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「〇〇さんが休むと分からない」をなくす|主担当+副担当と引き継ぎ1枚で業務の属人化を解く

障害福祉施設の業務の属人化を主担当・副担当と引き継ぎシートで解消する|Engood合同会社

業務改善というと、記録時間の短縮、ICTの導入、申し送りの効率化などが注目されます。しかし、もう一つ見逃せない問題があります。業務の属人化です。

「〇〇さんが休みなので分かりません」——この言葉が出る場面が、どのくらいあるでしょうか。

※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の数値・内容は改善の考え方を分かりやすくするための想定値です。取り組みの効果は事業所の状況によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。

人は足りているのに、特定の職員だけが残業している

想定するのは職員約25名の障害福祉事業所です。人員配置基準の上で大きな問題はなく、極端な人員不足でもありません。それでも、特定の職員だけが毎日のように残業していました。

さらにその職員が有給休暇を取ると、管理者への質問が急に増えます。「この書類はどこにありますか」「このご家族への連絡はどうなっていますか」「来週の行事の準備は誰がするんですか」。

管理者は当初「責任感が強くて仕事を抱え込んでしまう職員だから」と考えていました。しかし業務を調べると、本人の性格だけが原因ではありませんでした。「誰が担当するか」は決めていても、「その人がいないとき誰ができるか」を決めていなかったのです。

業務分担表はある。それでも仕事は集中していた

この事業所にも業務分担表はありました。防災担当、行事担当、車両担当、備品担当、研修担当、家族会担当——それぞれ名前が書かれており、一見すると役割分担は明確です。

ところが実際には「担当者=その仕事を全部行う人」になっていました。車両担当者は車検の時期、点検、修理、保険関係、送迎車の不具合までほぼ一人で管理し、家族会担当者は案内文の作成、出欠確認、会場準備、家族からの問い合わせまで一人で対応していました。

担当者が勤務している間は問題ありません。しかし休むと業務が止まります。さらに長年担当している職員ほど「自分でやった方が早い」と考えるようになり、仕事はますますその人へ集中していきます。

属人化は3種類ある

定期業務を洗い出します。日常業務だけでなく、毎週の仕事、毎月の仕事、3か月ごとの仕事、年1回の仕事まで。すると、想像以上に多くの「担当者しか分からない仕事」が出てきます。

整理すると、属人化には3つの種類がありました。

  • 方法の属人化……担当者しか手順を知らない
  • 情報の属人化……担当者のパソコンや個人ファイルにしか情報がない
  • 時期の属人化……担当者しか「いつやる仕事か」を知らない

この3つが重なると、その職員が突然休職・退職したときに業務が止まります。とくに見落とされやすいのが3つ目の「時期の属人化」です。手順書があっても、いつやるべき仕事なのかを誰も知らなければ、実施されないまま過ぎていきます。

必要なのは「担当者を変えること」ではなく、担当者が変わっても仕事が続く仕組みを作ることでした。

整え方① 「1か月休んだら困る仕事」を全職員に聞く

管理者が業務一覧を作るところから始めません。まず職員へこう聞きます。

「〇〇さんが1か月休んだら困る仕事は何ですか?」

この質問をすると、属人化している業務が驚くほど見つかります。「請求関係はあの人しか分からない」「車両関係はあの人」「家族会はあの人」「行事の写真データはあの人のパソコンにある」——次々に出てきます。

これを一覧にし、その職員が不在になったときの影響を大・中・小で分類して、影響の大きいものから手をつけます。すべてを同時に直そうとすると続きません。

整え方② 「主担当+副担当」にする

すべての仕事を複数人で行うと非効率になります。そこで「主担当1名+副担当1名」を基本にします。

ここでのポイントは、副担当が毎回一緒に仕事をする必要はないということです。副担当が理解しておくのは次の4点で足ります。

  • どこに資料があるか
  • いつ行うか
  • 誰へ連絡するか
  • 最低限どのような手順か

車両管理であれば、副担当も車検の時期と連絡先を確認できる状態にしておく。これだけでも「担当者が休みだから分からない」という状態は大きく減ります

整え方③ マニュアルではなく「引き継ぎ1枚シート」

属人化をなくそうとすると「すべてマニュアル化しましょう」となりがちです。しかし年1回しか行わない業務に10ページのマニュアルを作っても、更新されなくなります

そこで重要な業務について、A4一枚程度の「引き継ぎシート」を作ります。書くのは次の項目です。

  • 業務名/実施時期
  • 主担当/副担当
  • 必要書類の保存場所/連絡先
  • 基本手順/注意事項
  • 完了後に残す記録

目的は完璧なマニュアルを作ることではありません。担当者が突然いなくなっても、次の人が仕事を再開できる情報を残すことです。

整え方④ 年間業務を「人」ではなくカレンダーで管理する

担当者が「そろそろこの時期だからやらなければ」と覚えている仕事は、意外に多くあります。これが「時期の属人化」です。

そこで年間の業務をカレンダー化します。新年度の書類確認、設備の点検、防災関連の確認、次年度の研修計画の準備、年度末に向けた準備——事業所の実情に応じて一覧にし、「担当者が覚えているから実施される」状態をなくします

