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改善事例

薬は飲めているのに「何の薬か」を職員が知らなかった障害福祉施設|服薬介助を「薬を渡す業務」で終わらせず、医療・家族・福祉をつなぐ服薬情報管理へ

― 服薬介助を「薬を渡す業務」で終わらせず、医療・家族・福祉をつなぐ服薬情報管理へ ―

※本稿は、障害福祉施設で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、数値等は改善の考え方を分かりやすくするための想定です。服薬に関する医学的判断や薬剤の変更・中止等は、医師・薬剤師等の専門職へ確認することが前提です。

はじめに――「この薬は何の薬ですか?」に誰も答えられなかった

今回のモデル事例は、複数の障害がある利用者を受け入れている日中活動系の障害福祉事業所です。利用者の中には、昼食後などに服薬が必要な人もいました。施設では誤薬を防ぐため、本人の名前、服薬時間、薬包、服薬後の確認について一定のルールを設けていました。大きな服薬事故もありませんでした。そのため管理者は、服薬管理について特に問題はないと考えていました。

ところが、ある利用者Aさんについて、家族からこんな電話がありました。「昨日病院で薬が変わったのですが、今日の様子はどうでしょうか」。電話を受けた職員は困りました。薬が変わったことは連絡帳に書かれていました。しかし、何の薬が変わったのか、なぜ変わったのか、変更後に何を観察すればよいのかまでは分かりません。別の職員へ聞いても、「昼食後の薬ですよね」ということしか分かりませんでした。

そこで服薬している利用者の情報を確認してみると、意外な問題が見つかりました。施設は、「正しい人へ、正しい薬を、決められた時間に渡すこと」には注意していましたが、「服薬後の利用者を見ること」まで十分に仕組み化できていなかったのです。

改善前の状況――服薬情報が「薬袋」と「家族の連絡帳」に分散していた

施設には服薬手順がありました。昼食後になると、担当職員が薬を準備します。本人確認を行い、服薬を支援します。飲み終わったことを確認し、記録します。この部分は比較的しっかりしていました。

しかし、その前後の情報管理には課題がありました。例えば、薬が変更された、服用時間が変わった、頓服薬が追加された、受診後に新しい指示が出たといった情報が、連絡帳、家族からの電話、薬袋、個人ファイル、職員間の口頭申し送りなどに分散していました。そのため、情報を受け取った職員は知っていても、翌日の担当者が知らないということがありました。

さらに職員の中には、「薬のことは医療の話なので、福祉職が詳しく知らなくてもよい」という意識もありました。確かに福祉職が薬効を医学的に判断する必要はありません。しかし、利用者の生活を毎日見ている職員だからこそ把握できる変化があります。ここが、今回の改善の出発点になりました。

原因分析――「服薬管理」と「健康観察」を別の仕事として考えていた

問題を整理すると、施設では二つの仕事が分離していました。一つは服薬介助、もう一つは利用者の健康観察です。服薬介助では、薬を間違えない、飲み忘れを防ぐ、服薬したことを記録することに重点が置かれていました。一方、健康観察では、食欲、活動性、表情、歩行、睡眠、排泄などを見ています。しかし、この二つがつながっていませんでした。

例えば薬が変更された翌日に利用者が普段より眠そうにしていても、「今日は疲れているのかな」で終わることがあります。薬との関連があるかどうかを福祉職が判断する必要はありません。しかし、「薬が変更された翌日から、普段と違う状態が見られた」という情報は、家族や医療職にとって重要になる可能性があります。必要だったのは医学的判断ではなく、薬の変更という出来事と生活上の変化を結びつけて観察する仕組みでした。

改善策――服薬情報管理の6つの見直し

改善策① 服薬情報を「薬の名前」だけで管理しない

最初に見直したのが服薬情報一覧です。薬剤名だけを大量に並べても、福祉職には理解しにくい場合があります。そこで、施設で把握する必要のある範囲を整理しました。例えば、いつ服用する薬なのか、定期薬か頓服薬か、直近で変更があったか、医師・薬剤師等から施設での観察について具体的な指示があるか、頓服薬の場合、使用についてどのような指示が出ているか、問い合わせが必要な場合、誰へ確認するかなどです。

大切なのは職員が薬を医学的に評価することではありません。施設として何を知っておく必要があるのかを明確にすることです。

改善策② 薬が変わった日を「重要な変化」として共有する

薬剤変更情報については、通常の申し送りの中に埋めないようにしました。新しい薬が開始された、用量・用法について新たな指示があった、薬が中止された、頓服薬について新しい指示が出たといった場合は、施設の定めた方法で必要な職員が確認できるようにします。そして、「薬が変わった」という情報と「今後施設で確認すべきこと」をセットで扱うようにしました。

