定員は埋まっているように見えるのに、なぜ売上が伸びないのか|「利用者数」から「曜日別・時間帯別の稼働」へ経営指標を変えた生活介護事業所
※本記事は障害福祉事業所で起こり得る課題をもとに構成した架空のモデル事例です。特定施設の実績ではありません。人数・金額は改善方法を説明するための想定値です。実際の利用調整は本人の希望、個別支援計画、人員配置、指定基準等を前提として行う必要があります。
はじめに――「利用者は18人います」は経営数字ではなかった
定員20名の生活介護事業所。登録利用者は18名。管理者は、「ほぼ定員まで来ています」と考えていました。そのため、新規利用者募集にもそれほど力を入れていませんでした。ところが月次の売上を見ると、法人代表が期待している水準まで届きません。
管理者は不思議そうに言います。「18人も登録しているんですが……」。そこで利用実績を曜日別に並べました。月曜日17名、火曜日18名、水曜日11名、木曜日13名、金曜日17名。大きな偏りがあります。さらに利用契約を見ると、登録18名のうち週5日利用は一部で、週1から3日の利用者が多くいました。
つまり、「登録利用者18名」と「毎日18名利用している」は全く違う状態だったのです。経営上見るべき数字を「登録者数」から「利用枠」に変えることにしました。
1.改善前の状況――月末に総利用人数しか見ていなかった
この事業所では毎月、登録利用者数、新規利用者数、退所者数、月間売上を確認していました。しかし曜日別の稼働は確認していません。水曜日に11名しか来ていなくても、月曜日に17名来ているため、職員には「いつも忙しい施設」という印象があります。
さらに送迎ルートや入浴支援なども曜日によって異なり、感覚的な忙しさと実際の稼働人数が一致していませんでした。経営者から、「あと何人利用できますか」と聞かれても、管理者は、「2人くらいでしょうか」と答えるしかありません。しかし実際には、月曜日の空き3枠と、水曜日の空き9枠は経営上まったく同じではありません。
2.原因分析――「人」を管理していて「枠」を管理していなかった
原因は大きく三つありました。第一に、登録人数を稼働率だと思っていました。18人÷20人=90%。一見すると稼働率90%です。しかしこれは登録率に近い数字です。利用曜日を考慮していません。第二に、新規相談時に「空いている曜日」を提示していませんでした。
相談支援専門員から、「空きがありますか」と聞かれると、「少しあります」と答えていました。これでは水曜日に9枠空いていることが伝わりません。第三に、利用希望と施設都合を整理していませんでした。ある利用者は週3日利用を希望しています。
別の利用者は現在週2日ですが、本人・家族から「もう1日利用したい」という相談が以前ありました。しかし、「曜日を確認します」のまま止まっていました。利用者側のニーズと空き枠が結びついていなかったのです。
3.具体的な改善策①――「曜日別稼働表」を1枚作る
複雑なシステムは必要ありません。縦に利用者、横に月から金、利用予定日に○を入れます。その下に、定員、予定利用人数、実利用人数、空き枠を表示します。すると、月曜3枠、火曜2枠、水曜9枠、木曜7枠、金曜3枠と一目で分かります。さらに実利用人数も確認すると、予定と実績の差も見えてきます。
4.具体的な改善策②――空きを「あと2人」ではなく「水・木に空きあり」と伝える
地域への情報提供方法を変えました。以前は、「定員20名。若干空きがあります」でした。改善後は、「水曜日・木曜日を中心に新規利用相談可能です」とします。もちろん実際の受入可否は支援内容、人員配置、送迎等によって判断します。
しかし紹介する側からすると、どの曜日なら相談しやすいのかが分かるだけで紹介のしやすさが大きく変わります。
5.具体的な改善策③――既存利用者の「潜在的な追加利用ニーズ」を確認する
ここで注意したいのは、売上のために利用日数を増やすことではありません。本人の希望や支援上の必要性が前提です。個別支援計画のモニタリング等の機会に、「現在の利用日数で生活上困っていることはありませんか」「日中活動をもう少し増やしたい希望はありますか」「現在利用していない曜日はどのように過ごしていますか」と確認します。
その結果、本人の希望と支援上の必要性があり、利用決定等の条件も整えば、追加利用を検討できます。逆に本人が現在の日数を希望しているなら増やしません。
6.具体的な改善策④――「人数」だけでなく支援負荷も重ねる
単純に20人まで入れればよいわけではありません。例えば水曜日は11名でも、入浴支援が集中している。木曜日は13名だが、個別対応の必要な利用者が多い。こうした場合があります。そこで曜日別稼働表に、入浴、個別対応、医療対応、送迎負荷、活動内容などを重ねます。
すると、「水曜日は9人空いているが、現実的な受入余力は4人程度」という経営判断ができます。これが数字だけで定員を埋める経営と、支援品質を守りながら稼働を上げる経営の違いです。
7.具体的な改善策⑤――毎月「失われた利用枠」を数える