これによって管理者も、来月どんな仕事が発生するかを事前に把握できるようになります。

▶ 年1回の手続きを「いつもの運営の延長」にした実例は 指定更新を初めて経験した法人|6年に1度の更新を「いつもの運営の延長」にするまでの3か月、月次の自主点検を仕組みにした実例は 運営指導で「改善勧告」を受けた施設が繰り返す指摘を断った方法 をご覧ください。

整え方⑤ 担当を毎年少しずつ入れ替える

長年同じ職員が同じ業務を担当すると、専門性は高まりますが、同時に属人化も進みます。

そこで、すべてを一斉に変えるのではなく、今年の副担当が翌年の主担当になり、前年度の主担当は必要に応じて助言する——という形で、少しずつ移していきます。

これには人材育成の効果もあります。新人教育、研修、車両・設備の管理、家族行事の運営といった複数の業務を経験することで、職員は事業所全体の運営を理解できるようになります。属人化への対策が、そのまま次の主任・管理者を育てる機会になるということです。

▶ 管理業務を「見る・一緒にやる・任せる」の3段階で主任へ移していく方法は 主任はいるのに管理者の仕事が減らない で解説しています。

変わるのは「担当者が休んだとき」と「有給の取りやすさ」

取り組みを進めると、変化がはっきり出るのは担当者が休んだときです。以前は「あの人が戻ってきてから確認します」となっていた業務が、副担当で進められるようになり、管理者への質問も減ります。

それ以上に大きいのが、有給休暇への心理的な抵抗が下がることです。以前は担当者自身が「自分が休むと仕事が止まる」と感じ、休める状況でも出勤することがありました。「副担当が分かっているから休める」状態になると、業務の効率だけでなく職員の定着にも効いてきます。

▶ 残業や働きやすさが定着に与える影響は 職員が「この施設で働き続けたい」と思う瞬間、業務そのものの棚卸しは 「人を増やす前」に業務の棚卸しを で解説しています。

「その人しかできない」は、褒め言葉とは限らない

「この仕事はあの人に任せれば安心」という言葉がよく使われます。専門性の高い職員がいることは大きな財産です。ただ、「その人に任せれば安心」と「その人しかできない」は違います

一人しかできない重要業務が増えるほど、組織としてのリスクは高まります。その職員が退職する、長期休職する、異動する、突然休む——それだけで業務が止まるからです。

そして属人化は本人にも負担をかけます。休めない、仕事を手放せない、常に質問される、後任を育てる時間もない。そして「自分でやった方が早い」という状態が、さらに属人化を進めます。

属人化への対策の目的は、優秀な職員から仕事を取り上げることではありません。その職員が持っている知識を、組織の知識へ変えることです。

実践のポイント

  • ① 「1か月休んだら困る人」を3人挙げてみる……その人が悪いわけではありません。その人が担当している仕事の中に、事業所の属人化のリスクが隠れています
  • ② パスワードの共有ではなく「アクセス権」を整える……情報共有のために個人のIDやパスワードを共有することは避ける必要があります。必要な情報は法人・事業所として適切に管理し、職員ごとの権限を設定します。属人化の解消と情報セキュリティは両立させるものです
  • ③ 年1回の仕事ほど手順を残す……毎日の仕事は自然に覚えますが、年1回の業務は翌年には忘れています。年度更新、行政関係、設備点検など、頻度の低い重要業務ほど簡単な手順を残します
  • ④ 副担当を「名前だけ」にしない……一度も業務を経験していなければ、緊急時に対応できません。少なくとも年1回は主担当と副担当を入れ替えて実施するなど、実務の経験を持たせます
  • ⑤ 属人化ゼロを目指さない……高度な専門業務まで全職員ができる必要はありません。重要なのはその人しかできない仕事があること自体ではなく、その人がいなくなった瞬間に業務が止まらないことです

