処遇改善加算を上位区分(加算I)に移行した法人がやった3つのこと
——「要件が複雑で無理」と思っていた法人の実例
問題発生——「区分IIIのままで何年も止まっていた」
「処遇改善加算は取っています。でも区分IIIのまま何年も止まっていて、上位区分に移行できていません」——生活介護事業所(定員30名)を運営するL法人の施設長・M氏からの相談は、この一言から始まりました。
L法人では処遇改善加算(旧制度)を区分IIIで算定しており、2024年度の一本化後も同等の区分にとどまっていました。上位区分に移行したいとは思っていたものの、「要件が複雑すぎてどこから手をつければいいかわからない」という状態が続いていました。
「職員から給料を上げてほしいという声は毎年出る。でも加算を上げるための要件整備が追いつかない。申し訳ない気持ちでいっぱいでした」とM施設長。
【M施設長の言葉】
「加算の資料を読むたびに、キャリアパス要件だの職場環境等要件だのと専門用語が並んでいて、読む気が失せていました。自分には無理だと思い込んでいた。でも実際にやってみたら、思っていたより全然難しくなかった」
2024年度 処遇改善加算の一本化について
2024年度の報酬改定で、従来の3種類の加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)が一本化されました。
新加算の区分:加算(I)〜(V)の5段階
- 加算(I):最も高い加算率。キャリアパス要件I・II・IIIと職場環境等要件すべてを満たす
- 加算(II):キャリアパス要件I・IIと職場環境等要件を満たす
- 加算(III):キャリアパス要件IまたはIIと職場環境等要件を満たす
- 加算(IV)・(V):旧加算からの移行措置区分
※ 加算率はサービス種別により異なります。詳細は厚生労働省の告示をご確認ください。
原因分析——上位区分に移行できない「本当の理由」
M施設長が「複雑すぎる」と感じていた要件を整理すると、実態は意外にシンプルでした。
| 要件 | 内容 | L法人の状況 |
|---|---|---|
| キャリアパス要件I | 任用条件・賃金体系を書面で整備し、職員に周知する | 実態はあるが「文書化」していなかった |
| キャリアパス要件II | 研修の実施または研修機会の確保 | 外部研修に参加していたが「記録」がなかった |
| キャリアパス要件III | 経験・資格・評価に基づく昇給の仕組みを整備する | 「なんとなく」昇給していたが基準がなかった |
| 職場環境等要件 | 複数の取り組みを実施し、ホームページ等で公表する | 取り組みはしていたが「公表」していなかった |
「要件を満たしていない」のではなく「実態はあるのに文書化・記録・公表ができていない」——これがL法人の本当の状況でした。「書いていないだけで、やっていることはほぼ全部あった。それを知ったとき、拍子抜けするくらい気が楽になりました」とM施設長は振り返ります。
改善策——L法人がやった「3つのこと」
L法人が上位区分移行のために実施したのは、以下の3つだけです。新しい取り組みを始めたのではなく、「すでにやっていることを正しく形にした」という表現が正確です。
やったこと①:賃金規程とキャリアパスを「文書化」した
M施設長はまず、現在の給与体系・昇給の仕組みを紙に書き出しました。「頭の中にあるものを文書にする」作業です。具体的には以下の3点を整備しました。
- 職位ごとの任用条件(何年の経験・どの資格があれば昇進できるか)を明記した「キャリアパス表」
- 昇給の基準(勤続年数・評価・資格取得に応じた昇給額の目安)を記載した「賃金規程」
- 職員全員への周知記録(説明会の実施記録・職員の署名・配布確認)
【実際の作業時間】
- キャリアパス表の作成:約3時間(M施設長が下書き→コンサルが確認・修正)
- 賃金規程の整備:約5時間(既存規程の見直し・追記)
- 職員説明会の実施:30分(朝礼後に説明)
- 周知記録の整備:約1時間
合計所要時間:約10時間。「こんなに短時間でできるとは思わなかった」(M施設長)
やったこと②:研修参加の「記録」を整備した
L法人では職員が外部研修に参加していましたが、参加記録が個人のファイルに入ったまま法人として管理されていませんでした。対応は簡単でした。「研修受講記録台帳」を1枚作成し、職員名・研修名・日時・主催者・内容の概要を記入するルールを設けました。過去の参加記録についても、案内チラシや修了証をもとに遡って台帳に記入しました。
「これだけのことが要件になるの?と驚きました。でも確かに、記録がなければ研修をやっていることを証明できない」とM施設長。
研修受講記録台帳の項目(例)
- 職員氏名
- 研修名・主催者
- 実施日・時間数
- 内容の概要(2〜3行)
- 受講後の気づき・施設への活用(任意)
- 修了証の有無
→ A4一枚の表形式で十分です。Excelで管理すると検索・集計が容易になります。
やったこと③:職場環境等要件の取り組みを「公表」した
職場環境等要件は「取り組みを実施すること」と「公表すること」の両方が求められます。L法人では取り組み自体は複数実施していましたが、ホームページへの掲載も都道府県への届出も行っていませんでした。実施した取り組みをリスト化したところ、要件を満たすのに十分な数の取り組みがすでにありました。対応は以下の2点だけです。
- 法人ホームページに「職場環境等の取り組み」ページを新設(既存の取り組みを箇条書きで掲載)
- 都道府県への変更届出書類に取り組み内容を記載して提出
【L法人で確認された職場環境等要件の取り組み(一部)】
- 入職後の研修プログラムの実施(OJTチェックリストが存在していた)
- 管理者との定期面談の実施(月1回実施していた)
- 有給休暇の取得促進(年間取得率の記録があった)
- ハラスメント防止のための相談窓口の設置(設置していたが周知が不十分)
「全部すでにやっていた。公表する発想がなかっただけ」(M施設長)
改善後の変化——移行届出から3か月後
| 項目 | 移行前(加算III相当) | 移行後(加算I) | 差額(年間試算) |
|---|---|---|---|
| 加算率(生活介護の例) | 5.9% | 10.2% | — |
| 月間加算額(報酬総額600万円の場合) | 約354,000円 | 約612,000円 | 約3,096,000円 |
| 職員1人あたりの月額増(10名で按分) | — | 約25,800円増 | — |
※ 加算率・報酬総額は、事業所規模・サービス種別・地域区分により異なります。上記はあくまで試算例で、同様の成果を保証するものではありません。実際の算定額は最新の告示・国保連の請求データでご確認ください。
【職員の反応】
「給料が上がることを職員全員に伝えたとき、『やっとか』という顔をされました(笑)。でもその後に『ありがとうございます』という言葉をもらったとき、もっと早くやるべきだったと心から思いました」(M施設長)
まとめ——「要件が複雑」は思い込みかもしれない
処遇改善加算の上位区分移行を「難しい」と感じている法人の多くは、L法人と同じ状況にある可能性があります。
「すでにやっているのに文書化していない」「記録はあるのに整理されていない」「取り組んでいるのに公表していない」——この3つが揃っているだけで、上位区分への移行が可能なケースは少なくありません。まず自法人のキャリアパス要件・職場環境等要件の現状を確認することから始めてみてください。「思ったより近い」という発見が、きっとあるはずです。
なお、加算の算定や請求の精度については 毎月の請求ミスを「ゼロ」にした改善事例 もあわせてご覧ください。加算の最適化・算定支援は サービス内容 でもご紹介しています。
「うちの法人は上位区分に移行できるか、一度診断してほしい」という方は、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。