ただし、施設側だけで観察項目を医学的に決めるのではなく、必要に応じて家族を通じて主治医・薬剤師へ確認する、あるいは利用者の支援体制に応じて医療職へ直接確認します。

改善策③ 「いつもとの違い」を薬の変更前後で確認する

薬剤変更後には、日常生活上の変化を意識して観察しました。例えば、食事量、水分摂取、眠気、活動量、歩行状態、排泄、本人からの訴え、普段と異なる行動などです。

重要なのは、「この薬の副作用だ」と職員が判断することではありません。記録するのは、「いつから、どのような変化があったか」です。例えば、「薬の変更後、眠気が強い」と断定するのではなく、「○月○日に家族から薬剤変更の連絡あり。翌日は通常参加している午前活動中に20分程度居眠りする場面が2回見られた」と観察事実を残します。この情報なら、家族や医療職へ具体的に伝えることができます。

改善策④ 頓服薬は「飲ませるかどうかを現場で考える薬」にしない

特に整理が必要だったのが頓服薬です。施設によっては、「落ち着かないとき」「必要時」などの表現だけが職員へ伝わり、判断に迷うことがあります。そこで頓服薬については、医師等からの指示内容を確認し、施設として必要な情報を整理しました。誰の薬か、どのような指示なのか、施設で使用する可能性があるのか、使用前後に必要な確認は何か、使用した場合に誰へ報告するのかなどです。

福祉職が独自の医学的基準を作るのではありません。曖昧な指示のまま現場職員へ判断を委ねないことが重要です。

改善策⑤ 家族からの「薬が変わりました」を一歩深く確認する

家族から、「今日から薬が変わりました」と連絡があったとき、「分かりました」だけで終わらせないようにしました。施設での支援に関係する範囲で、いつから変更なのか、施設で服用する薬にも変更があるのか、医療職から生活上の注意事項について説明があったか、施設で観察してほしいことはあるかなどを確認します。

家族自身も詳細が分からない場合には、必要に応じて医療職へ確認できるよう調整します。これによって、家族から施設、医療への情報が途中で途切れにくくなりました。

改善策⑥ 服薬事故だけでなく「ヒヤリ」を集める

施設では誤薬事故は起きていませんでした。そのため、「服薬管理は問題ない」と思われていました。しかし職員へ聞くと、「同姓の利用者の薬を一瞬取り違えそうになった」「家族から薬の変更を聞いたが、他の職員へ伝えるのを忘れそうになった」「頓服薬を使うかどうか迷った」といった経験が出てきました。

そこで事故件数だけでなく、迷った場面、確認が必要だった場面、情報が不足していた場面も集めるようにしました。事故が起きる前の「小さな不便」を改善材料として扱ったのです。

服薬の業務を工程に分けて弱い所を見つける方法や、最新の処方情報を一本化する進め方は、服薬事故を防ぐ|「薬を預かる施設」から「医療とつながる施設」へ で詳しく解説しています。

改善結果――服薬介助が「薬を渡す作業」から「生活を見る支援」へ変わった

モデル事例では、服薬情報と日常の健康観察を結びつけたことで、職員からの報告内容が具体的になった想定です。以前は、「Aさん、今日は少し眠そうでした」という報告でした。改善後は、「昨日家族から薬剤変更の連絡があり、今日は午前活動中に普段見られない居眠りが2回ありました」と伝えられます。

この違いは大きなものです。家族や医療職側も、いつから、何が変わったのか、どの程度なのかを判断する材料が増えるからです。さらに職員も、「薬のことは分からないから関係ない」ではなく、「医学的判断はできなくても、生活上の変化は自分たちが伝えられる」と理解するようになりました。

※ 本稿は複数の課題をもとに再構成したモデル事例であり、記載の場面や改善の内容は考え方を説明するための想定(参考値)です。実際の結果は、事業所の体制・利用者の状態・医療機関との関係などによって異なります。同様の成果を保証するものではありません。服薬に関する判断は、医師・薬剤師等の専門職へ確認してください。

コンサルタントの視点――障害福祉施設は「生活情報」を持つ重要な医療連携者である

障害福祉施設に医師が常駐していないからといって、医療連携における役割が小さいわけではありません。むしろ医療機関には見えない情報を持っています。午前中はどのくらい活動できるか、昼食をどのくらい食べるか、歩行は普段と違わないか、他者との関わりはどうか、眠気はないか、本人の表情はどうか。こうした生活情報です。

