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お役立ちコラム

家族の要望に応えるほど本人の意思が見えなくなる|言葉で答えにくい人の意思決定支援と家族対応

家族の要望と本人の意思を分けて考える障害福祉施設の意思決定支援

ご家族からの電話にはていねいに対応し、連絡帳にも詳しく返事を書いている。送迎のときもできるだけ話を聞く。大きな家族トラブルもない。それでも、個別支援計画を見直したときに、職員からこんな疑問が出ることがあります。

「この目標って、ご本人が希望していることなのでしょうか」

この記事では、言葉による意思表示が難しい利用者について、家族の要望を大切にしながら、本人の意思を見失わないための進め方——意思決定支援——を整理します。家族対応と本人中心の支援を対立させず、両方を成り立たせることがテーマです。

※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の内容は改善の考え方を分かりやすくするための想定です。取り組みの効果は事業所の状況によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。

家族の希望、施設の方針、本人の行動が一致していなかった

想定するのは生活介護を中心とする事業所です。利用者のAさんには知的障害があり、言葉による意思表示は限られています。ご家族からは以前から「できるだけ集団活動に参加させてください」「昼間に体を動かして、夜よく眠れるようにしてください」という要望があり、事業所はそれを尊重して、Aさんに集団活動への参加を積極的に促していました。

ところが現場の職員は気づいていました。Aさんは集団活動の時間になると、活動室の入口で立ち止まります。ときには別の部屋へ移動します。一方で、少人数で行う作業には落ち着いて長く取り組めます。

家族の希望、事業所の支援方針、そして本人の行動。この三つが、必ずしも一致していなかったのです。

家族の要望が、そのまま支援目標になっていた

ほかの利用者の個別支援計画も見ると、似た形が見つかりました。「もっと運動させてほしい」「自分で着替えられるようにしてほしい」「ほかの利用者と交流してほしい」「好き嫌いなく食べられるようにしてほしい」——こうした家族の希望が、そのまま支援目標になっているのです。

家族の意見はもちろん大切です。本人の意思表示が難しい場合、長く生活を共にしてきた家族の情報は、支援を考えるうえで大きな意味を持ちます。問題は、「家族の希望=本人の希望」と無意識に扱っていたことでした。職員の口から「ご家族が希望されていますから」という言葉が増え、その分、「本人はどう感じているのか」を確かめる過程が弱くなっていました。

本人の意思を「言葉で答えられるか」で考えていた

職員に「Aさん本人は、集団活動についてどう思っているのでしょうか」と聞くと、「本人は言葉では答えられないので、分からないですね」という答えが返ってきました。ここに原因の一つがありました。本人の意思確認を「質問して、言葉で答えてもらうこと」だと考えていたのです。

意思は言葉だけで表されるものではありません。近づく、離れる、手を伸ばす、表情が変わる、同じものを繰り返し選ぶ、拒む、自分から活動の場所へ向かう——こうした行動も、本人を理解する大切な手がかりです。

ただし、一つの行動だけで「本人はこれを望んでいる」と決めつけるのも危険です。必要なのは、本人の反応を続けて観察し、複数の職員や家族の情報を合わせながら、本人の意思を推し量っていく仕組みでした。

制度の上でも、意思決定支援は運営基準に位置づけられている

これは事業所の姿勢だけの話ではありません。令和6年度の報酬改定では、「障害福祉サービス等の提供に当たっての意思決定支援ガイドライン」を踏まえて、相談支援や障害福祉サービスの指定基準に次のような規定が加わりました。

  • 事業者は、利用者の意思決定の支援に配慮するよう努めなければならない
  • 個別支援計画のアセスメントでは、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合、本人の意思や選好、判断能力などを丁寧に把握しなければならない
  • 個別支援計画を作る会議(個別支援会議)には、利用者本人が参加するものとし、生活に対する意向などを改めて確認する
  • サービス管理責任者は、本人の自己決定の尊重を原則としたうえで、意思決定支援が行われるよう努めなければならない

つまり、家族の希望をそのまま目標に写すのではなく、本人の意思と選好を把握したうえで計画を作ることが求められています。本人が会議にどう参加するか、参加が難しい場合にどう扱うかといった具体的な運用は、指定を受けている自治体の窓口で確認してください。

