主任はいるのに管理者の仕事が減らない|「見る・一緒にやる・任せる」で管理業務を移す
「今の管理者が辞めたら困る」「主任はいるけれど、管理者までは任せられない」「管理者候補を募集しているが、なかなか採用できない」——こうしたご相談をいただくことがあります。
ただ、管理者不足は採用だけで解決する問題ではありません。この記事では、次の管理者が育つ道筋をどう作るかを整理します。
※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の数値・内容は改善の考え方を分かりやすくするための想定値です。取り組みの効果は事業所の状況によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。
主任が2名いるのに、管理者は毎日残業していた
想定するのは、職員約30名が勤務する障害福祉事業所です。管理者の下には主任が2名。組織図だけを見れば、管理者を支える体制は整っているように見えます。
ところが管理者は毎日のように残業していました。職員配置、家族対応、事故対応、会議、新人指導、勤務表、行政関係の書類、他事業所との調整——そのほとんどを管理者が行っています。
一方、主任は現場支援の中心として非常によく働いていました。それでも管理者は「主任にはまだ管理業務を任せられない」と考えていました。
ここに一つの矛盾があります。管理業務を経験させていないのに、「管理業務ができない」と評価していたのです。
主任の仕事が「現場で一番頑張ること」になっていた
主任2名の一日を確認すると、利用者支援、新人職員への助言、休憩交代、トラブル対応、送迎補助、活動準備、欠勤職員の穴埋め。一般職員より多くの仕事をしていますが、そのほとんどが現場業務でした。
主任という役職は付いているものの、「経験豊富な現場職員」から役割が変わっていなかったのです。実際、こういう場面が続いていました。
- 職員同士で支援方法の意見が分かれる → 主任は管理者へ相談する
- 急な欠勤が出る → 「今日の配置をどうしますか」と管理者へ聞く
- 家族から要望がある → 「管理者から連絡してもらいます」と引き継ぐ
主任本人に「自分の役割は何だと思いますか」と聞くと、返ってきたのは「管理者を補佐することです」。では「補佐」とは具体的に何をすることなのか——そこが決まっていませんでした。
管理者と主任の間にある「経験の空白」
組織内の役割を並べてみると、構造がはっきりします。
- 一般職員……日常支援
- 主任……日常支援+新人指導+現場調整
- 管理者……職員配置、勤務管理、家族対応、事故対応、会議運営、人材育成、経営数値、行政対応……
つまり主任から管理者へ昇格した瞬間に、求められる能力が大きく変わります。ところが主任の時代に、それらを経験する機会がありません。これでは「管理者になってから管理者の仕事を覚える」ことになります。
管理者育成がうまくいかない最大の原因は、本人の能力不足ではなく、管理業務を練習する期間が設計されていなかったことでした。
整え方① 管理者の仕事を全部書き出す
まず、管理者が1か月間に行っている仕事を洗い出します。勤務表の確認、当日の職員配置、職員面談、新人指導、家族からの相談、事故・ヒヤリ・ハットの確認、ケース会議、行政提出書類、請求関連の確認、稼働状況の確認、他機関との連絡、採用面接、設備管理——想像以上の量が出てきます。
ここで重要なのは、管理者本人が「自分がこれほど多くの仕事をしていたとは思わなかった」と気づくことです。管理者業務が見えなければ、次の管理者へ何を教えるべきかも決まりません。
書き出すときは日次・週次・月次・年次に分けると、そのまま育成のカリキュラムの土台になります。「管理者業務」という言葉のままでは、渡すことも教えることもできません。
整え方② 「見る・一緒にやる・任せる」の3段階に分ける
主任へいきなり管理業務を任せるのではなく、三段階にします。
- 第1段階:見る……管理者が家族面談や職員面談を行う際、必要に応じて主任も同席します。単に参加するのではなく、「管理者が何を確認しているか」を見ることが目的です
- 第2段階:一緒にやる……ケース会議なら前半を管理者、後半を主任が進行する。職員面談なら質問項目を一緒に考える
- 第3段階:任せる……十分に経験した業務は主任が主体となって実施し、終了後に管理者へ報告する
この段階を置くことで、「知らない仕事を突然任される」状態を防げます。任される側の不安も、任せる側の不安も、ここで下がります。
整え方③ 主任ごとに「一つの管理業務」を持たせる
すべての管理業務を同時に教えることはしません。一人につき一つから始めます。
たとえば一方の主任には新人職員の3か月フォローを担当してもらい、もう一方にはケース会議の運営を担当してもらう。一定期間経験したら担当を入れ替えます。
こうすることで、主任は少しずつ「現場支援をする人」から「現場を動かす人」へ変わっていきます。管理者の側も「任せたら自分が楽になる」という実感を持てるようになり、次を任せやすくなります。
整え方④ 月1回30分の「管理者育成面談」に変える
主任との面談の中身も変えます。従来の「最近どうですか」「職員間で問題はありませんか」という現場確認から、次の4点へ。
- 今月、自分で判断したことは何か
