食事中の誤嚥・窒息事故を防ぐ|食形態の情報共有と見守りの仕組みづくり
※本事例は、実際の複数の事例をもとに再構成した架空のモデルケースです。特定の法人や事業所を指すものではありません。文中の数字は、説明のために置いた仮定の数字であり、実際の事業所の実績や、効果を保証するものではありません。
はじめに
障害のある方の中には、飲み込みの力が弱い方や、食べ物を口に詰め込みやすい方、食事のペースを自分で調整することが難しい方がいます。こうした方への食事の支援では、誤嚥や窒息の事故が、運営上の重大なリスクの一つです。事故が起きると、利用者の命や健康に関わるだけでなく、家族との信頼関係や、法人の運営にも大きな影響が出ます。
今回は、運営者の視点から、食事中の事故を防ぐための、食形態の情報共有と見守りの仕組みづくりを、モデルケースで整理します。
事例の概要
架空のD法人は、生活介護とグループホームを運営しています。利用者は30名で、そのうち、きざみ食、ミキサー食、とろみ付きの飲み物など、食形態の調整が必要な方が8名います。食形態の情報は、ベテラン職員の記憶と、事務所に貼られた古い一覧表に頼っており、新しい職員や非常勤職員には十分に伝わっていませんでした。
ある日、非常勤職員が、食形態の調整が必要な利用者に、通常の形の食事を配膳しかけ、別の職員が気づいて止めるという場面がありました。事故には至りませんでしたが、運営者は、「次は止められないかもしれない」と考え、仕組みの見直しを決めました。
コンサルタントの視点――何が起きていたのか
このケースで重要なのは、事故を防ぐための情報が、人の記憶に頼って管理されていた点です。食形態、食事の姿勢、食べるペース、むせやすい食品などの情報が、一元化されて共有されていなければ、職員が入れ替わるたびに、事故のリスクが高まります。
もう一つ重要なのは、食事の見守りの考え方が、職員によって異なっていた点です。「むせなければ大丈夫」と考える職員もいれば、「食べ終わるまで目を離さない」と考える職員もいました。運営者の立場で確認すべきは、誰が、いつ、何を見守るのかを、組織として決めているかどうかです。
見直しの手順
D法人では、次の順で見直しを進めました。最初に、利用者一人ひとりの食事の情報を整理しました。食形態、飲み物のとろみ、食事の姿勢、必要な介助、避けるべき食品、アレルギーなどを、一枚のシートにまとめました。作成にあたっては、主治医や歯科医師、言語聴覚士などの専門職に、内容の確認を依頼しました。
そのうえで、五つの見直しを行いました。一つ目は、情報の一元化です。食事のシートを、配膳の場所に掲示し、職員がいつでも確認できるようにしました。二つ目は、配膳時の確認です。配膳する職員と、確認する職員の二人で、名前と食形態を声に出して確認する流れを作りました。
三つ目は、見守りの役割分担です。食事中は、各テーブルに見守る職員を固定し、食べ終わるまで席を離れないことを徹底しました。
四つ目は、研修と情報更新です。新しく入職した職員や非常勤職員には、入職時に食事支援の研修を行い、食形態や緊急時の対応を確認しました。緊急時の対応は、窒息時の対応を含め、専門職の指導を受けて、手順を整えました。五つ目は、変化に気づく仕組みです。
食事中のむせ、食べ方の変化、体重の変化、発熱などがあった場合に、記録して共有し、食形態を見直す流れを作りました。
なお、食事の支援に関する加算や、記録の求められ方、事故が起きた場合の報告の義務は、サービスの種類や制度改正によって異なる場合があります。見直しを行う際は、最新の基準や通知を確認し、指定権者(都道府県・市町村)や専門家にも確認したうえで進めてください。
数字で見る変化の見通し
ここでは、あくまで仮定の数字で、見直しにかかる職員の時間と費用の目安を考えてみます。まず、食事シートの作成です。利用者30名について、1人20分で作成すると仮定すれば、30名×20分=600分で、10時間です。時間単価を1,600円と仮定すると、10時間×1,600円=1万6,000円です。