例えば定員20名、月20営業日なら、理論上の延べ利用可能枠は400です。実際の延べ利用が300なら、400-300=100枠。もちろん100枠すべてを埋められるわけではありません。しかし、「登録者は18人」だけを見ていたときには見えなかった経営余力です。
次に、人員配置、支援負荷、送迎、本人ニーズなどを考慮し、実際に提供可能な枠を設定します。
8.売上への効果――週8枠の改善でも年間約460万円
モデル事例では、水曜日と木曜日を中心に、新規利用と本人の希望に基づく追加利用を合わせ、平均して1日4利用、週8利用分が増えたと仮定します。説明用に1利用日当たりの事業所収入を12,000円とすると、8利用/週×4週×12,000円で月額384,000円。
年間単純換算では、約460万円です。広告を大量に出したわけではありません。定員を増やしたわけでもありません。既存の空き枠を見えるようにしたことが出発点です。当然ながら実際の報酬、営業日、加算、人件費等によって数字は異なります。
※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算は障害支援区分や利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。受け入れ人数は、人員配置基準と安全な支援体制を満たす範囲で判断し、利用日数は本人の希望と支給決定の内容が前提です。最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。
9.改善結果――「何人空いていますか?」に即答できるようになった
改善前は、「あと2人くらいだと思います」でした。改善後は、「水曜日は支援体制を考慮して3から4名、木曜日は2名程度、新規相談可能です」と答えられるようになりました。相談支援専門員からの問い合わせにも具体的に対応できます。
さらに職員も、「利用者を増やされる」という感覚から、「木曜ならこの支援体制なら対応できる」という話ができるようになりました。
10.コンサルタントの視点――稼働率は一つの数字ではない
障害福祉施設で、「稼働率は何%ですか」と聞くことがあります。しかし本当に見たいのは、登録者数ではありません。曜日、時間帯、支援負荷、職員配置、本人ニーズを含めた実際に提供可能なサービス枠に対して、どれだけ利用されているかです。
売上を改善するなら、最初に利用者を探すのではなく、「どこが空いているのか」を明らかにすることです。
11.今回のテーマに特化した実践アドバイス
まず次の1か月について、曜日別の予定利用人数を書き出してください。次に予定ではなく、実際に何人利用したかを記録します。その差が大きい曜日を確認します。さらに、人数だけでなく支援負荷を加えてください。最後に地域へ「空いています」ではなく、「何曜日なら相談可能か」を伝えます。この順番なら、無理な受け入れを防ぎながら稼働改善ができます。
曜日別稼働改善チェックリスト
- 登録者数と実利用人数を分けている。
- 曜日別予定人数を把握している。
- 曜日別実利用人数を把握している。
- 曜日別空き枠を把握している。
- 曜日別の支援負荷を確認している。
- 入浴等の集中状況を確認している。
- 職員配置と利用人数を重ねている。
- 新規相談時に空き曜日を具体的に伝えている。
- 本人の追加利用希望を把握している。
- 売上目的だけで利用日数を増やしていない。
- 理論定員と実際の受入可能人数を区別している。
- 月間の未利用枠を把握している。
- 稼働改善後も支援品質を確認している。
12.まとめ――「定員20名、利用者18名」だけでは何も分からない
障害福祉施設の経営数字は、登録者数だけでは見えません。18名登録していても、毎日18名来るとは限りません。そして同じ15名でも、曜日によって職員の負荷は違います。だから稼働率改善の第一歩は、利用者を増やすことではなく、現在の利用状況を分解することです。
月曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、それぞれ、「何人来ているのか」「あと何人なら安全に支援できるのか」を出してみてください。そこに本人のニーズと地域の需要を重ねる。すると、売上を増やす場所が具体的に見えてきます。
登録者数と実際の利用率の違い・欠席の見直しの解説は 登録はあるのに稼働率が上がらない、曜日ごとの収支から赤字の曜日を見つける方法は 「赤字曜日」を見つける、本人の希望に基づく追加利用の確認の例は 新規利用者を増やさず、月商28万8,000円の増収を実現するには?、支援の負荷を見える化した例は 職員はいるのに、なぜ毎日「人が足りない」と感じるのか、問い合わせの紹介元を記録して新規利用につなげた例は 「どこから紹介された利用者か」を把握していますか? もあわせてご覧ください。
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