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改善事例

職員を増やさなければ利用者を増やせない、は本当か?|毎日90分の「見えない事務」を削減し、新規利用者を受け入れる時間を生み出した生活介護事業所

※本記事は架空のモデル事例です。時間・人数・金額・改善結果は改善方法を説明するための想定値です。実際の人員配置基準や報酬算定要件を下回る運営を推奨するものではありません。

はじめに――「もう一人利用者が増えるのは無理です」

定員20名の生活介護事業所。平均利用人数は16から17名。まだ定員には余裕があります。問い合わせもあります。しかし現場職員は言いました。「これ以上利用者が増えると回りません」。経営者は、「では職員を一人採用しよう」と考えました。

ところが求人を出しても応募が来ません。そこで、「人が採用できないから売上を増やせない」という結論になりかけました。しかし一週間、職員の仕事を観察すると別の問題が見えてきました。朝の申し送り25分、昼の情報共有20分、夕方の申し送り25分、紙の記録、同じ内容をパソコンへ入力、連絡帳への転記、活動記録、職員会議、送迎表の手作業修正。

一つ一つは数分です。しかし合計すると、職員一人当たり毎日かなりの時間が「情報を何度も書く・伝える仕事」に使われていました。利用者を増やせない原因は、単純な職員数だけではなかったのです。

1.改善前の状況――職員は忙しい。でも何に忙しいか分からない

職員に、「一番時間がかかる仕事は何ですか」と聞くと、「利用者支援です」という答えが多く返ってきました。そこで一週間だけ、30分単位で業務を記録しました。すると意外な結果が出ます。直接支援以外に、記録、転記、申し送り、電話、探し物、送迎変更、会議、資料作成といった仕事が大量にありました。

特に問題だったのが重複です。同じ利用者の出来事を、ケース記録、連絡帳、申し送りノート、パソコンの複数箇所へ記録していました。

2.原因分析――「忙しい」を職員不足だけで説明していた

原因は三つありました。第一に、仕事量を測っていませんでした。「忙しい」という感覚は共有されています。しかし何に何分使っているかは誰も知りません。そのため改善策が、「人を増やす」しかありませんでした。第二に、書類を増やす文化がありました。

事故が起きる、新しいチェック表を作る、申し送り漏れが起きる、新しいノートを作る、情報共有が不足する、会議を増やす。問題が起きるたびに業務が追加され、古い業務は残ったままでした。第三に、ICTを入れても紙をやめていませんでした。

支援記録システムは導入済みでした。しかし職員から、「念のため紙にも書いています」という声がありました。ICT導入によって仕事が減るどころか、紙+デジタルの二重業務になっていたのです。

3.具体的な改善策①――一週間だけ「業務時間調査」をする

職員へ細かなストップウォッチ調査を求める必要はありません。一週間だけ、直接支援、記録、会議・申し送り、送迎、電話、準備・片付け、その他程度に分類して時間を記録します。目的は職員を監視することではありません。どこに改善余地があるかを見ることです。

ここで初めて、「利用者支援が多すぎる」のではなく、「情報共有に毎日合計90分以上使っている」といった具体的な問題が見えます。

4.具体的な改善策②――記録を「法令・支援・家族」の目的で整理する

すべての記録を並べ、何のために書いているかを確認しました。制度上・運営上必要、支援チームに必要、本人・家族との情報共有に必要、それ以外という視点で整理します。同じ文章を三回書いているなら、情報の参照方法を工夫できないか検討します。

もちろん必要な記録を削除してはいけません。目的は記録を減らすことではなく、必要な情報を一度適切に記録し、必要な人が利用できる状態にすることです。

5.具体的な改善策③――朝の申し送りを「全員読み上げ」から「変化がある人だけ」へ

以前の朝礼では20名全員について、「Aさん変わりなし」「Bさん変わりなし」と確認していました。これをやめます。通常情報は記録で確認。朝礼では、体調変化、家庭からの重要連絡、当日の支援変更、事故リスク、送迎変更など、今日知らなければ支援に影響する情報だけを共有します。

25分だった朝礼が10分になれば、5人の職員で1日75分の勤務時間を別の業務へ使える計算になります。

6.具体的な改善策④――会議を「時間」ではなく「決めること」で設計する

月1回2時間の職員会議。議題を見ると、報告、報告、報告でした。資料を読めば分かる内容まで全員で読み上げています。そこで会議を、共有だけでよい情報、話し合う情報、決定が必要な情報に分けました。会議で扱うのは後者二つを中心にします。さらに議題ごとに、「今日は何を決めれば終了なのか」を明記しました。

