職員一人あたりの生産性を上げた施設がやった業務改善|残業を減らし支援時間を増やした6か月
——「忙しいのに成果が出ない」から脱却した6か月
問題発生——「全員が忙しい。でも何が忙しいのかわからない」
「職員は毎日忙しそうにしている。残業もある。でも収益は上がらないし、記録の質も上がらない。一体、何に時間を使っているのか」——就労継続支援B型(定員22名)を運営するU法人の管理者・V氏の言葉です。
U法人の職員は全員が「忙しい」と感じていました。しかし管理者のV氏が「今日、何に何時間使いましたか?」と聞いても、誰も正確に答えられませんでした。「忙しい感覚はある。でも何に忙しいのかが見えていない。これが最初の問題だとわかったのは、業務調査を始めてからでした」とV管理者は振り返ります。
U法人の状況(改善着手時点)
- 職員構成:常勤5名・非常勤3名
- 常勤の月平均残業時間:約18時間
- 有給取得率:約28%(低水準)
- 職員の「忙しい」感覚:全員が「忙しい」と回答
- 記録の質:運営指導で「記録が薄い」と指摘済み
- 加算取得状況:処遇改善加算のみ(他の加算は未算定)
→ 忙しいのに記録が薄い・加算が取れない・残業が多い。「時間の使い方」に問題がある可能性が高い状態でした。
最初の一手——「業務時間調査」で見えた実態
コンサルとV管理者がまず実施したのは、1週間の「業務時間調査」でした。職員全員に、15分単位で何をしているかを記録してもらいました。「最初は面倒くさがられました。でも1週間分のデータが集まったとき、全員が『えっ、こんなに使っていたのか』と驚きました」とV管理者。
業務時間調査の結果(常勤職員・1日8時間の内訳・平均)
- 利用者への直接支援:3時間12分(40%)
- 記録・書類作成:1時間48分(22.5%)
- 会議・申し送り:1時間6分(13.8%)
- 送迎(準備含む):48分(10%)
- 電話対応・来客:30分(6.3%)
- 探し物・確認作業:24分(5%)
- その他(移動・待機等):12分(2.4%)
→ 直接支援は40%のみ。60%が周辺業務に費やされていました。とくに「探し物・確認作業」に1日24分(年間約96時間/人)が浪費されていたのです。
【調査結果を見た職員の反応】
「記録に1時間48分も使っているとは思っていなかった。でも確かに、書くのに時間がかかっている」
「『探し物』が24分あるのは衝撃だった。書類がどこにあるかわからなくて探す時間が、毎日これだけある」
「会議と申し送りで1時間以上使っているのに、伝わっていないことが多い気がする」
原因分析——「忙しさ」の正体は3つだった
原因①:記録に時間がかかりすぎる
記録に1日1時間48分は、8時間勤務の22.5%です。記録が多いこと自体は問題ではありませんが、「同じ内容を複数の書類に書いている」「書式が複雑で毎回考えながら書いている」「帰宅前にまとめて書こうとして時間がかかる」という非効率が重なっていました。特に問題だったのは「日中のメモをとらず、夕方に記憶だけで記録する」習慣でした。記憶があいまいになるため時間がかかり、かつ内容も薄くなっていました。
原因②:「探し物・確認作業」が毎日発生している
書類・マニュアル・過去の記録——これらの保管場所が統一されておらず、「あの書類どこだっけ」という場面が毎日複数回発生していました。1回の探し物は数分ですが、積み重なると1日24分・年間約96時間の浪費になります。「書類の置き場所が決まっていない」「電子データと紙が混在している」「ファイリングのルールが人によって違う」——整理されていない環境が、時間を奪っていました。
原因③:会議・申し送りが「情報が伝わらない形式」になっている
1日1時間以上の会議・申し送りに時間を使っているにもかかわらず、「あの件、伝わってなかった」「聞いていない」という場面が頻発していました。口頭だけの申し送りで記録が残らず、出席できなかった職員に情報が届かない構造でした。
改善策——6か月で実施した「4つの業務改善」
改善①:記録を「その場で・短く・毎回」に変える
記録の習慣を「帰宅前にまとめて書く」から「支援のたびに短く書く」に変えました。
記録改善の具体的な変更点
- 【変更前】夕方にまとめて記録(記憶に頼る・時間がかかる・内容が薄い)/A4一枚に複数の出来事を詰め込む形式/書式が複雑で、何を書けばいいか毎回考える
- 【変更後】支援直後に3行以内で記録(現場にメモ帳を常備)/「何をした・どんな反応だった・気になること」の3点に絞った書式に変更/タブレット端末2台を導入し、その場で入力できる環境を整備
効果:記録時間が1日1時間48分→52分に短縮(▲56分/人/日)。記録の具体性が増し、運営指導での指摘がゼロになりました。
改善②:「書類の置き場所」を全員で決めて統一する
半日かけて施設内の書類・マニュアル・備品を全て棚卸しし、「何をどこに置くか」を全員で決めました。決めたルールはA4一枚の「置き場所マップ」に書き出し、施設内に掲示しました。「決めること自体は簡単でした。問題は、今まで誰も決めていなかっただけだった」とV管理者。電子データも「フォルダ構造を統一」し、「どこに何があるか全員がわかる」状態を作りました。
【整理整頓で消えた「探し物時間」】
- 整理前:1日平均24分の「探し物時間」
