就労継続支援B型の工賃が上がらない理由と改善策|全国平均と構造の見直し
——全国平均を知り、構造を変える
「工賃が全然上がらない」「利用者に申し訳ない」——就労継続支援B型の管理者から、この言葉を繰り返し聞きます。
工賃が低いことは利用者の生活水準だけでなく、事業所の報酬体系にも直結します。2024年度の報酬改定では工賃向上支援体制等加算が再編され、工賃額が経営に与える影響はさらに大きくなりました。
しかし「工賃を上げたい」と思っていても何から手をつければいいかわからない——そうした声が多く聞かれます。この記事では、工賃が上がらない構造的な理由を整理し、実際に改善につながった取り組みをお伝えします。
まず現状を把握する——全国平均工賃データ
厚生労働省「就労継続支援B型事業所における工賃の実態調査(令和4年度)」によれば:
- 全国平均工賃月額:約17,031円
- 全国平均工賃時間額:約233円
- 最低賃金との比較:最低賃金の約20〜25%水準にとどまる
自法人の工賃がこの水準と比べてどこにあるかを確認することが出発点です。
(出典:厚生労働省 令和4年度 工賃(賃金)の実績について)
工賃が上がらない「4つの構造的な理由」
「一生懸命作業しているのに工賃が上がらない」——その背景には、個別の努力では解決しにくい構造的な問題が潜んでいます。
①作業単価が低い「下請け依存」の構造
多くのB型事業所が陥りやすいのが、単価の低い下請け作業への依存です。箱の組み立て・袋詰め・部品の選別など労働集約型の単純作業は、発注企業の都合で量が変動しやすく単価交渉の余地も少ない傾向があります。「とりあえず仕事があるから」と同じ発注元との関係を続けているうちに、単価改善の機会を逃し続けているケースが多く見られます。
【下請け依存のサイン】
- 発注元が1〜2社のみ
- 単価の見直し交渉を一度もしたことがない
- 作業量が毎月大きく変動する
- 発注元の要求を「断れない」感覚がある
②「利用者の能力」ではなく「作業の設計」の問題
工賃が低い本当の理由は利用者の能力ではなく、作業の設計にあることが多い——これは重要な視点です。利用者一人ひとりの得意なこと・集中できる時間・作業精度を把握した上で、それに合った作業を設計できているかが問われます。
個別支援計画に「工賃向上のための目標」が盛り込まれているかという観点も重要です。支援計画と工賃向上が連動していない事業所では、職員が工賃を意識した支援を行いにくい構造になっています。
③販路開拓・営業活動が「属人化」している
仕事の取り方が管理者や特定スタッフの人脈に依存しており、体系的な営業活動が行われていないケースが多く見られます。「知り合いの会社に頼んでいる」「以前からある付き合い」——こうした関係に依存した受注体制は、担当者が変わった瞬間に崩れるリスクがあります。B型事業所の営業は「お願いする」ものではなく「社会貢献活動への参加を提案する」という位置づけで行うことが有効です。
④工賃向上計画が「作って終わり」になっている
就労継続支援B型事業所は工賃向上計画の策定・公表が求められています。しかし計画を作ることが目的となり、PDCAが機能していない事業所が少なくありません。計画に数値目標はあるか、目標に対して現状をどう評価しているか、職員全員が計画を理解しているか——これらが機能して初めて計画は意味を持ちます。
工賃改善につながった5つの取り組み
改善①:作業の「単価棚卸し」と発注元の多様化
現在の作業を単価別に一覧化し、時間あたりの生産額を計算します。「この作業は1時間あたりいくらの売上を生んでいるか」を見える化することが出発点です。
単価棚卸しの計算方法(例)
- 作業名:封入・封緘作業/月間受注量:5,000部/単価:8円/部/月間売上:40,000円
- 月間作業時間:延べ100時間(10名×10時間)/時間あたり売上:400円
- → 最低賃金(例:1,000円)の40%水準。改善候補として優先度高。単価交渉または作業切り替えを検討
