求人を出しても応募がなく、紹介会社に頼り続けている|採用を仕組みにして費用と入職後のミスマッチを減らす
※本事例は、実際の複数の事例をもとに再構成した架空のモデルケースです。特定の法人や事業所を指すものではありません。文中の数字は、説明のために置いた仮定の数字であり、実際の事業所の実績や、効果を保証するものではありません。
はじめに
障害福祉の現場では、職員の確保が、多くの事業所に共通する課題になっています。求人を出しても応募が集まらず、人材紹介会社に頼ると、採用1名ごとに、高額な紹介手数料が発生します。さらに、入職したものの、「聞いていた仕事と違う」と感じて短期間で退職してしまえば、費用と時間が無駄になります。
今回は、運営者の視点から、採用を担当者任せにせず、仕組みとして整える方法を、モデルケースで整理します。
事例の概要
架空のJ法人は、生活介護とグループホームを運営しています。職員は22名で、毎年3名程度の入れ替わりがあります。欠員が出るたびに、求人媒体に募集を載せますが、応募は少なく、最終的に人材紹介会社を通じて採用することが続いていました。
運営者が採用の記録を振り返ると、紹介手数料が大きな負担になっているだけでなく、入職後3か月以内に退職した職員が複数いたことが分かりました。退職理由を聞くと、「夜勤の回数が想像と違った」「利用者の支援の難しさを事前に知らなかった」という声がありました。
求人票には、仕事の良い面しか書かれておらず、現場の実際の姿が伝わっていませんでした。
コンサルタントの視点――何が起きていたのか
このケースの問題は、採用が、欠員が出てから慌てて行う作業になっており、応募者に伝える情報が、現場の実際とずれていたことです。応募者は、求人票と見学の印象で職場を選びます。そこで実際の姿が伝わらなければ、入職後のミスマッチが起こりやすくなります。
運営者の立場で考えるべきは、採用を、一時的な人集めではなく、定着までを含む一連の流れとして設計することです。何を伝え、誰が応募者と会い、入職後にどう支えるかを決めておくことで、採用の費用と、早期退職のリスクを、同時に減らせる可能性があります。
見直しの手順
J法人では、次の順で見直しを進めました。最初に、過去3年の採用と退職の記録を整理しました。どの経路で採用し、いくらかかり、何か月で退職したのかを一覧にして、紹介会社経由の採用が多いこと、早期退職は夜勤や支援の難しさについての説明不足に関連していることを確認しました。
そのうえで、五つの見直しを行いました。一つ目は、求人票の見直しです。仕事の良い面だけでなく、夜勤の回数、支援の難しい場面、一日の流れを、具体的に書きました。二つ目は、職場見学の定期開催です。2か月に1回程度、現場を見てもらう機会を設け、職員が直接話をする時間をつくりました。
三つ目は、面接での確認事項の整理です。希望する働き方と、事業所が求める働き方に、ずれがないかを、面接で確認するようにしました。
四つ目は、職員紹介の仕組みです。職員が知人を紹介し、採用に至った場合に、報奨金を支払う制度を設けました。五つ目は、入職後の支援です。入職後の数か月間、先輩職員が相談役となり、定期的に面談する流れにしました。
なお、求人票に記載する労働条件の明示、職員紹介の報奨金の扱い、必要な資格や研修、人員配置の基準は、サービスの種類や制度によって異なります。見直しを行う際は、求人の内容が実際の労働条件と一致しているかを確認し、最新の基準や通知、指定権者(都道府県・市町村)や社会保険労務士などの専門家に確認したうえで進めてください。
職員紹介の報奨金は、職業安定法第40条(報酬の供与の禁止)との関係にも注意が必要です。同条は、労働者の募集を行う者が、募集に従事する被用者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合などを除いて、報酬を与えてはならないとしています。
導入する場合は、制度の設計と支払い方を、社会保険労務士などの専門家に確認してください。
数字で見る変化の見通し
ここでは、あくまで仮定の数字で、採用にかかる費用を比べてみます。時間単価は1,600円、人材紹介の手数料は、採用者の年収300万円の30%と仮定します。すると、1名あたり、300万円×30%=90万円です。現状は、年間3名を紹介会社経由で採用しているため、3名×90万円=270万円です。
