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改善事例

複数の銀行と付き合う法人|「銀行は1行でいい」という思い込みが崩れた日と、資金調達を仕組みにするまで

——「銀行は1行でいい」という思い込みが崩れた日

  • 10年付き合ったメインバンクに断られ、代替手段が一つもないことに気づいた
  • 信用金庫・公的融資・別の地方銀行へと広げ、1年で4機関との取引体制に
  • 断った銀行との関係も切らず、実績をつくってから再構築した

【エビデンスと予測の区別について】登場する人物・法人は架空です(実際のコンサル支援先を参考に加工しています)。金融機関との取引に関する記述は一般的な金融実務の知見に基づくもので、統制されたエビデンスではありません。具体的な融資条件・金利等は金融機関や法人の状況により異なります。筆者の経験・推測は本文中に「(筆者推測)」と明示しています。本記事は金融アドバイスではありません。融資の検討にあたっては、金融機関および専門家にご相談ください。

問題発生——「メイン銀行に断られた」その日に気づいたこと

「融資をお断りすることになりました」——生活介護事業所(定員25名)とグループホーム(定員10名)を運営する法人の理事長が、10年来付き合ってきた地方銀行の担当者からその言葉を聞いたのは、グループホーム増棟の資金調達を相談したときでした。

「なぜですか」と尋ねると、「担当者が交代したこともあり、現在の与信審査の基準では難しい」という回答でした。理由を細かく教えてもらえないまま、理事長は銀行を後にしました。

「10年間、良い関係だと思っていた。でも断られたとき、自分がどれだけその銀行に依存していたかを知りました。他に相談できる銀行が一つもなかった」——これが転機でした。

理事長「銀行に断られました。どうすればいいですか」
コンサル「他に取引している銀行はありますか?」
理事長「A銀行だけです。10年間、それで問題なかったので」
コンサル「今日の経験が教えてくれているのは、『銀行は1行では足りない』ということです。まずそこから始めましょう」

基礎知識——銀行との取引を「仕組み」として考える

本題に入る前に、前提となる実務知識を整理しておきます。

用語 内容(一般的な実務上の整理)
メインバンク メインの融資・決済口座を置き、最も深い関係を持つ金融機関
サブバンク メインを補完する融資・情報収集の窓口。比較対象が生まれることで条件面の検討がしやすくなる
与信 金融機関が融資先に対して設定する「信用の限度額」。財務状況・業績・担保・保証人等を総合的に評価して決まる。審査基準は金融機関ごとに異なるため、同じ法人でも判断が分かれることがある

もう一つ押さえておきたいのが、金融機関の担当者は一般に数年程度で交代することが多いという点です。担当者が変わると、前任者との間で積み上げてきた関係や理解が引き継がれきらないことがあります。複数の金融機関と取引していれば、1行の担当者交代による影響を分散できます(筆者推測)。

※ 上記は一般的な金融実務の考え方を整理したものです。具体的な融資条件・与信評価の基準は金融機関により異なりますので、必ず取引先の金融機関にご確認ください。

原因分析——「1行依存」が生む3つのリスク

リスク① 断られたとき、代替手段がない

この法人のケースがまさにこれでした。10年間1行だけと取引してきた結果、断られたときに「次の選択肢」がありませんでした。緊急の資金需要に応えられない状況は、法人の事業継続に直結するリスクです。

リスク② 比較対象がないため、条件の検討がしにくい

取引金融機関が1行だけの場合、金利・手数料等の条件について比較の材料が生まれにくい傾向があります(筆者推測:複数行との取引が条件面の検討につながるという観察は金融実務の一般的な知見と整合しますが、個々の状況により異なります)。

リスク③ 金融機関側の事情に影響を受けやすい

担当者の交代や与信方針の変更など、金融機関側の内部事情によって、長年の関係が突然見直されることがあります。これは法人側ではコントロールできない外部要因です。複数の金融機関と関係を持つことで、1行の変化による影響を軽減できます(筆者推測)。

実施した改善策——1年間で組み立てた「複数行戦略」

ステップ① まず地域の信用金庫に相談する(1か月目)

