職員が一人休むたびに「今日は利用者を増やせません」になっていませんか?|業務の多能工化と応援体制で、職員欠勤による受け入れ制限を減らした生活介護事業所
※本記事は架空のモデル事例です。必要な資格・人員配置基準・医療的ケア等の専門業務を、無資格者へ行わせることを推奨するものではありません。
はじめに――空きはある。利用希望もある。でも受け入れられない
定員20名の生活介護事業所。ある水曜日、利用予定は17名。そこへ家族から、「今週だけ水曜日も利用できますか」という相談が入りました。定員上は問題ありません。しかし管理者は、「申し訳ありません。今週は難しいです」と答えました。
理由は職員一人が有給休暇だったからです。別の日には急な体調不良で一人欠勤。また新規見学を延期しました。こうしたことが月に何度も起きています。管理者は、「人員に余裕がないので仕方ありません」と考えていました。ところが職員配置を詳しく調べると、単純な人数不足だけではありませんでした。特定の業務をできる職員が限られていたのです。
1.改善前の状況――「○○さんがいないとできない仕事」が多すぎた
施設には、送迎ルートAは田中さん、入浴準備は佐藤さん、活動プログラムは鈴木さん、利用者Cさんの対応は山田さん、請求前確認は事務員という暗黙の担当がありました。担当者がいる日は問題ありません。しかし休むと、「分からない」「できない」「今日はやめよう」となります。職員数ではなく、業務の属人化が実質的な人手不足を作っていたのです。
2.原因分析――担当制が「専門性」ではなく「固定化」になっていた
担当制自体が悪いわけではありません。問題は、「主担当がいる」から、「主担当しかできない」へ変わっていたことです。第一に、手順が本人の頭の中にありました。送迎ルート、物品準備、家族への連絡方法。すべて経験で覚えています。第二に、教える時間がありませんでした。
「忙しいから私がやった方が早い」が続きます。結果として半年後も、その人しかできません。第三に、管理者が「できる・できない」を把握していませんでした。誰がどの業務をできるのか一覧がありません。シフトを作ってから、「この日は入浴対応できる人が一人しかいない」と気づきます。
3.具体的な改善策①――業務スキルマップを作る
縦に職員名、横に主要業務を並べます。送迎A、送迎B、入浴支援、食事支援、活動進行、新規見学対応、家族連絡、記録確認、緊急時対応などです。そして、◎一人でできる、○経験あり、△指導があればできる、未未経験程度で整理します。これだけで、「この仕事をできる人が一人しかいない」という経営リスクが見えます。
4.具体的な改善策②――「一人しかできない仕事」から教育する
すべての職員にすべての業務を覚えてもらう必要はありません。優先するのは、できる人が一人しかいない業務です。例えば送迎ルートAを一人しか知らなければ、翌月までにもう一人同乗して覚える。活動進行を一人しかできなければ、次回は副担当をつける。「全員を万能職員にする」のではなく、最低2人が対応できる状態を目標にします。
5.具体的な改善策③――休暇予定を「欠員」ではなく教育機会として使う
有給休暇は悪いことではありません。職員が適切に休暇を取得できる組織であるべきです。そこで、「田中さんが休むから困る」ではなく、「田中さんが休んでも回る仕組みを作る」へ考え方を変えます。予定休暇が分かっていれば、その日までに副担当者へ引き継ぎます。結果として、有給取得と安定運営を両立しやすくなります。
6.具体的な改善策④――法人内の「応援可能業務」を決める
複数事業所を運営している法人では、他事業所から応援できる場合があります。ただし、「人が足りないから誰でも来てもらう」では安全ではありません。そこで、どの業務なら応援可能か、必要な事前研修は何か、利用者情報をどう共有するか、緊急時は誰が判断するかをあらかじめ決めます。資格・配置基準・労務管理等を確認したうえで、法人全体で人材を活用します。
7.具体的な改善策⑤――欠勤による「売上機会損失」を記録する
これまでは、「今日は人がいないから仕方ない」で終わっていました。改善後は、追加利用を断った件数、見学延期件数、新規受け入れ延期件数、活動中止件数を記録します。目的は休んだ職員を責めることではありません。組織として欠勤へ耐えられない仕組みが、どの程度経営へ影響しているかを見るためです。
8.売上への効果――月10利用日の機会損失でも年間144万円
モデル事例では、職員不足・属人化を理由に月平均10利用日相当の追加利用や新規受け入れ機会を逃していたとします。1利用日当たりの事業所収入を説明用に12,000円と仮定すると、10日×12,000円で月額120,000円。