7.具体的な改善策⑤――生まれた時間を「楽になった」で終わらせない

ここが経営改善として最も重要です。業務効率化によって1日合計3時間の余力が生まれたとします。そこで、「残業が減りました」だけで終わると、人件費改善にはなっても売上改善には直結しません。今回の事業所では、その時間の一部を、新規利用者の個別対応、見学対応、活動の選択肢拡大、受け入れ準備、職員教育へ振り向けました。

これによって現場職員が、「17人なら限界」と言っていた状態から、必要な配置基準と支援品質を確認したうえで、18人、19人の受け入れを検討できる状態へ変えていきます。

8.売上への効果――1日2人の受け入れ余力で月約48万円

モデルケースとして、業務改善と支援体制の再確認によって、新たに平均2名/日の利用を安全に受け入れられるようになったと仮定します。1利用日当たりの事業所収入を説明用に12,000円とすると、2名×20営業日×12,000円で月額480,000円の増収余地。

年間単純換算では576万円です。もちろん実際には人員配置、利用者の障害特性、必要な支援量、報酬、加算、営業日等によって異なります。そして非常に重要なのは、「時間が空いたから定員まで詰め込む」という話ではないことです。直接支援に必要な時間まで削ってはいけません。

あくまで重複事務等を整理したうえで、支援品質と安全性を確認し、受け入れ可能な範囲を再評価します。

※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算は障害支援区分や利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。記録の整理は、運営基準で求められる記録を減らすものではありません。受け入れ人数は人員配置基準と安全な支援体制を満たす範囲で判断し、報酬・基準の要件は最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。

9.改善結果――「忙しいから無理」を数字で話せるようになった

改善後、最も変わったのは職員と管理者の会話でした。以前は、「忙しい」「人が足りない」「利用者は増やせない」でした。改善後は、「火曜日は個別支援が集中するので難しい」「木曜日なら職員配置と活動スペースに余裕がある」「午前中は対応できるが、入浴支援が集中する午後は難しい」という具体的な話になります。これは大きな変化です。感覚的な忙しさを、経営判断できる情報へ変えたからです。

10.コンサルタントの視点――人を採用する前に「その仕事は本当に必要か」を見る

障害福祉施設で職員不足は深刻な問題です。必要な職員を減らすべきではありません。しかし、「忙しい=人を増やす」だけで考えると、経営は苦しくなります。一人採用すれば、人件費は毎月発生します。その前に、二重入力、長すぎる申し送り、目的不明の会議、紙とICTの重複、過剰な帳票、探し物を確認する価値があります。

そこで生まれた時間を、利用者支援へ戻す。それでも足りなければ採用する。この順番が重要です。

11.今回のテーマに特化した実践アドバイス

まず一週間だけ業務時間を測ってください。年間調査は必要ありません。次に、同じ内容を二か所以上へ書いているものを探します。会議については、「この会議で何を決めたか」が答えられないものから見直します。ICTを導入している施設では、導入前の紙運用がそのまま残っていないかを必ず確認してください。

そして業務改善で生まれた時間は、何に再投資するかまで決めることが重要です。売上改善を目指すなら、新規受け入れ、見学対応、個別支援、職員教育などへ意図的に振り向けます。

業務改善・受入余力チェックリスト

  • 職員が何に時間を使っているか把握している。
  • 同じ内容を複数箇所へ記録していない。
  • 紙とICTの二重入力がない。
  • 朝礼で全利用者を読み上げていない。
  • 申し送り内容を絞っている。
  • 会議の目的が明確である。
  • 報告だけの会議を減らしている。
  • 過去に作った帳票を定期的に見直している。
  • 職員が書類を探す時間を減らしている。
  • 曜日別の職員負荷を把握している。
  • 曜日別の受け入れ余力を把握している。
  • 業務改善で生まれた時間の使い道を決めている。
  • 直接支援時間を安易に削っていない。
  • 支援品質を確認したうえで受け入れ人数を判断している。
  • 人員配置基準等を満たしていることを確認している。

12.まとめ――業務効率化のゴールは「早く帰れる」だけではない

業務改善というと、残業削減、ペーパーレス、ICT、会議短縮が目的になりがちです。もちろんそれらも重要です。しかし福祉施設経営では、もう一歩先まで考えたいところです。その結果、生まれた時間を何に使うのか。職員教育へ使う、利用者と話す時間へ使う、家族対応へ使う、見学対応へ使う、新しい利用者を安全に受け入れるために使う。

ここまで設計して初めて、業務改善がサービス品質と売上改善につながります。「職員が足りないから利用者を増やせない」と考える前に、一週間だけ現場を観察してみてください。そして職員が行っている仕事一つ一つについて、「これは利用者のために必要な仕事か。制度上必要な仕事か。それとも、昔からやっているだけの仕事か」と問い直してみる。

そこで毎日30分でも1時間でも時間が見つかれば、それは単なる余暇ではありません。施設が次の利用者へ新しい支援を提供するための経営資源です。

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