地方銀行に断られた翌週、理事長は地域の信用金庫に相談しました。信用金庫は信用金庫法に基づく協同組織の金融機関で、地域の中小事業者との取引を中心としています。そのため、地方銀行とは異なる観点で相談に応じてもらえることがあります(筆者推測:審査の考え方は個々の金融機関によって異なります)。

信金担当者「10年間A銀行さんとお付き合いされてきたんですね。今回はどのような資金用途ですか?」
理事長「グループホームの増棟費用です。A銀行さんには断られてしまいまして……」
信金担当者「そうでしたか。事業内容と財務状況を見せていただければ、当金庫として検討できるかもしれません。決算書3期分と事業計画をご用意いただけますか?」
理事長「(こんなに話を聞いてくれるとは思っていなかった)はい、すぐ準備します」

面談から3週間後、融資の承認が下りました。「A銀行に断られた条件で通った。金融機関によってこんなに違うとは思いませんでした」と理事長は振り返ります。

ステップ② 公的な融資制度も選択肢に入れる(2か月目)

信用金庫での融資が決まった後、理事長は独立行政法人福祉医療機構(WAM)の福祉貸付事業にも相談しました。社会福祉施設等の整備を対象とした、長期・固定・低利の公的な融資制度です。

ただし、ここで必ず確認していただきたい点があります。

WAMの福祉貸付は、どの法人でも利用できるわけではありません。法人格や事業の種類によって対象になるかどうかが変わります。障害福祉サービスは株式会社・合同会社などの営利法人でも運営できますが、公的融資制度の対象は法人格によって異なるため、「自法人が対象になるか」を最初に確認することが出発点になります。また融資条件・申請要件は年度ごとに見直されます。

※ 対象となる法人の範囲・資金使途・融資条件・必要書類は、必ず独立行政法人福祉医療機構の公式情報(福祉貸付事業のご案内/各年度の「福祉貸付事業 融資のごあんない」)および同機構の窓口で直接ご確認ください。本記事の記載は一般的な紹介であり、個別の可否を示すものではありません。

ステップ③ 断られた銀行との関係を「維持しながら再構築」する(3〜6か月目)

理事長は、断られたA銀行との関係を切りませんでした。代わりに、信用金庫と公的融資での取引実績ができた段階で、改めて「現在の財務状況と今後の事業計画」を持参して面談を申し込みました。

理事長「半年前にお断りいただいた件ですが、他機関のご支援で増棟が実現しました。今後も継続してご相談できますか?」
A銀行担当者(新任)「今回の増棟の実績と財務の改善を拝見すると、当行でもご支援を検討できる状況になっています」

「断られた銀行が、半年後には前向きな返事をくれた。複数の金融機関と取引して実績をつくったことで、見方が変わりました」(理事長)

1年後の金融体制——「仕組み」として整えた複数行取引

金融機関 役割 取引内容 関係の深さ
A銀行(地方銀行) メインバンク 決済口座・運転資金融資 月1回の定期報告
B信用金庫 サブバンク 設備資金融資・地域情報の収集 四半期ごとの情報交換
公的融資機関 長期設備資金 グループホーム増棟の融資 年1回の実績報告
C銀行(別の地方銀行) 関係構築中 口座開設・小規模取引 年2回の定期訪問

※ 上記はこの法人が設計した取引体制の一例です。最適な金融機関の組み合わせは、法人の規模・所在地・法人格・事業計画により異なります。金融機関の選定や条件の交渉については、中小企業診断士・公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。

「選ばれる法人」になるための銀行対応の習慣

習慣① 定期的な「情報提供」を欠かさない

理事長はメインのA銀行と信用金庫に対して、毎月の経営状況(利用率・収支概況)を1枚のレポートにして報告するようにしました。「頼むときだけ来る」から「定期的に顔を見せる」に変えることで、法人への理解が深まります(筆者推測:金融機関との関係構築に定期的な情報共有が有効という観察は、金融実務の一般的な知見と整合しています)。

習慣② 「次の資金需要」を事前に伝える

「2年後に送迎車両の更新を予定しています」「3年後に別棟の修繕が必要になる見込みです」——将来の資金需要を事前に伝えることで、金融機関側も準備ができます。急な相談は、検討の時間が取れないぶん条件面で不利になりやすいと言われます(筆者推測)。