出典:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(障害者の意思決定支援を推進するための方策)。個別支援計画の作成の流れは 個別支援計画の書き方と作成の流れ で扱っています。

整え方① 家族の「要望」と、その背景にある「心配」を分ける

最初に、家族から要望が出たときに、すぐ支援の内容に置き換えることをやめます

たとえば「もっと運動させてください」と言われたとき、「分かりました。運動の時間を増やします」と答える前に、「運動を増やしたいと思われたのは、何か気になることがあったからですか」と聞いてみます。すると「最近体重が増えてきた」「家ではほとんど体を動かさない」「将来歩けなくなるのが心配」といった背景が見えてきます。

家族が求めているのは「運動」という手段そのものではなく、本人の健康を保ちたいということかもしれません。目的が分かれば、運動以外も含めて方法を考えられます。要望から背景へ、背景から本当の心配へ——ここまで確かめてから支援を考えます。

整え方② 本人の「好き・嫌い」を行動から記録する

意思表示が難しい利用者については、選んだ場面と、拒んだ場面を意識して観察します。

Aさんの場合は、集団活動では入口で止まる、大きな音がすると部屋を出る、少人数の作業には自分から向かう、同じ作業を20分以上続ける——という傾向が見えてきました。

ここで「集団活動が嫌い」と決めつけません。人数なのか、音なのか、活動の中身なのか、時間帯なのか、職員との関係なのか。条件を少しずつ変えながら観察します。そうすると、本人が受け入れやすい環境が少しずつ分かってきます。

整え方③ 日常の中に「選べる場面」を増やす

意思決定支援というと、「今日は何をしたいですか」と本人に尋ねることだと思われがちです。しかし選択肢が多すぎると、意思表示が難しい人には負担になることがあります。

そこで、散歩か創作活動か、お茶か水か、室内か屋外か、赤い材料か青い材料か——本人が分かりやすい形で、二つ程度の選択肢を示します。言葉だけで難しければ、写真、実物、イラスト、場所なども使います。

大きな人生の決定だけが意思決定ではありません。日常の小さな選択を積み重ねることを大切にします。本人が選ぶ経験そのものが、意思決定支援の土台になるからです。

整え方④ 「拒否」を問題行動として処理しない

とくに大切なのが、本人の拒否の扱いです。以前は、活動を拒むと「参加できなかった」と記録されていました。しかし、嫌なものから離れる、首を振る、手を払う、別の場所へ移動する——こうした行動は、本人にとって大切な意思の表れである可能性があります。

そこで職員には、「拒否した=支援の失敗」とすぐに判断しないよう伝えます。なぜ拒んだのか、別の選択肢ならどうか、時間を変えたらどうか、本人が選べる方法だったか——を考えます。本人が「嫌だ」と表せることも、本人中心の支援では大切な力です。

ただし、服薬、受診、食事の形態など、健康や安全に関わる場面での拒否は別に扱います。本人の意思を大切にすることは変わりませんが、職員だけで「本人が嫌がるのでやめる」と判断せず、医師・看護職、家族、相談支援専門員と相談して方法を検討してください。拒否があったことと、そのときの状況は記録に残します。

行動の背景を読み解く支援の実例は 利用者の「問題行動」が減った施設がやっていたこと をご覧ください。

整え方⑤ 家族へ「本人の反応」を観察した事実で伝える

家族に「本人が嫌がっているので、やりません」とだけ説明すると、「事業所が楽なほうを選んでいるのでは」と受け取られかねません。そこで、観察した事実を伝えます。

たとえば「集団活動をお誘いすると入口で立ち止まり、部屋に入らないことが続いています。一方、3〜4人で行う作業では自分から席に向かい、20分ほど続けられています」。そのうえで、「ご家族が心配されている活動量については、本人が参加しやすい少人数の活動や散歩を組み合わせる方法を試してみたいと思います」と提案します。

家族の希望を否定するのではなく、本人の反応を踏まえて、別の方法を一緒に考える形にするのがポイントです。連絡帳で本人の変化を伝える書き方は 家族に「施設で何をしているか分からない」と言われたら で扱っています。

整え方⑥ 会議では「本人だったらどう言うか」を考える

ケース会議にも一つルールを加えます。家族、職員、相談支援専門員、医療職——それぞれの意見を確認したあとに、「本人はこのことについてどう考えていると推し量れるか」を議題にします。

