家族に「施設で何をしているか分からない」と言われたら|連絡帳を活動報告から「本人の変化」が伝わる記録へ
毎日の連絡帳、送迎時の会話、個別支援計画の面談、必要なときの電話。ご家族への情報提供は決して少なくない。それなのに、「施設で一日何をしているかは分かるのですが、本人が成長しているのかどうかがよく分からないんです」と言われる——そういうことはないでしょうか。
この記事では、施設からご家族へ何を、どのように伝えるかを扱います。要点は、連絡の回数を増やすことではありません。「今日何をしたか」という活動報告から、「本人にどのような変化があったか」が伝わる情報提供へ変えることです。
なお、ご家族からの問い合わせや要望を組織として受け止め、記録場所や説明の担当者を決める方法は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ で扱っています。本記事はその続きとして、重複しない範囲で「伝える中身」の側を整理します。
※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の内容は改善の考え方を分かりやすくするための想定です。取り組みの効果は事業所の状況によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。
毎日書いているのに、なぜ「様子が分からない」と言われるのか
想定するのは日中活動系の事業所です。ご家族との関係を大切にしていて、連絡帳もかなりていねいに書いていました。だからこそ、冒頭の言葉は管理者にとって意外でした。
そこで過去1か月分の連絡帳を読み返しました。
- 「午前中は散歩へ行きました」
- 「昼食は完食しました」
- 「午後は創作活動に参加しました」
- 「笑顔で過ごされました」
その日の出来事は分かります。しかし、本人が以前と比べてどう変わったのかは、ほとんど書かれていませんでした。施設は「一日の報告」をしていた。ご家族が知りたかったのは「本人の変化」だったのです。
連絡帳が「施設の日報」になっていた
ほかの利用者の連絡帳も同じでした。「何をしたか」「何を食べたか」「問題なく過ごしたか」が中心です。これ自体は間違いではありません。ただ、毎日似た内容が続くと、月曜は散歩、火曜は創作活動、水曜は音楽活動——という活動の一覧になっていきます。
職員には「ご家族を心配させたくない」という気持ちもありました。そのため「落ち着いて過ごされました」「特に問題ありませんでした」という表現が増えていました。
ご家族から見ると、「問題がなかったことは分かる。でも、本人にどんな支援をしているのかが分からない」という状態です。
「支援」と「報告」がつながっていなかった
そこで個別支援計画と連絡帳を並べてみました。
ある利用者の計画には「本人が自分で活動を選択する機会を増やす」という目標がありました。連絡帳には「午後は創作活動に参加しました」とだけ。実はその日、職員が二つの活動を提示し、本人が写真カードを見て創作活動を選んでいました。計画の目標に直結する場面なのに、ご家族には伝わっていませんでした。
別の利用者の目標は「他者と一緒に活動できる時間を少しずつ増やす」。その日、以前なら5分ほどでその場を離れていた集団活動に、15分参加できていました。連絡帳は「音楽活動に参加しました」だけです。
良い支援は行われていて、職員も変化に気づいている。足りなかったのは、支援の意味をご家族に向けて「翻訳」する仕組みでした。支援現場の側で計画と日々の支援をつなげる方法は 職員によって支援が違う でも扱っています。
整え方① 連絡帳を「出来事+本人の反応」に変える
長く書くことは求めません。ルールを一つだけ変えます。「何をしたか」に加えて、「本人がどうしたか」を一つ書くことです。
- 「創作活動を行いました」→「創作活動と散歩の写真を見せると、ご本人が創作活動を選びました」
- 「散歩へ行きました」→「以前は職員が促してから出発していましたが、今日は自分から帽子を持って玄関へ向かいました」
文章の量はほとんど変わりません。けれど、ご家族に伝わる情報の量は大きく変わります。
整え方② 「できなかったこと」も変化の途中として伝える
