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改善事例

月次試算表を読めなかった施設長が「数字で経営する」ようになった転機|まず5つの数字だけ

——「税理士に任せていれば大丈夫」という思い込みが崩れた日

問題発生——「試算表って、何を見ればいいんですか?」

「正直に言うと、試算表が届いても、どこを見ればいいのかまったくわかりませんでした」——就労継続支援A型(定員10名)・B型(定員10名)の多機能型事業所を運営するP法人の理事長・Q氏(57歳)の言葉です。

Q理事長は福祉一筋30年のベテランで、支援の現場には絶大な信頼を持つ人物でした。しかし財務については、設立当初から顧問税理士のR氏に全面的に任せており、自分自身で試算表を読んだことはほとんどありませんでした。

転機は、ある年の11月に税理士のR氏から電話が入ったことでした。「Q理事長、今期はかなり厳しい着地になりそうです。早急に対策が必要です」。Q理事長はその言葉の意味を、すぐには理解できませんでした。

【Q理事長の言葉(初回面談より)】
「税理士の先生が『大丈夫です』と言っていたのに、なぜ急に厳しいと言われるのか。そもそも何がどう厳しいのか、説明を聞いてもピンとこなかった。数字がわからないということは、こういうことなんだと、そのとき初めて気づきました」

P法人の財務状況(問題発覚時点・11月末)

  • 当期収益(4月〜11月の8か月累計):約2,840万円
  • 当期支出(同):約2,960万円
  • 8か月累計の収支:△約120万円(赤字)
  • 年間予算の着地見込み:△約180万円(このまま推移した場合)
  • Q理事長が試算表を最後に確認した時期:「覚えていない」

※ エビデンス:実際のコンサル支援先のデータをもとにした参考値です。特定の法人・個人が特定されないよう内容を一部加工しています。

原因分析——「任せていた」ことの構造的な問題

Q理事長がR税理士に任せていたこと自体は、決して悪いことではありません。専門家を活用するのは合理的な判断です。しかし問題は、「任せる」と「丸投げする」の間に、大きな差があることでした。

問題①:数字の「変化」を誰も経営者に伝えていなかった

R税理士が毎月届けていた試算表には、確かに数字が並んでいました。しかしQ理事長はそれを読まず、R税理士も「問題があるとき以外は連絡しない」という運用になっていました。その結果、4月から始まった赤字傾向が、11月になるまで経営者に届かなかったのです。

【エビデンス】中小企業庁「中小企業の財務管理に関する実態調査」(参考)によれば、中小企業経営者の多くが月次財務データを定期的に確認していないという傾向が指摘されています。障害福祉法人においても同様の傾向があると推測されますが、障害福祉法人に特化した統計データは現時点では確認できていません(筆者の経験・推測に基づく見解)。

問題②:「何を見るか」を知らないから読む気になれなかった

Q理事長が試算表を読まなかった理由は、怠慢ではありませんでした。「どこを見れば何がわかるのか」がわからなかったのです。専門用語が並ぶ書類を受け取っても、何に着目すればいいかわからなければ、人は自然と「わかる人に任せよう」という行動を取ります。

これは多くの施設長に共通する問題です。経営者が財務を「読める」状態になるには、最低限の知識とともに「何をいつ確認するか」という習慣の設計が必要です(筆者の経験・推測に基づく見解)。

問題③:税理士との「役割分担」が明確でなかった

R税理士の本来の役割は、記帳・申告・税務相談です。「経営のモニタリング」や「問題の早期警告」は、契約内容によって異なります。Q理事長はR税理士が経営全般を見てくれていると思っていましたが、R税理士の認識は「記帳と申告が主業務」でした。この「期待のズレ」が、問題の発見を遅らせた一因でした。

転機——「5つの数字だけ見ればいい」と言われた日

コンサルとの初回面談で、Q理事長はこう尋ねました。「試算表って、全部読まないといけないんですか?」。答えは「いいえ」でした。

「経営者が毎月確認すべき数字は5つだけです。その5つを見るだけで、経営の大きな流れはわかります」——この言葉が、Q理事長の意識を変えました。

Q理事長が毎月確認することにした「5つの数字」

  • ① 当月の収益合計(予算と比べて多いか少ないか)
  • ② 当月の人件費合計(収益に対して何%か)
  • ③ 当月の収支(プラスかマイナスか・いくらか)
  • ④ 累計の収支(年度初めからの合計がプラスかマイナスか)
  • ⑤ 現金・預金の残高(先月より増えたか減ったか)

※ これら5つの指標は一般的な経営管理の観点から選定したものです。法人の規模・事業内容によって確認すべき指標は異なります。

Q理事長は翌月から、毎月15日を「試算表確認の日」と決めました。R税理士に「毎月15日までに試算表を送ってほしい。5つの数字について一言コメントを添えてほしい」と依頼しました。

「税理士の先生に『コメントをつけてほしい』とお願いするのは、失礼ではないかと最初は思っていました。でも先生も快く応じてくれて、むしろそういう使い方をしてほしかったと言ってくれました」とQ理事長。