見直し後は、年間3名のうち2名を、自法人での直接採用に切り替え、1名は引き続き紹介会社経由とすると仮定します。直接採用にかかる費用は、求人媒体が年間30万円、職場見学を年6回、1回2時間、職員2名で行うと6回×2時間×2名×1,600円=3万8,400円です。
面接は、応募者10名に、1名1時間、職員2名で対応すると、10名×1時間×2名×1,600円=3万2,000円です。職員紹介の報奨金は、1名に5万円とします。直接採用の費用の合計は、30万円+3万8,400円+3万2,000円+5万円=42万400円です。
紹介会社経由の1名分90万円を加えると、見直し後の採用費用は、90万円+42万400円=132万400円です。現状の270万円との差は、270万円-132万400円=137万9,600円です。
ただし、これは説明のための単純な試算です。実際に2名を直接採用できる保証はなく、応募が集まらなければ、紹介会社に頼る場面は残ります。また、入職後の面談にかかる時間や、早期退職が減ることによる効果は、この試算に含めていません。
大切なのは、採用にかかる費用の全体を把握し、紹介会社への依存度を運営者が意識して管理することです。
運営者が特に気をつけた点
運営者として特に気をつけたのは、次の点です。まず、現場の厳しい面も、正直に伝えることです。良い面だけを伝えて採用すると、入職後のミスマッチにつながり、結果として早期退職を招きます。次に、現場の職員を、採用の担い手として位置づけることです。
職場見学や面接に職員が関わることで、応募者は、実際の職場の雰囲気を知ることができます。
さらに、職員紹介の制度を導入する際は、紹介された方が不利益を受けたり、紹介した職員の人間関係に影響が出たりしないよう、配慮しました。紹介を断る場合の基準も、事前に決めておきました。採用の判断は、紹介の有無にかかわらず、同じ基準で行うことにしました。
実践アドバイス
同じような課題を抱える運営者の方に、次のような順序をお勧めします。まず、過去数年の採用の記録を整理し、経路ごとの費用と、退職までの期間を確認してください。次に、求人票を、現場の職員に読んでもらい、実際の仕事とずれがないかを確認してください。
一方で、一度にすべてを変えようとすると、現場の負担が増えます。まず、求人票の見直しと、職場見学の開催から始め、効果を見ながら、職員紹介や入職後の面談を広げていくことが大切です。採用を急ぐあまり、必要な資格や研修の確認がおろそかにならないよう、確認の手順も、あわせて整えてください。
運営者のためのチェックリスト
ご自身の事業所を振り返るときの観点です。
- 採用経路ごとの費用を、運営者が把握しているか。
- 入職後3か月以内の退職の理由を、記録しているか。
- 求人票は、夜勤の回数や支援の難しい場面を含め、実際の仕事を伝えているか。
- 職場見学の機会があり、職員が直接話をしているか。
- 面接で、希望する働き方とのずれを確認しているか。
- 入職後に、相談できる先輩職員が決まっているか。
- 求人の内容が、実際の労働条件と一致しているか。
まとめ
採用は、欠員が出てから慌てて行うのではなく、求人票、職場見学、面接、入職後の支援までを含めた、一連の仕組みとして整えることが基本です。採用費用の全体を把握し、紹介会社への依存度を管理しながら、現場の実際の姿を伝えることで、費用と早期退職の両方を減らせる可能性があります。
ただし、人材の確保には外部環境の影響も大きく、取り組んでも思うように応募が集まらない場合もあるため、粘り強い見直しが必要です。
なお、制度や基準は、サービスの種類や制度改正によって変わることがあります。実際に見直しを行う際は、最新の基準や通知を確認し、不明な点は指定権者(都道府県・市町村)や専門家に確認したうえで進めてください。
求人票の見直しは 求人票を書き直した事例、面接の進め方は 採用面接を変えた事例、採用経路の広げ方は 採用チャネルを広げた事例、入職後の育成は 新人教育の仕組みのコラム もあわせてご覧ください。
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