その会議、本当に60分必要ですか?|月40時間の「会議コスト」を支援時間へ戻し、新規利用を受け入れられる施設へ変えた事例
※本記事は障害福祉施設で起こり得る課題をもとにした架空のモデル事例です。数値・金額・改善結果は改善方法を説明するための想定値です。必要な委員会・研修・会議等については、各事業所に適用される法令・指定基準・自治体の取扱い等を確認する必要があります。
はじめに――「人が足りない」のに、職員が会議室に集まっていた
定員20名の生活介護事業所。管理者の悩みは人手不足でした。新規利用の相談が来ても、「職員配置に余裕がないので、もう少し待ってください」と答えることがあります。職員からも、「利用者さんとゆっくり関わる時間がありません」という声が出ていました。
そこで一週間の職員業務を調べました。すると意外な数字が見つかりました。月曜日、朝礼20分。火曜日、支援会議60分。水曜日、リーダー会議60分。木曜日、ケース会議60分。金曜日、翌週打ち合わせ30分。さらに各種委員会、職員会議、研修があります。
問題は会議が多いことだけではありません。参加者6人で60分会議をすれば、施設全体では6時間の職員時間を使っています。一人ひとりを見ると1時間。経営の視点では6時間です。そこで、会議をなくすのではなく、「集まらなければできないことだけを会議にする」という改善を始めました。
1.改善前の状況――報告を聞くために全員が集まっていた
支援会議を観察すると、最初の30分は報告でした。「Aさんは今週変わりありません」「Bさんは火曜日に通院しました」「Cさんは来週休みです」「行事は予定通りです」。ほとんどは記録を読めば分かる内容です。その後ようやく、「Dさんの最近の拒否についてどう対応するか」という検討が始まります。しかし残り時間は20分。重要な議論ほど最後へ回っていました。
2.原因分析――会議の目的が「情報共有」になっていた
会議が長くなる原因は四つありました。原因①報告と検討を区別していませんでした。報告事項も、判断が必要な事項も、すべて同じ会議へ持ち込んでいました。原因②議題が事前に決まっていませんでした。会議開始後、「何かありますか?」から始まります。
参加者はその場で考えます。原因③全員参加が原則になっていました。その議題に関係しない職員も参加しています。原因④決定事項が曖昧でした。一時間話した最後に、「しばらく様子を見ましょう」で終了します。誰が何をするのか決まりません。翌週、同じ議題が再び出ます。
3.具体的な改善策①――会議を「報告」「相談」「決定」に分ける
議題を三つに分類しました。報告は、読むだけで理解できる情報。原則、共有ツールや記録で確認します。相談は、複数職員の意見が必要なもの。会議対象です。決定は、支援方法、担当、期限等を決めるもの。会議で優先します。これだけで会議内容が大きく変わりました。
4.具体的な改善策②――「会議前に読む」を原則にする
会議の前日までに、議題、現在の状況、困っていること、決めたいことを簡潔に共有します。例えば、「Aさんについて相談」ではなく、「Aさんが午後活動を3回連続で拒否。本人へ確認すると『音がうるさい』との表現あり。別室活動を試すか検討したい」まで書きます。会議では状況説明から始めません。考えるところから始めます。
5.具体的な改善策③――60分会議を30分へ変える
時間を半分にしただけでは改善しません。会議ルールを決めました。開始時刻厳守。議題は原則3件以内。1議題10分。終了時に、誰が、何を、いつまでに、確認方法を決めます。結論が出ない場合も、「誰が追加情報を集め、いつ再検討するか」まで決めます。
6.具体的な改善策④――全員参加をやめる
例えば送迎改善の議論なら、管理者、送迎担当、関係職員で十分な場合があります。全職員が参加する必要はありません。一方、虐待防止、安全管理、支援方針など、組織全体で共有すべき内容は適切に全体へ伝えます。「全員が会議へ出る」と「全員が必要な情報を知る」は別のことです。
7.具体的な改善策⑤――会議時間を「人時」で計算する
60分会議、参加8人。経営上は、1時間×8人=8人時です。これを月4回行えば32人時。さらに他の会議を加えると、月40から50時間になる施設もあります。そこで毎月、会議回数ではなく、総会議人時を見るようにしました。この数字が見えると、「あと30分話しましょう」の意味が変わります。8人なら追加4人時だからです。
8.具体的な改善策⑥――削減した時間を「余裕」にしない
ここが経営改善の重要な部分です。会議を月40時間削減しても、その時間が何となく消えれば売上にはつながりません。そこで削減時間の一部を、新規利用者の見学対応、個別支援、職員OJT、利用者の活動支援、記録確認、家族との面談へ再配分しました。つまり、会議削減から職員余力、受入能力向上という流れを意図的につくりました。