改善策——Q理事長が6か月でやった「3つのこと」

やったこと①:試算表を「自分の言葉」で読む練習をした

コンサルとの月1回の面談で、試算表の数字を「Q理事長の言葉」で説明する練習を続けました。「今月は収益が先月より3万円少ない。なぜかというと、欠席者が多かったから。人件費率は74%で、先月の76%より改善している」——この程度の説明ができるようになることを最初の目標にしました。

「最初の3か月は、コンサルの方に隣で解説してもらいながら読みました。4か月目から一人で読めるようになった実感が生まれました」とQ理事長。

やったこと②:R税理士との月次面談を設定した

これまで年1回だった税理士との面談を、月1回(30分・オンライン)に変更しました。議題は試算表の確認と、来月の見通しの2点のみです。

「先生と毎月話すようになってから、数字の意味がわかるようになりました。同じ書類を読んでいても、プロに聞きながら読むのと一人で読むのでは全然違う」とQ理事長。

【補足】顧問税理士との面談頻度については、契約内容・追加費用の有無を事前に確認することをお勧めします。月次面談が追加サービスとなる場合は費用が生じることがあります。

やったこと③:「資金繰り表(4週間)」を自分で作り始めた

試算表を読めるようになった3か月後から、「今後4週間でいくら入ってきて、いくら出ていくか」を管理する簡易資金繰り表を自分で作り始めました。Excelで作成した簡単な表で、毎週月曜日に更新することにしました。

「資金繰り表を作り始めてから、来月の給料日が怖くなくなりました。先が見えるだけで、心の余裕が全然違う」とQ理事長。

改善後の変化——6か月後の数字と意識

指標 改善前 6か月後
試算表の確認頻度 ほぼなし(年1〜2回) 毎月15日(習慣化)
税理士との面談 年1回(決算時のみ) 月1回・30分(オンライン)
Q理事長が把握している収支 「だいたい黒字のはず」 当月・累計を具体的な数字で把握
資金繰りの見通し 把握なし 常時4週間先まで把握
当期収支(年度末着地) △約180万円見込み △約40万円(改善)
Q理事長の「経営への自信」 「数字は苦手」 「まだ勉強中だが怖くなくなった」

※ 当期収支の改善(△180万円→△40万円)は、数字を把握したことによる早期対策(加算の棚卸し・稼働率改善)の効果も含みます。数字の把握だけで収支が改善したわけではありません。上記は参考値であり、同様の成果を保証するものではありません。

【Q理事長の6か月後の言葉】
「以前は試算表が来ても『先生が大丈夫と言っているから大丈夫』で終わっていた。今は自分で数字を見て、先生に質問しながら経営している感覚があります。経営者として、やっとスタートラインに立てた気がします」
「数字が読めるようになったからといって、経営が劇的に変わるわけではない。でも、何か起きたときの対応速度が全然違う。早く気づければ、早く手が打てる」

なぜ「数字を読む習慣」が経営者に必要なのか

WAMnet(独立行政法人福祉医療機構)が公開している「社会福祉法人の経営状況について」によれば、社会福祉法人全体の経営指標は公開されており、同規模・同種別の法人と自法人を比較することが可能です。しかしこのデータを活用している法人経営者は、現場感覚では少数派です(筆者の経験・推測に基づく見解)。

障害福祉法人は収益が公定価格で決まる構造上、コスト管理と加算取得の最適化が経営改善の主な手段です。これらを適切に判断するためには、月次の数字を経営者が直接把握していることが前提条件になります。

経営者が月次で確認すべき指標と参照先

  • 【月次試算表で確認】収益合計・人件費合計・収支(損益)
  • 【国保連の請求データで確認】加算の算定状況・前月比較
  • 【WAMnetで確認(年1回)】同規模・同種別法人との経営指標比較(参照先:WAMnet
  • 【資金繰り表で確認】今後4〜13週間の入出金見通し

※ これらは一般的な管理会計の観点からの推奨です。法人の規模・事業内容・顧問税理士との契約内容に応じて調整してください。

※ 税務申告・記帳・税務相談は税理士の専門領域です。Engoodは経営者が数字を把握するための情報整理・月次管理の仕組みづくり・顧問税理士との連携づくりを支援するもので、税務業務の代行は行いません。

まとめ——「数字を読む」は才能ではなく習慣

Q理事長の事例が示すのは、「数字が苦手な経営者でも、正しいアプローチで学べば変わっていける」ということです。

重要なのは「全部理解しようとしない」こと。まず5つの数字だけ。毎月同じ日に確認する。専門家と一緒に読む——この3つを続けることで、経営者の財務感覚は着実に育っていきます(筆者の経験・推測に基づく見解)。

「試算表が届いても開かずに棚に入れている」という施設長は、ぜひ今月の試算表を取り出して、5つの数字だけ確認してみてください。そこから始まります。

資金繰りそのものを立て直した実例は 資金繰りを立て直した施設の記録、5つの数字のひとつ「人件費率」に踏み込んだ実例は 人件費率を改善した施設の取り組み、収支改善のもう一方の柱である加算の見直しは 加算の取りこぼし・区分の見直し支援 もあわせてご覧ください。

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