練の目的です。訓練は上手に避難するためではなく、計画の欠陥を見つけるために行うものと位置づけました。

改善策⑥ 備蓄を「3日分あります」で終わらせない

備蓄倉庫には水や食料がありました。しかし実際に確認すると、誰が保管場所を知っているか、賞味期限はどうか、利用者が食べられるものか、開封に器具が必要ではないか、停電時でも使えるかといった問題がありました。

さらに障害福祉では、一般的な防災用品だけでなく、利用者個々の特性を考える必要があります。そこで年に一度、備蓄品を「数える」のではなく、実際に使える状態か確認する日を設けました。

改善結果――BCPが「読む文書」から「判断する道具」へ変わった

モデル事例では、改善後の訓練で、以前より役割分担を早く決められるようになった想定です。しかし成果を、「避難時間が○分短縮した」だけでは評価しませんでした。より重要だったのは、「誰に確認すればいいか分からない」「管理者が来るまで待つ」という場面が減ったことです。

職員からも、「BCPは災害が起きたときに読むものだと思っていました」「普段から家族に確認しておくことが大切だと分かりました」という意見が出ました。

また訓練後には必ず、できたことではなく「困ったこと」を先に集めるようにしました。困ったことが多く出る訓練ほど、改善材料が多く見つかった訓練だからです。

※上記はモデル事例としての想定です。施設の所在地や利用者の状態によって必要な対応・結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。

コンサルタントの視点――良いBCPは「分厚いBCP」ではない

BCPを作成すると、どうしても文書を完成させることが目的になりがちです。しかし災害発生時に、40ページの文書を最初から読む余裕はありません。

必要なのは、誰が判断するか、何を確認するか、誰へ連絡するか、利用者ごとに何が必要か、管理者がいなければ誰が代行するかが現場で分かることです。

特に障害福祉施設では、「全員を一斉に避難させる」という発想だけでは不十分です。歩ける人、車椅子の人、環境変化に強い不安を示す人、意思疎通に個別の方法が必要な人、医療的な配慮が必要な人。一人ひとり条件が違います。

だからこそ、BCPという法人・事業所全体の計画と、個別支援という一人ひとりの計画をつなげることが重要です。

今回のテーマに特化した実践アドバイス

  • BCPを閉じたまま職員へ質問してください。「今、大雨で帰宅困難になったら最初に何をしますか」。答えられなければ、文書と実務がつながっていません。
  • 管理者を訓練から一度外してください。管理者が全部指示する訓練では、組織の弱点が見えません。
  • 利用者一人を選び、避難を最初から最後まで想像してください。玄関までどう移動するか、何を持つか、どの車に乗るか、どこへ行くか、誰へ引き渡すか。具体化すると課題が見えます。
  • 送迎ルートとハザードを重ねて確認してください。施設そのものが安全でも、送迎経路が危険になる可能性があります。
  • 家族の緊急連絡先を「電話番号確認」だけで終わらせないでください。誰が迎えに来られるのか、日中に連絡可能なのは誰かまで確認します。
  • 訓練後は成功点より困った点を集めてください。「うまくできました」で終了する訓練は改善につながりにくくなります。
  • 新任職員にもBCPの役割を割り当ててください。災害はベテラン職員がそろっている日に起こるとは限りません。

防災・BCP実効性チェックリスト

  • 職員がBCPの保管場所を知っているか。
  • 管理者不在時の判断者が決まっているか。
  • 災害時の職員の役割分担が明確であるか。
  • 利用者ごとの移動方法を確認しているか。
  • 利用者ごとの必要な配慮を短時間で確認できるか。
  • 家族への引き渡し方法を確認しているか。
  • 緊急連絡先を定期的に更新しているか。
  • 送迎ルート上の災害リスクを確認しているか。
  • 車両の鍵や必要物品を複数職員が扱えるか。
  • 備蓄品を実際に使用できる状態か確認しているか。
  • 利用者の特性に応じた備蓄を検討しているか。
  • 停電時の対応を確認しているか。
  • 通信手段が使えない場合の対応を検討しているか。
  • 管理者不在を想定した訓練を行っているか。
  • 訓練後に課題を記録しBCPを更新しているか。
  • 個別支援とBCPが切り離されていないか。

まとめ――災害時に利用者を守るのは、BCPそのものではなく「BCPを使える組織」

BCPがある。備蓄もある。避難場所も決めている。それでも十分とは限りません。本当に確認したいのは、「今この瞬間に災害が起きても、職員が動けるか」です。

特に障害福祉施設では、利用者全員を同じ方法で避難させることはできません。Aさんには車椅子が必要。Bさんには予定変更を視覚的に伝える必要がある。Cさんは家族がすぐ迎えに来られない。Dさんは自宅へ帰すより施設待機が適切な状況も考えられる。この違いを把握して初めて、BCPは利用者を守る計画になります。

そして、もう一つ重要なのが管理者です。管理者が優秀であるほど、「何かあったら管理者に聞けばいい」という組織になりやすいことがあります。しかし災害は、管理者が施設にいる時間を選んではくれません。だからBCPで最初に確認すべきなのは、「管理者が何をするか」だけではなく、「管理者がいなくても、施設は動けるか」です。

次回の防災訓練では、予定どおり避難して終了するだけでなく、あえて一つ条件を変えてみてください。「今日は管理者がいません」「送迎車が1台使えません」「家族1名と連絡がつきません」「いつもの避難経路が通れません」。その瞬間に職員が止まったところこそ、次に改善すべき場所です。

良いBCPとは、完成したBCPではありません。訓練するたびに弱点が見つかり、書き換えられ続けるBCPです。その積み重ねが、予想できない災害の中でも、利用者一人ひとりの安全と生活を守れる障害福祉施設につながります。

「何かあったら管理者へ」を減らし、職員が判断できるようにする育て方は 管理者に判断が集中する施設、車の鍵の場所のように「一部の職員しか知らない」をなくす方法は 「〇〇さんが休むと分からない」をなくす、送迎を距離ではなく時間とルートで組み直した例は 送迎エリアを“時間とルート”で再設計した生活介護、前回の権利擁護・虐待防止のモデル事例は 「冗談のつもり」が虐待につながる前に もあわせてご覧ください。

BCPの見直しや、管理者がいなくても動ける体制づくりのご相談は、サービス内容もあわせて、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

Contact

障がい者施設の経営、
Engoodが再生まで伴走します。

「稼働率が上がらない」「赤字が続いている」「加算を取りこぼしている」——そんな施設さまへ。
初回のご相談・経営診断は無料です。現状の見える化から、わかりやすくご案内します。