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改善事例

送迎が現場を圧迫している|送迎コースの見直しと運営者の判断基準

※本事例は、実際の複数の事例をもとに再構成した架空のモデルケースです。特定の法人や事業所を指すものではありません。文中の数字は、説明のために置いた仮定の数字であり、実際の事業所の実績や、効果を保証するものではありません。

はじめに

生活介護や就労継続支援などの通所系サービスでは、送迎が事業運営の大きな部分を占めます。送迎は利用者の通所を支える大切な業務ですが、運転手や添乗員の人員、車両の維持費、運行時間が、現場と経営の両方に重くのしかかっている事業所も少なくありません。

今回は、運営者の視点から、送迎を「なんとなく続けている業務」から「根拠をもって設計する業務」へ変えるための考え方を、モデルケースで整理します。

事例の概要

架空のA事業所は、生活介護の事業所で、登録している利用者は約30名、1日の平均利用者は約20名です。送迎車は4台で、4つのコースを運行しています。1台につき、運転手と添乗員の2名が乗務しています。

運営者は、職員から、「朝夕の送迎に人手を取られて、日中の支援や記録の時間が足りない」という声を何度も聞いていました。一方で、送迎コースは数年前に設定されたものが、そのまま使われていました。利用者の入れ替わりや居住地の変化があっても、コースの見直しは行われていませんでした。

運営者は、送迎が必要な業務であることは大前提としたうえで、現状のコースが今も適切かを確かめることにしました。

コンサルタントの視点――何が起きていたのか

このケースで重要なのは、送迎の負担を職員の頑張りの問題として扱わないことです。コースが固定されたままでは、利用者の居住地や通所日が変わるたびに、一部のコースだけが長くなったり、車内の人数が偏ったりすることがあります。その結果、乗車時間が長い利用者が生まれたり、人員が足りない日に職員が無理をしたりしやすくなります。

運営者の立場で考えるべきは、「送迎にどれだけの人員と時間がかかっているか」と「その送迎が、利用者にとって安全で負担の少ないものになっているか」を、あわせて確認することです。送迎の効率化だけを目的にすると、乗車時間が長くなるなど、利用者に負担を強いるおそれがあります。効率と安全・快適さのバランスを取ることが、運営者の判断の中心になります。

見直しの手順

A事業所では、次の順で見直しを進めました。最初に、現状の見える化です。各コースの走行時間、乗車人数、乗車時間が長い利用者、運転手・添乗員の延べ時間を、一覧にしました。次に、利用者ごとの配慮事項の整理です。車椅子の利用、座席の位置、見守りが必要な方、医療的なケアが必要な方、乗り合わせに配慮が必要な方などを確認しました。

そのうえで、三つの見直しを行いました。一つ目は、コースの再編です。利用者の居住地を地図で確認し、近い方どうしをまとめる形で、コースを組み直しました。二つ目は、乗車時間の上限の設定です。事業所として、一人の利用者の1回当たりの乗車時間に目安を設け、それを大きく超えないようにしました。

三つ目は、利用の少ない日の運行の見直しです。通所人数が少ない日には、コース数を減らせるかを、事前に検討する仕組みにしました。

なお、送迎に関する加算の要件や、運行に関する法令上の義務は、サービスの種類や制度改正によって異なります。見直しを行う際は、最新の基準や通知を確認し、指定権者(都道府県・市町村)や専門家にも確認したうえで進めてください。

数字で見る変化の見通し

ここでは、あくまで仮定の数字で、見直しの効果を考えてみます。見直し前は、4つのコースで、運転手と添乗員の2名が乗務し、1コースの朝夕の運行時間を、合計120分と仮定します。この場合、1日の延べ乗務時間は、4コース×2名×120分=960分で、16時間です。