職員には「できたことを書かなければ」という意識がありました。しかし支援は毎日うまくいくわけではありません。そこで、うまくいかなかった日も支援の経過として伝えるようにします。
「今日は活動を拒否されました」だけでは、ご家族は心配します。そうではなく、「今日は創作活動への参加をお勧めしましたが、ご本人は首を振って希望されませんでした。別の活動を提示したところ、散歩を選ばれました」と書きます。
これは「活動拒否」という失敗ではありません。本人が意思を示し、別の選択をしたという支援上の情報です。障害福祉では、職員の予定どおりに行動することが必ずしも「できた」ではありません。本人が選んだことそのものが成果になる場合もあります。
ただし、体調の変化、けが、事故などは、ここでいう「書き方の工夫」の対象ではありません。やわらかく書くことで伝わり方が弱まってはいけない情報なので、連絡帳を待たずに事業所で定めた方法ですぐ伝えます。連絡の緊急度の分け方は 家族からの電話が減らない、体調の変化を医療につなぐ仕組みは 「いつもと違う」を医療につなぐ をご覧ください。
整え方③ 月に一度「今月の変化」を一つ伝える
毎日の連絡帳だけでは、中長期の変化は見えにくくなります。そこで月1回程度、「今月見られた変化」を簡潔に伝えます。
たとえば「以前は活動を選ぶときに職員が決めることが多かったのですが、今月は写真カードを使うことで、ご本人が選ぶ場面が増えています」。こう伝わると、ご家族は「施設で何をしたか」だけでなく「支援によって何が変わっているか」を理解しやすくなります。
月1回の報告を様式にして、家族からの不信感を減らした実例は 利用者家族からのクレームが減ったグループホームが変えた「1つのこと」 で紹介しています。
整え方④ 家庭での変化を施設へ返してもらう
情報提供を、施設からご家族への一方通行にしないことも大切です。
施設から「最近、自分から水分を取りに行く場面が増えています」と伝えたところ、ご家族から「家でも自分でコップを持ってくるようになりました」と返ってきた——こうした情報は、支援の評価を変えます。施設の中だけでできる行動なのか、家庭でもできるのか、環境が変わってもできるのかによって、次の支援の組み立てが変わるからです。
そこで「ご家庭ではどうですか」と聞く機会を意識してつくります。施設での変化と家庭での変化をつなぐことで、本人の生活全体を見られるようになります。
整え方⑤ 本人が家族へ伝えたいことも確認する
家族への情報提供で忘れてはいけないのが、利用者本人の意思です。施設とご家族が本人について情報をやりとりすることが、いつも本人の希望と一致するとは限りません。
本人が意思を表せる場合には、本人自身が伝える側に参加できる方法を取り入れます。
- 「今日、お家の人に何を伝えたい?」と聞く
- 写真から選んでもらう
- 本人が作った作品を見せる
- 本人の言葉をそのまま連絡帳に書く
「施設が本人について家族へ報告する」から、「本人も一緒に家族へ伝える」へ。これは家族対応であると同時に、本人中心の支援でもあります。
あわせて、次の2点も事業所として決めておいてください。一つは、成人の利用者の場合、家族であっても本人が伝えてほしくないと考えていることがあるという点です。何をどこまで伝えるかは本人の意向を確認し、判断に迷うときは相談支援専門員など関係者と相談します。もう一つは写真です。写真を送るときはほかの利用者が写り込まないようにし、送る方法も事業所として決めておきます。
変わったこと——会話が「今日はどうでしたか?」から変わった
連絡帳の文章量を大きく増やしたわけではありません。それでも、ご家族の反応が変わった、という想定です。
以前は送迎時に「今日はどうでしたか?」と聞かれることがほとんどでした。改善後は「昨日、家でも自分で選んでいました」「最近、施設でも自分から動くことが増えていますか」という会話が増えました。ご家族と職員が、その日の出来事ではなく本人の変化について話せるようになったのです。
職員の側にも変化がありました。連絡帳に「本人の変化」を書こうとすると、日中から利用者の行動をよく見るようになります。家族への情報提供を変えたことが、職員の観察や支援の評価にもつながったわけです。