個別支援計画を作る会議には、前の節のとおり本人が参加することが原則です。時間、場所、同席する人、写真や実物の使い方など、本人が参加しやすい形を工夫してください。日常のケース会議のように本人が同席していない場でも、過去の選択、日々の行動、表情、拒否、本人が繰り返し好むことを材料に考えます。

正解が分からないこともあります。それでも、本人について話し合う場に、本人の視点がない状態を当たり前にしないことが大切です。

変わったこと——「家族対施設」から「本人を一緒に考える関係」へ

家族の要望をそのまま受け入れるのでも、事業所が否定するのでもなく、背景の心配を確かめ、本人の反応を具体的に共有したことで、家族との話し合いが変わった、という想定です。

以前は、家族「もっと活動させてください」、事業所「分かりました」という関係でした。改善後は、家族「最近、体力が落ちるのが心配です」、事業所「少人数の活動には自分から参加されています。活動量を増やす方法を一緒に考えてみましょう」という会話に変わりました。

職員も「家族が言っているから」ではなく、「本人にとってどうなのか」を考える習慣がついていきます。家族対応の改善であると同時に、事業所全体の支援の姿勢が変わるきっかけにもなります。

家族と本人を対立させない

本人中心の支援を強調するあまり、「本人の意思が最優先ですから、家族の希望には従いません」という対応になってしまうことがあります。これも適切ではありません。家族は長年本人と暮らし、多くの情報を持っています。将来を心配しているからこそ、強い要望になることもあります。

大切なのは、本人か家族か、どちらかを選ぶことではありません。本人の意思、家族の希望、支援者の専門的な判断、生活上の安全、医療的な必要性——それぞれを整理しながら、本人にとってより良い選択を探していくことです。その中心に置くのが、本人の意思と生活です。

家族からの要望をどう受け止め、記録と担当を決めるかという仕組みの側は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ、家族ごとに知りたい情報を合わせる方法は 家族からの電話が減らない で解説しています。

明日から試せること

  • 「家族の希望」と「本人の希望」を同じ欄に書かない。個別支援計画を作るとき、できれば分けて整理します。一致していないこと自体が問題なのではなく、違いが見えることが大切です。
  • 家族から強い要望が出たら、一度「なぜですか」と聞く。断るためではなく、背景にある不安や心配を理解するためです。
  • 本人の「NO」を記録する。何を拒んだか、どう拒んだか、そのあと何を選んだか。拒否も大切な意思の表れとして観察します。
  • 1週間で、本人が「選んだ回数」を数える。服、飲み物、活動、座る場所、休憩。本人が自分で決めている場面がどれくらいあるかを確かめます。
  • 家族へは結果だけでなく観察事実を伝える。「嫌がっています」ではなく、何を示したときにどんな行動をしたか、別の方法ではどうだったかまで説明します。

本人中心・家族対応チェックリスト

  • 本人の希望と家族の希望を区別して把握しているか
  • 家族の要望の背景にある心配を確かめているか
  • 家族の要望を、そのまま個別支援計画の目標にしていないか
  • 言葉以外の意思の表れにも注目しているか
  • 一つの行動だけで本人の意思を決めつけていないか
  • 本人が選べる機会を日常的につくっているか
  • 本人が分かりやすい選択肢を示しているか
  • 拒否を単なる問題行動として扱っていないか
  • 健康や安全に関わる拒否は、医療職や家族と相談して対応しているか
  • 個別支援会議に本人が参加できるよう工夫しているか
  • 家族へ本人の反応を具体的に説明しているか
  • 家族と事業所が対立する構図になっていないか

まとめ——「本人のために」という言葉ほど、一度立ち止まる

障害福祉の現場では「本人のために」という言葉がよく使われます。家族も本人のためを思い、職員も本人のために支援し、管理者も本人のために判断しています。だからこそ難しいのです。全員が善意で考えていても、本人自身がどう感じているかが抜け落ちることがあります。