- 整理後:1日平均4分(▲20分/人/日)
常勤5名×20分×240日=年間約400時間の浪費がなくなった計算です。「こんな単純なことに、これだけの時間を使っていたのか」(全職員の共通の感想)。
改善③:申し送りを「口頭」から「記録+口頭」に変える
申し送りの方法を変えました。申し送り事項をホワイトボードに書き出し、口頭確認の後もホワイトボードに残す方式にしました。出席できなかった職員は出勤時にホワイトボードを見れば把握できます。また会議の議題を事前に共有し、「報告だけで終わる議題」はメモ回覧に変えて会議時間を削減しました。会議は「議論が必要なテーマだけ」に絞り、30〜40分で終わるよう設計しました。
申し送り・会議の改善前後
- 【申し送り】改善前:口頭のみ(欠席者に伝わらない・記録なし)→ 改善後:ホワイトボード記録+口頭(欠席者も確認できる・重要事項は文書化)
- 【会議】改善前:月1回・約90分(報告中心・議論少ない)→ 改善後:月1回・約45分(議論中心・報告は事前メモ回覧)
→ 会議・申し送りの時間:1日1時間6分→42分(▲24分/人/日)
改善④:「加算取得」で生み出した時間を収益につなげる
業務改善で生まれた時間を、加算取得の要件整備に活用しました。記録の質が上がったことで、強度行動障害支援者養成研修加算・福祉専門職員配置等加算の算定要件を整備でき、月約9万円の増収につながりました。
(加算の算定可否・要件・単位数は、サービス種別や自治体の運用により異なります。算定にあたっては最新の告示・報酬改定内容と所管の行政窓口で必ずご確認ください。)
「業務改善は『楽をするため』ではなく、『大切なことに時間を使うため』だと職員に伝えました。生まれた時間で加算が取れたことで、職員も『改善に意味があった』と感じてくれた」とV管理者。
改善後の変化——6か月後の数字
| 指標 | 改善前 | 6か月後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 常勤の月平均残業時間 | 約18時間 | 約6時間 | ▲12時間 |
| 有給取得率 | 約28% | 約51% | +23ポイント |
| 記録作成時間(1日/人) | 1時間48分 | 52分 | ▲56分 |
| 探し物・確認作業(1日/人) | 24分 | 4分 | ▲20分 |
| 会議・申し送り(1日/人) | 1時間6分 | 42分 | ▲24分 |
| 直接支援時間(1日/人) | 3時間12分 | 4時間48分 | +1時間36分 |
| 月間加算収入 | 基準 | +9万円 | 増収 |
※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。施設規模・職員構成・業務内容により異なり、同様の成果を保証するものではありません。
【V管理者の6か月後の言葉】
「職員の残業が減り、有給が取れるようになり、直接支援の時間が増えた。収益も上がった。でも一番変わったのは職員の表情です。『忙しいのに何も変わらない』という閉塞感がなくなって、『改善できた』という手応えが生まれた。仕事に自信を持てるようになったと感じます」
「生産性を上げる」とはどういうことか
「生産性向上」という言葉は、「より多くの仕事をこなすこと」と誤解されることがあります。しかし本来の意味は「同じ時間でより多くの価値を生み出すこと」、あるいは「同じ価値をより少ない時間で生み出すこと」です。
福祉施設における生産性向上の目標は、「職員が利用者と向き合う時間を最大化すること」です。記録・会議・探し物に使っていた時間を支援に充てることで、利用者へのサービスの質が上がり、加算取得の要件も整い、収益も改善する——これが正しい方向性です。
業務改善の「正しい目的」を共有する
- ✕「より多くの仕事をこなす」(職員の負担増)
- ✕「コストを削減する」(人員削減につながる誤解)
- ◎「利用者と向き合う時間を増やす」
- ◎「やるべき仕事に集中できる環境を作る」
- ◎「無駄な時間を減らして、職員の余裕を生む」
目的を正しく共有することで、職員が業務改善に前向きに取り組めるようになります。
まとめ——「何に時間を使っているか」を見える化することが第一歩
U法人の事例が示すのは、「忙しさ」の正体を把握せずに改善はできないということです。1週間の業務時間調査をするだけで、問題の所在が明確になります。
記録改善・整理整頓・申し送りの見直し——いずれも大きなコストをかけずに始められます。重要なのは「やってみること」です。調査結果を職員と共有し、「何を変えるか」を一緒に決める。そのプロセス自体が、チームの一体感を生みます。
「職員が忙しそうなのに成果が出ない」と感じている管理者は、まず1週間の業務時間調査から始めてみてください。見えていなかった何かが、きっと見えてくるはずです。
事務作業の効率化は、請求業務の精度にも直結します。国保連の差し戻しを防ぐ事務改善は 毎月の請求ミスを「ゼロ」にした仕組み、生み出した時間で取り組む加算の見直しは 加算の取りこぼしを防ぐには、残業削減・働きやすさによる定着は 職員の離職・定着支援 もあわせてご覧ください。
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