「連絡量」を増やしすぎない。中心にいるのは本人
家族対応を良くしようとして、連絡帳を詳しくする、電話を増やす、写真をたくさん送る、面談を増やす——という方向に進む施設があります。しかし、情報量を増やせば信頼関係が深まるとは限りません。職員の記録負担も増えます。
大事なのは量ではなく、ご家族が知りたい情報と、施設が伝えている情報を一致させることです。ご家族ごとに何を知りたいかを確認する進め方は 家族からの電話が減らない|「もっと情報を」ではなく「何を知りたいか」を合わせる にまとめています。
もう一つ、ご家族との関係だけを考えすぎないことにも注意が必要です。障害福祉サービスの中心は利用者本人です。何を伝えるかを考えるときは、「ご家族が知りたいか」だけでなく、「本人にとって、この情報共有はどういう意味があるか」という視点を持ってください。
明日から試せること
- 昨日の連絡帳を10人分読む。「○○しました」という文章ばかりなら、活動報告が中心になっています。一つだけ「本人がどうしたか」を加えてみてください。
- 「笑顔で過ごされました」を具体化する。便利な表現ですが、何に対して笑ったのかが分かりません。「職員が写真を見せると笑って指を差した」のように場面にすると、本人の姿が伝わります。
- 個別支援計画の目標を、職員が一つ言える状態にする。連絡帳と計画がつながらない原因の一つは、現場の職員が目標を十分に把握していないことです。担当する利用者の、いま主要な目標だけでも共有します。
- ご家族に「どんな情報を知りたいですか」と聞く。食事、活動、健康状態、本人の成長——重視することはご家族ごとに違います。
- 家族への情報提供を「本人抜き」にしない。言葉、写真、作品、選択、表情など、本人が伝えられる方法があれば使います。
利用者・家族コミュニケーション チェックリスト
- 連絡帳が活動内容だけの報告になっていないか
- 「本人がどう反応したか」を伝えているか
- 個別支援計画の目標と日々の報告がつながっているか
- 以前との変化をご家族へ伝えているか
- うまくいかなかったことも、支援の経過として共有しているか
- 体調の変化・けが・事故は、連絡帳を待たずに伝える取り決めがあるか
- 家庭での変化をご家族から聞いているか
- ご家族が特に知りたい情報を把握しているか
- 情報提供を増やしすぎて職員の負担になっていないか
- 本人が家族へ伝えたいこと・伝えてほしくないことを確認しているか
- 写真を送るときの写り込みと送る方法を決めているか
- 家族対応の中心に利用者本人の意思が置かれているか
まとめ——ご家族が知りたいのは「今日何をしたか」だけではない
障害福祉の現場では、毎日たくさんの支援が行われています。散歩する、食事をする、創作活動をする、作業する、入浴する、ほかの利用者と過ごす。それをご家族へ伝えることも大切です。
その一歩先には、本人の小さな変化があります。昨日より自分で選べた。声かけを待たずに動けた。苦手だった活動に少し参加できた。嫌なことを「嫌」と伝えられた。困ったときに職員へ助けを求められた。その変化は、毎日利用者と接している職員だからこそ見つけられるものです。
ご家族にとっても、「施設で何をしているか」以上に、「本人がそこでどう生活し、どう変わっているか」は大切な情報です。連絡帳を長くする必要はありません。今日の記録に一つだけ「本人はどうしたか」を加え、月に一度「以前と比べて何が変わったか」を振り返ってみてください。その積み重ねが、単なる連絡を「支援をご家族と共有する仕組み」に変え、本人を中心にした施設とご家族の協働につながっていきます。
あわせてお読みください。ご家族からの情報の受け止め方と記録・担当の決め方は 家族対応を「個人技」から「仕組み」へ、ご家族ごとに知りたい情報を合わせる方法は 家族からの電話が減らない、月1回の報告で家族の不信感を減らした実例は 利用者家族からのクレームが減ったグループホーム、利用開始後に本人が通い続けられる環境づくりは 利用者の定着率を上げた取り組み で解説しています。家族対応や支援体制の整備のご相談は サービス内容 をご覧のうえ お問い合わせください。初回相談は無料で承っております。