習慣③ 「断られたこと」を記録として残す

A銀行に断られた経験を、理事長は記録として残しました。「いつ・なぜ・どんな条件で断られたか」を残しておくことで、次の相談時の資料になり、「断られた理由を改善できたか」を確認する指標にもなります。

あわせて、毎年の面談で次の3点を担当者に確認するようにしました。

  • 「今の当法人の評価はどのくらいですか」
  • 「改善すれば評価が上がる点があれば教えてください」
  • 「次に融資相談をするとしたら、今の状態でどうでしょうか」

「このような質問をするのは失礼かと思っていたが、担当者から『こういう質問をしてくれる法人は珍しく、むしろ信頼できる』と言ってもらいました」(理事長)

改善結果——1年後の変化

指標 1年前 1年後
取引金融機関数 1行(A銀行のみ) 3行+公的融資機関(4機関)
融資の選択肢 「A銀行に断られたら終わり」 「どこに相談するか選べる」
金利水準(運転資金) A銀行の提示条件のみ 複数行の比較で0.2%改善(参考値)
理事長の「資金への不安」 「常に不安」 「仕組みができて安心」
金融機関への月次報告 なし A銀行・信用金庫に毎月1枚のレポート送付

※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。金利の改善幅や取引条件は、法人の財務状況・金融機関の方針・市場金利等により大きく異なり、同様の成果を保証するものではありません。

理事長の1年後の言葉

「A銀行に断られたあの日が、経営者として一番学んだ日でした。1行に依存していた自分の甘さに気づかせてくれた。今は3つの金融機関と関係があり、公的融資も使っています。どこか1行の方針が変わっても、動じない体制ができた。資金調達を『仕組み』として持てたことが、一番の財産です」

成功のポイント

  • 断られたことを「関係の終わり」にしない——実績をつくってから再度相談することで、評価は変わり得ます
  • 金融機関ごとに審査の考え方が違う——1行で断られても、他では判断が異なることがあります
  • 公的融資は「対象になるか」の確認から——法人格によって利用可否が変わるため、ここを最初に確認します
  • 関係は平時につくる——資金が必要になってから動くと、選択肢も時間も限られます

自法人のセルフチェックリスト

次の5項目のうち、いくつ当てはまるでしょうか。

  • □ 取引している金融機関が2つ以上ある
  • □ 決算書以外に、定期的に経営状況を報告している
  • □ 今後3年の資金需要を金融機関に伝えている
  • □ 自法人が公的融資制度の対象になるかを確認したことがある
  • □ 融資を断られた経験を記録として残している

まとめ——銀行との関係は「緊急時」ではなく「平時」に作る

金融機関との関係は、「お金が必要になったとき」に始めるのでは遅い——これがこの法人の最大の学びでした。複数の金融機関との関係は、必要になる前の平時に、定期的な情報提供と訪問によって少しずつ構築していくものです(筆者推測:この点は金融実務の一般的な知見と整合しています)。

「うちはメイン1行だけで10年やってきた」という法人は、まず地域の信用金庫や別の金融機関に相談の窓口をつくるところから始めてみてください。そこから始まる関係が、5年後・10年後に法人を守ることになります。

【補足】金融機関との取引戦略・融資条件の交渉については、中小企業診断士・公認会計士・税理士等の専門家への相談を推奨します。Engoodがこれらの専門家の業務を代行することはなく、経営状況の整理や事業計画づくり、専門家との連携までをご支援します。本記事は金融アドバイスではありません。

資金繰りそのものの立て直しは 資金繰りが底をつきかけた施設が立て直した6か月、融資以外の資金調達手段は 補助金・助成金を毎年取り続けている障害福祉法人がやっていること をご覧ください。

金融機関への報告の土台になるのが月次の数字です。試算表の読み方は 月次試算表を読めなかった施設長が「数字で経営する」ようになった転機、事業所ごとの収支の見方は 複数事業所を持つ法人が「事業所間の数字の差」に気づいて改善した実例 もあわせてどうぞ。

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