- 判断に迷ったことは何か
- 管理者ならどう判断すると思ったか
- 来月、経験したい管理業務は何か
この面談の目的は評価ではなく、管理者として考える練習です。現場の能力が高い職員が、必ずしも管理者として力を発揮するとは限りません。管理者には「自分ならどう支援するか」だけでなく、「組織としてどうするか」を考える力が必要だからです。
▶ 日々の相談の受け方そのものを変えて判断力を鍛える方法(「どうしましょう?」を「私はこう考えます」に変える)は 管理者に判断が集中する施設、判断の境界線を3段階の基準表として文書化し主任へ権限を明文化した実例は 管理者が現場から抜けられなかった施設|委任できるようになった転機 にまとめています。本記事は管理業務そのものを段階的に移していく設計を扱っています。
整え方⑤ 管理者が休む日を、責任者の練習日にする
管理者が有給休暇などで不在になる日を、育成の機会として使います。重大な事故や緊急事態など管理者へ連絡する基準は明確にしたうえで、日常的な判断はその日の責任者となった主任が行います。
そして翌日、「どんな判断をしたか」「迷った案件は何か」「次回ならどうするか」を管理者と振り返ります。
研修室で管理者論を学ぶだけでは、管理の力は身につきません。実際に判断し、その結果を振り返る経験が要ります。
変わるのは「管理者が休んだ翌日」
管理業務を段階的に移していくと、変化がはっきり出るのは管理者の不在日です。以前は翌日に「昨日の件ですが」という確認事項が大量に残っていたのが、主任が判断できるものはその日のうちに処理されるようになります。
主任側の認識も変わります。「管理者は事務仕事をしている人」から「施設全体を見て判断する仕事」へ。管理者側も「まだ任せられない」から「ここまでは任せられる」と考えられるようになります。この違いは小さくありません。
管理者育成は「優秀な職員を昇進させること」ではない
障害福祉の現場では、支援技術が高い、勤務態度が良い、経験年数が長いという理由で主任や管理者へ昇進することがあります。しかし現場支援と管理業務では、求められる能力が違います。
優秀な支援者は「自分がどう支援するか」を考えます。管理者は「職員全体が適切に支援できる状態をどう作るか」を考えなければなりません。だからこそ、昇進の辞令を出した日から育成を始めるのでは遅いのです。
主任やリーダーの段階から、人を育てる/会議を運営する/職員配置を考える/問題を判断する/経営数字を見る/家族対応を経験する、という機会を少しずつ作る必要があります。
管理者候補がいない施設ほど、「誰を管理者にするか」より先に「管理者になるために何を経験させているか」を確認することが大切です。
実践のポイント
- ① 「管理者業務」という言葉のままにしない……日次・週次・月次・年次に分けて具体的に書き出します。それが育成カリキュラムの土台になります
- ② 資料作成を任せるだけでは育成にならない……一定の範囲について「あなたが判断してください」という経験を作ります
- ③ 管理者が休むたびに電話がかかってくるなら、依存が強い状態……連絡すべき案件と、主任が判断してよい案件を分けます
- ④ 一度も判断ミスをさせない育成は現実的でない……安全や法令に影響しない範囲では、「なぜその判断をしたか」を振り返ることが成長につながります
- ⑤ 後継者を一人だけに絞らない……その職員が退職すると再びゼロからになります。複数の主任・リーダーへ異なる管理経験を与え、候補層そのものを厚くします
管理者育成チェックリスト
- □ 管理者の具体的な業務一覧がある
- □ 主任と一般職員の役割の違いが明確である
- □ 主任が新人育成を経験している
- □ 主任が会議の運営を経験している
- □ 主任が職員配置の調整を経験している
- □ 主任が家族対応を経験する機会がある
- □ 主任が自分で判断してよい業務の範囲が決まっている
- □ 管理者不在時の責任者と権限が明確である
- □ 管理者候補との定期的な育成面談がある
- □ 管理者候補を一人だけに限定していない
まとめ——「次の管理者がいない」のではないかもしれない
管理者が退職すると分かってから「次は誰に任せよう」と考え始める施設があります。しかし管理者は、一朝一夕には育ちません。
現場支援ができる、新人へ教えられる、チームをまとめられる、会議を進行できる、家族と話せる、職員配置を考えられる、問題が起きたときに判断できる、そして施設全体を見られる。こうした経験を一段ずつ積み上げた先に、管理者があります。
いまの主任について「まだ管理者は無理だ」と感じるのであれば、その人の能力を評価する前に、「管理者になるための経験を、これまで何回与えただろうか」と考えてみてください。
管理者育成とは、研修へ参加させることだけではありません。今日の会議を一つ任せる。次の新人面談を担当してもらう。管理者の不在日に判断してもらう。来月の稼働状況を分析してもらう。こうした小さな経験の積み重ねです。
そして目指すのは、管理者のコピーを作ることではありません。管理者がいなくても一定の水準で施設が動き、次の管理者が組織の中から自然に育ってくる状態をつくることです。
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