年間単純換算では、144万円です。さらに見学延期による新規利用機会まで考えれば、影響はより大きい可能性があります。改善後、すべての欠勤を吸収できるわけではありません。しかし、「特定職員が休んだだけで受け入れ停止」という状態を減らすことで、売上の安定性が高まります。
※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算はサービスの種類や障害支援区分、利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。法人内の他事業所からの応援は、勤務時間の扱いや人員配置基準への影響を含めて指定権者に確認してから行ってください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。
9.改善結果――「休めない職場」と「受け入れられない施設」を同時に改善
モデル事例では、主要業務を最低2名が対応できるようにした結果、予定休暇時の業務混乱が減ったと想定します。さらに職員から、「自分が休むと迷惑をかけるから有給を取りにくい」という声も減りました。これは重要です。売上を増やすために職員を休ませないのではありません。
職員が休んでもサービスを継続できる組織を作ることが、結果として売上安定につながるのです。
10.コンサルタントの視点――人材不足と「人材の使い方不足」を分ける
障害福祉業界で人材不足は現実的な課題です。採用は必要です。しかし現場を見ると、「人が足りない」の中に、「特定職員しかできない」「教えていない」「手順がない」「応援体制がない」が混ざっていることがあります。これらを解消せず採用だけ増やしても、新しい職員が同じ属人化構造へ入るだけです。
だから採用前に、今いる職員の能力を組織として使えているかを確認する価値があります。
11.今回のテーマに特化した実践アドバイス
明日の職員会議で、「この人が1週間休んだら止まる仕事は何ですか」と聞いてみてください。人の名前ではなく、業務を書き出します。その中から重要度の高い三つだけを選び、副担当者を決めます。マニュアルを100ページ作る必要はありません。
最初はA4一枚の手順書と同行・実践で十分です。3か月後にもう一度スキルマップを確認します。
多能工化・受入安定チェックリスト
- 職員別スキルマップがある。
- 一人しかできない業務を把握している。
- 主要業務に副担当者がいる。
- 送迎ルートが属人化していない。
- 活動進行が特定職員だけに依存していない。
- 家族対応方法が共有されている。
- 新規見学を複数職員が対応できる。
- 予定休暇前に引き継ぎを行っている。
- 有給取得を妨げる運用になっていない。
- 法人内応援のルールがある。
- 応援職員に必要な情報を共有できる。
- 資格が必要な業務を無資格者へ任せていない。
- 欠勤による利用制限件数を把握している。
- 欠勤による見学延期件数を把握している。
- 多能工化が職員への過剰負担になっていない。
12.まとめ――「休まない職員」に依存する施設は強い施設ではない
「あの人は一度も休まないから助かる」。一見、頼もしい言葉です。しかし経営の視点では、少し違います。その人が突然休んだらどうなるでしょうか。送迎ができない、活動ができない、家族対応ができない、新規利用者を受け入れられない。
そうであれば、それは優秀な職員がいる組織ではなく、優秀な職員一人に依存している組織です。障害福祉施設で必要なのは、全員を同じ能力にすることではありません。専門性は尊重する、得意分野も生かす、その一方で、事業継続に不可欠な仕事だけは複数人が対応できるようにする。
そうすれば、職員は休みやすくなる、管理者はシフトを組みやすくなる、利用者は安定してサービスを利用できる。そして施設は、職員一人の欠勤で売上が大きく変動しにくくなります。「人を増やす」前に、「一人しかできない仕事を減らす」。
これは人材定着と売上安定を同時に進められる、障害福祉施設の重要な経営改善策です。
主担当+副担当と引き継ぎ1枚で属人化を解く方法は 業務の属人化のコラム、職員が休職したときの備えは 休職・復職への備えの事例、人員配置基準の確認は 常勤換算の計算方法のコラム、複数事業所の法人運営は 複数事業所の数字を見直した事例 もあわせてご覧ください。
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