次に、食形態の調整が必要な8名について、月1回、1人10分で見直しを行うと仮定します。1か月の時間は、8名×10分=80分、年間では、80分×12か月=960分で、16時間です。費用は、16時間×1,600円=2万5,600円となります。
さらに、食事支援の研修を、職員20名が1時間受けると仮定すれば、20名×1時間×1,600円=3万2,000円です。
以上を合計すると、シートの作成が1万6,000円、見直しが2万5,600円、研修が3万2,000円で、合計は7万3,600円です。食形態の調整が必要な方は、30名のうち8名で、割合は約26.7%です。ただし、これは説明のための単純な試算です。外部専門職への謝礼や、シートの作成に必要な物品の費用は含んでいません。
大切なのは、この数字が、事故が起きた場合の影響と比べて、大きな負担ではないかを考えることです。誤嚥や窒息の事故が起きた場合の、利用者への影響、家族への影響、法人への影響は、金額では測れません。数字は、体制づくりに必要な費用を把握するための目安として使うのが適切です。
運営者が特に気をつけた点
運営者として特に気をつけたのは、次の点です。まず、事故を職員の不注意の問題にしないことです。ヒヤリハットが起きたとき、その職員を責めるのではなく、「どの情報が足りなかったのか」「どの手順がなかったのか」を確認し、仕組みの側を直しました。責められる環境では、ヒヤリハットが報告されなくなります。
次に、食形態を決める人と、守る人を分けることです。食形態は、専門職の評価をふまえて決め、現場の職員が自己判断で変更しないようにしました。一方で、現場の職員が、利用者の食べ方の変化に気づいた場合は、すぐに共有できる流れを整えました。
さらに、家族への説明も重視しました。食形態を変更する場合は、理由を家族に説明し、理解を得たうえで進めるようにしました。
実践アドバイス
同じような課題を抱える運営者の方に、次のような順序をお勧めします。まず、現状の確認です。食形態の調整が必要な利用者が何名いるか、その情報が、誰でも確認できる形になっているかを確認します。次に、配膳時の確認の流れと、食事中の見守りの役割分担を決めます。
そのうえで、専門職の協力を得て、食形態の評価と、緊急時の対応の研修を進めるとよいでしょう。
一方で、仕組みを一度に整えようとすると、現場の負担が増えます。まず、食形態の調整が必要な方から着手し、運用しながら対象を広げていくことが大切です。食事中に、窒息が疑われる場面になったときは、事業所内だけで対応せず、速やかに救急要請を含む対応を取ってください。
運営者のためのチェックリスト
- ご自身の事業所を振り返るときの観点です。
- 食形態の調整が必要な利用者の情報が、一枚のシートにまとまり、誰でも確認できるか。
- 配膳時に、名前と食形態を二人で確認しているか。
- 食事中の見守り役が、決まっているか。
- 新しい職員や非常勤職員にも、食事支援の研修を行っているか。
- 食形態の見直しが、専門職の評価をふまえて行われているか。
- むせや食べ方の変化が、記録されて共有されているか。
- これらのうち、いくつ「はい」と答えられるかを、定期的に確認してみてください。
まとめ
食事中の誤嚥や窒息の事故は、職員個人の注意力だけで防ぐことはできません。食形態の情報の一元化、配膳時の確認、見守りの役割分担、研修、変化に気づく仕組みを整えることが、利用者の安全と、職員を守る第一歩になります。
なお、基準や加算、事故の報告義務の取り扱いは、サービスの種類や制度改正によって変わることがあります。実際に見直しを行う際は、最新の基準や通知を確認し、不明な点は指定権者(都道府県・市町村)や専門家に確認したうえで進めてください。
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