診察室で過ごす時間は限られています。一方、障害福祉施設では数時間にわたって利用者の生活を見ています。この違いを生かすことが、福祉と医療の連携では重要です。福祉職が医療職になる必要はありません。必要なのは、診断することではなく、観察すること、判断することではなく、変化を正確に伝えることです。この役割分担が明確になると、福祉職も必要以上に医療判断を背負わずに済みます。

「いつもと違う」という体調変化を、職員の経験頼みにせず医療へつなぐ仕組みは、「いつもと違う」を医療につなぐ|体調変化の発見を職員の経験頼みにしない仕組み で整理しています。

今回のテーマに特化した実践アドバイス

  1. 「薬を飲んだか」だけで服薬管理を終わらせないでください。服薬確認とともに、薬剤変更など支援上重要な情報が施設へ入る仕組みを確認してください。
  2. 薬剤変更日を分かるようにしておいてください。薬の変更と利用者の変化を後から振り返れるよう、変更情報を適切に記録します。
  3. 薬の説明を職員が勝手に解釈しないでください。分からないことがあれば、家族を介するなど利用者の体制に応じて医師・薬剤師・看護師等へ確認します。
  4. 「副作用だと思います」と家族へ断定しないでください。「薬が変わった翌日から、普段より眠る場面が増えています」など、観察した事実を伝えます。
  5. 頓服薬こそ曖昧な運用を点検してください。「必要時」の意味を現場職員の経験だけに委ねていないか確認してください。
  6. 薬剤情報は定期的に更新してください。古い薬剤情報がファイルに残っていると、かえって危険です。家族・医療職等との情報更新方法を決めておきます。
  7. 服薬ヒヤリ・ハットを「人のミス」で終わらせないでください。なぜ間違えそうになったのか、名前の表示、保管方法、情報伝達、業務の中断、確認手順など、仕組みの問題を探します。

服薬管理・医療連携チェックリスト

  • 施設内で服薬する利用者を正確に把握しているか。
  • 最新の服薬情報を確認できる場所が明確であるか。
  • 薬剤変更の情報が必要な職員へ共有されるか。
  • 古い服薬情報が混在していないか。
  • 服薬時の本人確認方法が決まっているか。
  • 服薬した事実を記録しているか。
  • 薬剤変更後に必要な観察事項を、必要に応じて医療職等へ確認しているか。
  • 利用者の「いつもとの違い」を具体的に記録できるか。
  • 福祉職が医学的な因果関係を独自に断定していないか。
  • 頓服薬の指示内容が曖昧なままになっていないか。
  • 服薬に関する不明点の確認先が分かっているか。
  • 誤薬事故だけでなくヒヤリ・ハットも振り返っているか。
  • 家族からの薬剤変更情報が口頭だけで終わらないか。
  • 医療側へ生活上の変化を具体的に伝えられるか。

まとめ――福祉職にしか見えない「薬を飲んだ後の生活」がある

服薬管理というと、薬を間違えない、飲み忘れない、決められた時間に服用するという点が中心になります。もちろん、これらは極めて重要です。しかし障害福祉施設には、もう一つ大切な役割があります。それは、薬を飲んでいる利用者が、日常生活の中でどのように過ごしているかを見ることです。

医師は診断し、治療方針を決めます。薬剤師は薬物療法を専門的に支えます。看護職は健康状態を専門的に評価します。そして福祉職は、利用者の日常生活を長時間にわたって見ています。それぞれが持っている情報は違います。だからこそ連携する意味があります。

「昨日から薬が変わった」という情報が施設へ届いた。翌日、普段は完食する人が半分しか食べなかった。活動中に普段見られない眠気があった。歩く速度がいつもと違った。本人から何らかの訴えがあった。福祉職が、「薬のせいだ」と判断する必要はありません。必要なのは、「いつから、何が、普段とどう違うのか」を記録し、必要な相手へ伝えることです。

一方、施設側が薬について分からないことを推測で処理することも避けなければなりません。分からなければ確認する、医療判断が必要なら医療職へつなぐ、生活上の変化は福祉側から返す。この往復が医療連携です。

障害のある人の高齢化や医療ニーズの複雑化が進むほど、福祉と医療を完全に切り分けることは難しくなります。だからといって、福祉職が医療職の仕事を担う必要もありません。それぞれの専門性を越境させるのではなく、それぞれが持っている情報をつなぐ。それが安全な医療連携の基本です。

次に服薬介助を終えたとき、「薬を飲めたから終了」だけではなく、もう一つ視点を加えてみてください。「この人の普段の生活を知っている私たちだからこそ、気づける変化はないだろうか。」その視点が、服薬管理を単なる確認作業から、利用者の健康と生活を支える医療連携へ変えていきます。

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