見直し後は、コースを3つにまとめ、1コース当たりの運行時間がやや長くなって、朝夕で合計130分になったと仮定します。この場合の1日の延べ乗務時間は、3コース×2名×130分=780分で、13時間です。差し引きすると、1日当たり3時間の削減です。

年間の通所日を240日と仮定すると、削減できる延べ乗務時間は、3時間×240日=720時間です。この時間の人件費を、1時間当たり1,800円と仮定すれば、720時間×1,800円=129万6,000円です。さらに、車両を1台減らせた場合に、年間の保険料、燃料費、整備費などが60万円減ると仮定すると、合計は129万6,000円+60万円=189万6,000円となります。

ただし、これは説明のための単純な試算です。実際の効果は、事業所の所在地や利用者の分布、車両の状況によって大きく異なります。また、乗務時間が減っても、その時間が人件費の削減に直結するとは限らず、日中の支援や記録に回す時間の確保として使うほうが、現場には効果的な場合もあります。数字は、運営者が見直しの優先度を考えるための目安として使うのが適切です。

運営者が特に気をつけた点

運営者として特に気をつけたのは、次の点です。まず、乗車時間を延ばしすぎないことです。コースをまとめると、運行時間は短くなっても、一部の利用者の乗車時間が長くなることがあります。A事業所では、乗車時間が長くなる利用者がいないか、コースを変えるたびに確認しました。

次に、利用者とご家族への説明です。コースや乗車時刻が変わる場合は、事前にご本人とご家族へ丁寧に説明し、生活リズムへの影響を確認しました。さらに、運転する職員の安全の確保です。運転手の健康状態や勤務の連続、安全運転の教育に注意しました。

台数や車両の種類によって、法令上、安全運転に関わる管理者の選任などが必要になる場合があるため、あらかじめ確認することも大切です。

実践アドバイス

同じような課題を抱える運営者の方に、次のような順序をお勧めします。まず、現在の送迎の実態を一覧にしてください。コースごとの走行時間、乗車人数、乗車時間が長い利用者、乗務する職員の延べ時間が分かると、見直しの余地が見えてきます。

次に、利用者ごとの配慮事項を整理し、守るべき条件を明確にします。そのうえで、条件を満たす範囲でコースを組み直し、試行期間を設けて様子を見るとよいでしょう。

一方で、見直しの効果は、事業所の立地や利用者の状況によって大きく異なり、必ずしも効率化できるとは限りません。無理にコースを減らすより、現状が妥当だと確認できることも、一つの成果です。

運営者のためのチェックリスト

  • ご自身の事業所を振り返るときの観点です。
  • 送迎コースが、現在の利用者の居住地に合っているか。
  • コースの見直しを、定期的に行う仕組みがあるか。
  • 一人の利用者の乗車時間に、事業所としての目安があるか。
  • 車椅子や見守りが必要な方への配慮が、コースの設計に反映されているか。
  • 運転手や添乗員の負担が、特定の職員に偏っていないか。
  • 運行に関わる法令上の義務や加算の要件を、最新の基準で確認しているか。
  • これらのうち、いくつ「はい」と答えられるかを、定期的に確認してみてください。

まとめ

送迎は、利用者の通所を支える大切な業務であると同時に、現場と経営の両方に影響する業務です。現状の見える化、利用者ごとの配慮事項の整理、コースの再編、乗車時間の目安。この四つを、安全と快適さを損なわない形で進めることが、送迎を根拠をもって設計するための第一歩になります。

なお、送迎に関する加算の要件や、運行に関する法令上の義務は、制度改正によって変わることがあります。実際に見直しを行う際は、最新の基準や通知を確認し、不明な点は指定権者(都道府県・市町村)や専門家に確認したうえで進めてください。

送迎エリアを広げて問い合わせを受け入れる側の見直しは 送迎エリアの再設計の事例、送迎を含む一日の業務負荷の見える化は 支援負荷の見える化の事例、人件費の構造の見直しは 人件費率の改善の事例 もあわせてご覧ください。

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