9.改善結果――月42人時を現場へ戻せた
モデル事例では、月間総会議時間が、延べ78人時から、延べ36人時へ減少。月42人時を生み出せたと仮定します。年間では504人時です。単純に時給換算するだけでも大きな経営資源です。さらに、職員余力と支援体制の見直しによって、新規利用者1名を週3日受け入れられたとします。
1利用日当たりの事業所収入を説明用に12,000円とすると、1名×週3日×4週×12,000円で月額144,000円、年間単純換算では約173万円です。会議を短くしたから173万円儲かった、という単純な話ではありません。
今まで会議室にあった職員時間を、利用者支援へ戻したことが受入余力を生んだということです。
※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算は障害支援区分や利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。会議の見直しは、法令や指定基準で求められる委員会・研修・会議を減らすものではありません。受け入れ人数は人員配置基準と安全な支援体制を満たす範囲で判断し、報酬・基準の要件は最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。
10.サービス品質にも変化が出た
会議を短くすると、「支援の質が下がるのではないか」という心配がありました。しかし実際には逆の変化が起こりました。報告時間が減ったことで、本人がなぜ拒否するのか、家族の希望と本人の希望をどう整理するか、支援方法をどう変えるか、といった、本当に話し合うべき内容へ時間を使えるようになりました。会議時間は半分でも、検討時間の密度は上がったのです。
11.コンサルタントの視点――「人が足りない」と採用する前に見る数字
人手不足、だから一人採用する。もちろん採用が必要な施設はあります。しかし、その前に確認したい数字があります。会議、記録、待機、移動、二重入力、探し物、引き継ぎ。これらに職員時間をどれだけ使っているでしょうか。月40時間を改善できれば、週10時間です。
採用しなければ生み出せないと思っていた時間が、業務設計の改善で生まれる場合があります。
12.今回のテーマに特化した実践アドバイス
まず1か月間の会議をすべて書き出してください。「60分」だけではなく、60分×参加人数で計算します。次に各会議について、「この内容は読むだけではだめか」「全員参加が必要か」「何を決める会議なのか」の三つを確認します。会議をなくす必要はありません。決める必要のない時間を減らすことから始めます。
会議・業務改善チェックリスト
- 月間の会議数を把握している。
- 総会議人時を把握している。
- 会議目的が明確である。
- 議題を事前共有している。
- 報告事項を会議から分離している。
- 1議題の時間を決めている。
- 必要な職員だけが参加している。
- 必要な全体共有は別途確保している。
- 結論が記録されている。
- 担当者が決まっている。
- 期限が決まっている。
- 同じ議題を毎回繰り返していない。
- 法令・指定基準等で必要な会議等を確認している。
- 削減した時間の使途を決めている。
- 生まれた時間を支援・教育・受入れへ再配分している。
13.まとめ――削るべきは会議ではなく「決まらない時間」
会議は悪いものではありません。障害福祉では、多職種・多職員が利用者を支援します。情報共有も検討も必要です。問題なのは、報告するだけ、結論が出ない、全員が聞くだけ、翌週も同じ話、という時間です。職員が一時間会議をしている間も、人件費は発生しています。
そして、その一時間は利用者支援には使えません。だから、会議時間を減らすことではなく、会議でしかできないことへ時間を集中させる。そこが改善の本質です。「職員が足りない」と求人広告を出す前に、一度、「今月、施設全体で何時間を会議に使いましたか?」と計算してみてください。意外なところに、新規利用者を受け入れるための時間が眠っているかもしれません。
職員会議の進め方を変えた例は 職員会議で意見が出ない施設が「建設的な場」に変わった実例、見えない事務を減らして受け入れ余力をつくった例は 職員を増やさなければ利用者を増やせないのか、業務時間の見直しは 「探す・待つ・聞く・戻る」を減らす、同じ原稿のもう一つの事例は ヒヤリハットを書いて終わりにしていませんか? もあわせてご覧ください。
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