業務の属人化チェックリスト

  • □ 特定の職員しか手順を知らない重要業務を把握している
  • □ 担当者が不在のときの副担当が決まっている
  • □ 重要業務の資料の保存場所が共有されている
  • □ 年間の業務がカレンダー化されている
  • □ 年1回しか行わない業務にも簡単な手順がある
  • □ 個人のパソコンだけに重要情報を保存していない
  • □ 情報共有のために個人のIDやパスワードを共有していない
  • □ 担当者が変わるときの引き継ぎ方法が決まっている
  • □ 長期間同じ職員だけが担当している業務を確認している
  • □ 担当者が有給休暇を取っても業務が止まらない
  • □ 属人化への対策を職員の育成にも活用している

まとめ——「〇〇さんがいないと困る」は、組織設計の課題

優秀な職員ほど、多くの仕事を任されます。多くを経験するほどさらに詳しくなり、周囲は「あの人に聞けば分かる」ようになります。一見すると効率的ですが、その状態を何年も続けると「あの人に聞かなければ誰も分からない」へと変わってしまいます。

これは職員個人の問題ではなく、組織設計の問題です。だからこそ、仕事を取り上げるのではなく副担当をつける。完璧なマニュアルではなく一枚の引き継ぎ情報を残す。担当者の頭の中にある年間の予定をカレンダーへ移す。そして次の職員に一度経験してもらう。

障害福祉の現場では、利用者との継続的な関係が大切です。だからこそ、職員が安心して休め、異動や退職があってもサービスが安定して続く組織である必要があります。

業務改善で探してほしいのは、無駄な仕事だけではありません。「この仕事は、なぜこの人にしかできないのだろう」という仕事です。そこを一つずつ組織の仕事へ変えていくことが、職員にも利用者にも強い事業所をつくることにつながります。

あわせてお読みください。支援方法そのもののばらつきを整理する方法は 職員によって支援が違う|「統一すべき支援」と「個別に判断する支援」を分けて標準化する、管理業務を主任へ段階的に移す方法は 主任はいるのに管理者の仕事が減らない、請求業務の属人化を仕組みで解いた実例は 毎月の請求ミスを「ゼロ」にした仕組み、探す・待つ・聞く・戻るという中断を減らす方法は 「探す・待つ・聞く・戻る」を減らす で解説しています。組織体制の整備・人材育成のご相談は 職員の離職・定着支援サービス内容 もあわせて お問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

よくあるご質問

人員は足りているのに、特定の職員だけが残業しています。
「誰が担当するか」は決まっていても、「その人がいないとき誰ができるか」が決まっていない可能性があります。業務分担表があっても「担当者=その仕事を全部行う人」になっていると、担当者が休んだ時点で業務が止まります。まず職員へ「〇〇さんが1か月休んだら困る仕事は何ですか」と聞いてみてください。属人化している業務が見つかりやすくなります。
属人化には、どんな種類がありますか?
3つに分けて考えると整理しやすくなります。担当者しか手順を知らない「方法の属人化」、担当者のパソコンや個人ファイルにしか情報がない「情報の属人化」、担当者しか“いつやる仕事か”を知らない「時期の属人化」です。とくに見落とされやすいのが3つ目で、手順書があっても、いつやるべき仕事かを誰も知らなければ実施されないまま過ぎていきます。
副担当は、毎回一緒に業務を行う必要がありますか?
その必要はありません。副担当が理解しておくのは「どこに資料があるか」「いつ行うか」「誰へ連絡するか」「最低限どのような手順か」の4点で足ります。ただし一度も経験していないと緊急時に対応できないため、少なくとも年1回は主担当と副担当を入れ替えて実施するなど、実務の経験を持たせてください。
属人化をなくすには、マニュアルを作るべきでしょうか?
年1回しか行わない業務に10ページのマニュアルを作っても、更新されなくなりがちです。重要業務についてA4一枚程度の「引き継ぎシート」を作る方法があります。業務名、実施時期、主担当、副担当、必要書類の保存場所、連絡先、基本手順、注意事項、完了後に残す記録を書きます。目的は完璧なマニュアルではなく、担当者が突然いなくなっても次の人が再開できる情報を残すことです。
情報共有のために、担当者のIDやパスワードを共有してもよいですか?
個人のIDやパスワードを共有することは避ける必要があります。必要な情報は法人・事業所として適切に管理し、職員ごとの権限を設定してください。属人化の解消と情報セキュリティは、どちらかを犠牲にするものではなく両立させるものです。あわせて、重要情報が個人のパソコンだけに保存されていないかも確認してください。
属人化はゼロにすべきでしょうか?
ゼロを目指す必要はありません。高度な専門業務まで全職員ができる必要はないからです。重要なのは、その人しかできない仕事があること自体ではなく、その人がいなくなった瞬間に業務が止まらないことです。対策の目的も、優秀な職員から仕事を取り上げることではなく、その職員が持っている知識を組織の知識へ変えることにあります。
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