改善②:自主製品・自主販売の導入
下請け依存から脱却する有効な手段が自主製品の開発・販売です。利用者が製造した製品を自ら販売することで、中間マージンなしの収益が得られます。「障害者が作ったから買ってほしい」ではなく「品質・デザイン・価格で選ばれる」製品を目指すことが、長期的な工賃向上につながります。
【自主製品導入の成功パターン(事例より)】
- 地元農家と連携した農産物の袋詰め・直売(農業系B型)
- カフェ運営による飲食サービス提供(地域密着型)
- 企業の名刺・印刷物のデザイン・印刷(ICTスキルを活かす)
- 清掃・除草・施設管理等の地域サービス(安定した反復需要)
共通点は「地域に必要とされているという接点がある」ことです。
改善③:個別支援計画への「工賃目標」の組み込み
工賃向上を支援の目標として明示することで、職員全員が工賃を意識した支援を行えるようになります。個別支援計画に「今月の目標生産量」「習得したい作業スキル」「工賃目標」を記載し、モニタリングで進捗を確認するサイクルを回します。利用者本人が自分の工賃を把握し目標を持つことも重要です。
改善④:企業との「継続的なパートナーシップ」構築
特定企業との長期パートナーシップを築くことで、安定した高単価の仕事を継続的に受注できるようになります。企業側には「CSR・SDGs活動の実績」「障害者雇用への理解促進」「安定した下請け先の確保」をメリットとして訴求します。商工会議所・地域の経営者団体への参加が、パートナーシップ構築の入口になることが多くあります。
改善⑤:工賃向上計画のPDCAを「見える化」する
工賃向上計画を掲示し、月次の進捗を全職員・利用者が見られる状態にします。「今月の目標工賃」「現状」「達成率」を数字で示すだけで、職員の意識は変わります。月1回15〜20分のミーティングで進捗を共有し、課題があれば対策を議論するサイクルを続けることが、形骸化した計画を実効性のある計画に変えます。
改善後の変化——ある事業所の事例
下請け依存と工賃計画の形骸化を抱えていたB型事業所(定員25名)において、改善策①③⑤を6か月かけて実施した参考値です。
| 指標 | 改善前 | 改善後(6か月) |
|---|---|---|
| 平均工賃月額 | 約12,400円 | 約19,800円(+60%) |
| 作業種別数 | 2種類(下請けのみ) | 5種類(自主製品含む) |
| 工賃計画の達成率 | 把握なし | 月次でモニタリング実施 |
| 利用者の出席率 | 平均71% | 平均82% |
| 工賃向上支援体制等加算 | 未算定 | 算定開始 |
※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。改善幅は事業規模・作業内容・取り組みの徹底度により異なり、同様の成果を保証するものではありません。
【管理者の感想】
「工賃が上がらないのは利用者の能力のせいだと、どこかで思っていた。でも作業の設計を変え、計画を職員全員で共有するようにしたら、利用者の表情が変わってきた。工賃が上がることが利用者の自信につながるとわかった。」
まとめ——工賃は「上げるもの」ではなく「設計するもの」
工賃が低い理由は利用者の能力でも景気でもなく、事業所の「構造」にあります。下請け依存・販路の属人化・計画の形骸化——これらは設計を変えることで改善できます。
全国平均約17,000円に届いていない事業所は、まず「どの構造的問題が当てはまるか」を診断することから始めてみてください。工賃向上は利用者の生活の質を上げるだけでなく、事業所の報酬(加算)にも直結します。「利用者のため」と「経営改善」が一致する数少ない領域が、工賃向上への取り組みです。
同じB型の運営課題では、就労継続支援B型の稼働率を上げるには もあわせてご覧ください。就労継続支援B型の工賃改善・運営改善のご相談は、サービス内容もあわせて、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。