言葉で答えられなくても、近づく、離れる、選ぶ、拒む、繰り返す、笑う、手を伸ばす——その人なりの意思の表れがあります。支援者に求められるのは、それを簡単に「本人の意思」と決めつけることでも、「分からない」と諦めることでもありません。日々の小さな反応を積み重ね、家族や関係職種の情報も合わせながら、「この人は何を望んでいるのだろう」と考え続けることです。

家族対応の質とは、家族の要望をすべて受け入れることではありません。本人中心の支援とは、家族の意見を排除することでもありません。本人を中心に置きながら、本人・家族・支援者が一緒により良い生活を探していくことです。

次に個別支援計画を作るとき、家族の希望と職員の支援目標を書き終えたあとに、一つだけ問いを加えてみてください。「この計画について、本人自身は何と言うだろうか。」すぐに答えが出なくても構いません。その問いを持ち続けることが、本人中心の支援に近づく一歩になります。

あわせてお読みください。家族からの電話と要望の受け止め方は 家族からの電話が減らない、家族へ本人の変化を伝える連絡帳の書き方は 家族に「施設で何をしているか分からない」と言われたら、支援方法の統一と個別の判断の分け方は 職員によって支援が違う、個別支援計画の作成の流れは 個別支援計画の書き方と作成の流れ で解説しています。支援体制の整備や運営指導への備えのご相談は サービス内容 をご覧のうえ お問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

よくあるご質問

言葉で答えられない利用者の意思は、どう確かめればいいですか?
意思は言葉だけで表されるものではありません。近づく、離れる、手を伸ばす、表情が変わる、同じものを繰り返し選ぶ、拒む、自分から活動の場所へ向かう——こうした行動が手がかりになります。選んだ場面と拒んだ場面を記録し、人数・音・活動の中身・時間帯などの条件を変えながら観察します。ただし一つの行動だけで決めつけず、複数の職員や家族の情報を合わせて推し量っていくことが大切です。
家族の要望を、そのまま個別支援計画の目標にしてもいいですか?
家族の意見は大切ですが、「家族の希望=本人の希望」とは限りません。令和6年度の報酬改定では、アセスメントで本人が自ら意思を決定することに困難を抱える場合、本人の意思や選好、判断能力などを丁寧に把握しなければならないとされました。個別支援計画を作るときは、家族の希望と本人の希望をできれば分けて整理してください。一致していないこと自体は問題ではなく、違いが見えることが大切です。
個別支援計画を作る会議に、本人は参加しなければいけませんか?
令和6年度の報酬改定で、サービス担当者会議や個別支援会議には利用者本人が参加するものとされ、生活に対する意向などを改めて確認することになりました。時間、場所、同席する人、写真や実物の使い方など、本人が参加しやすい形を工夫してください。参加が難しい場合の扱いなど具体的な運用は、指定を受けている自治体の窓口で確認してください。
家族から「もっと運動させて」と要望されたら、どう対応すればいいですか?
すぐに運動の時間を増やす前に、「運動を増やしたいと思われたのは、何か気になることがあったからですか」と聞いてみてください。「体重が増えてきた」「家で体を動かさない」「将来歩けなくなるのが心配」といった背景が見えることがあります。目的が本人の健康を保つことなら、運動以外も含めて方法を考えられます。本人が参加しやすい活動があれば、観察した事実とあわせて代わりの方法を提案します。
利用者が活動を拒否したとき、どう考えればいいですか?
「拒否した=支援の失敗」とすぐに判断しないでください。嫌なものから離れる、首を振るといった行動は、本人にとって大切な意思の表れである可能性があります。なぜ拒んだのか、別の選択肢ならどうか、時間を変えたらどうかを考えます。ただし、服薬、受診、食事の形態など健康や安全に関わる場面での拒否は、職員だけで中止を判断せず、医師・看護職、家族、相談支援専門員と相談してください。拒否の状況は記録に残します。
本人の意思を優先するなら、家族の希望には従わなくてもよいのですか?
それも適切ではありません。家族は長年本人と暮らし、多くの情報を持っています。将来を心配しているからこそ強い要望になることもあります。本人か家族かを選ぶのではなく、本人の意思、家族の希望、支援者の専門的な判断、生活上の安全、医療的な必要性を整理しながら、本人にとってより良い選択を一緒に探していくことが大切です。家族には「本人が嫌がっています」ではなく、観察した事実を伝えて、代わりの方法を一緒に考える形にします。
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