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改善事例

資金繰りが底をつきかけた施設が立て直した6か月|赤字から黒字転換へ

——「来月の給料が払えるか不安」だった法人の記録

問題発生——「今月末、口座残高が50万円を切る」

「来月の給料日まであと3週間。このままだと払えるかどうかわからない」——就労継続支援B型(定員20名)を運営するK法人の理事長・L氏からコンサルに電話が入ったのは、木曜日の夜でした。

L理事長は法人設立から10年、支援には真摯に取り組んできました。しかし財務管理は税理士に任せきりで、月次試算表を自分で読んだことはほとんどありませんでした。「数字のことは税理士に聞けばいい」という認識が、気づけば取り返しのつかない状況を生んでいました。

「正直、怖くて試算表を開いていなかった。問題から目を背けていた。でも通帳残高は嘘をつかない。数字を直視したとき、背筋が凍りました」とL理事長。

K法人の財務状況(コンサル着手時点)

  • 普通預金残高:約52万円(月末給与支払い予定:約170万円)
  • 当座借越枠:なし
  • 直近3か月の月次収支:△8万円 → △14万円 → △21万円(赤字拡大)
  • 国保連からの入金サイクル:月末請求→翌々月初旬入金(約40日のタイムラグ)
  • 未払金:備品購入代金約28万円(2か月滞納)
  • 借入残高:設立時の設備資金借入 残高約380万円(月返済額8.5万円)

→ このまま何もしなければ、翌月の給与支払いに約120万円が不足する計算でした。

【L理事長の言葉(初回電話より)】
「職員には何も言えていない。家族にも言えていない。一人で抱えて、眠れない夜が2週間続いていました。もうどうにもならないかと思っていたとき、コンサルに電話しようとやっと決めました」

緊急対応——最初の72時間でやったこと

コンサルとの初回面談(電話)の翌朝から、緊急対応を開始しました。「まず来月の給与を払えるかどうか」を最優先課題として、以下を72時間以内に実施しました。

緊急対応①:資金の全体像を「見える化」する

まず通帳・国保連の請求データ・未払金一覧を一枚の紙にまとめ、「いつ・いくら入ってきて・いつ・いくら出ていくか」を明確にしました。

緊急キャッシュフロー表(翌月分の概要)

  • 入金予定:国保連入金(当月分)約148万円+利用者負担金 約12万円=合計 約160万円
  • 出金予定:職員給与 約170万円+社会保険料 約42万円+借入返済 約8.5万円+未払金 約28万円=合計 約248万円
  • 不足額:約88万円 → この88万円をどう手当するかが緊急課題

緊急対応②:未払い先に「分割交渉」をする

備品購入代金28万円の未払い先(業者)に即日電話し、事情を正直に説明した上で3か月分割での支払いを打診しました。「誠実に連絡してくれたことで、むしろ信頼できると感じた」と業者から言われ、分割払いに応じてもらえました。

「隠していては何も解決しない。正直に話すことが最初の一歩」とL理事長。この経験が、その後の行動方針の基本になりました。

緊急対応③:メインバンクへの「つなぎ融資」の相談

取引のある地方銀行の担当者に、翌朝一番で面談を申し込みました。直近3か月の試算表・資金繰り見通し・改善計画の骨子を持参し、「短期のつなぎ融資100万円」を相談しました。結果として、既存融資の返済条件の一時的な変更(2か月間の元本返済据え置き)を銀行が認めてくれました。月8.5万円×2か月=17万円の支出が減り、資金不足の一部を補えました。

【銀行交渉で重要だったこと】
「どうなっているかわからない」状態で相談するのと、「問題を把握した上で改善計画を持って相談する」のでは、銀行の反応がまったく違います。L理事長が持参したのは、①直近3か月の試算表(数字の現状)②資金繰り表(今後3か月の見通し)③改善計画の骨子(何をいつまでにやるか)の3点。「問題を把握して、動いている人間だと思ってもらえたことが大きかった」(L理事長)

6か月間の立て直し計画——何をどの順番でやったか

時期 テーマ 実施内容
1か月目 緊急止血 資金繰り表作成・未払い分割交渉・銀行との返済条件変更交渉
1〜2か月目 収益の改善 加算棚卸し実施。算定漏れ3種を発見・届出。翌月から月約11万円増収
2〜3か月目 コストの見直し 固定費の洗い出し。不要な契約2件を解約(月約3.5万円削減)
2〜3か月目 稼働率改善 欠席が多い利用者への個別対応強化。月間利用率を83%→91%に改善
3〜4か月目 財務管理の習慣化 月次試算表を毎月15日までに確認するルール化。L理事長が自ら読む習慣
4〜5か月目 資金繰り表の定着 13週間の資金繰り表を毎月更新。3か月先まで常に把握できる状態に
5〜6か月目 体制の整備 顧問税理士との月次面談を開始。経営数字を一緒に読む関係に変更

最も効果が大きかった「3つの改善」

改善①:加算棚卸しで月11万円の増収

資金繰りの緊急対応と並行して加算棚卸しを実施したところ、3種類の算定漏れが判明しました。

  • 福祉専門職員配置等加算(II):在籍職員に介護福祉士資格保有者がいたが届出未実施。翌月から算定開始
  • 送迎加算(往復算定漏れ):帰宅分の算定が漏れていた。修正で月約2.2万円増
  • 就労移行支援体制加算:過去の就労実績要件を満たしていたが未申請。翌々月から算定

手続きにかかった時間は合計約6時間。「お金をかけずに収益が増える、これが一番早い手だった」とL理事長。

改善②:稼働率改善で月約16万円の増収

欠席が月10日以上続いている利用者が3名いることが判明しました。それぞれに担当職員が個別面談を実施し、「来たくない理由」を丁寧に聞いたところ、「送迎の時間が合わない」「特定の利用者との関係が嫌」「体調不安があるが相談できていなかった」という具体的な理由が出てきました。

送迎時間の調整・座席の変更・体調管理の個別対応——いずれも大きなコストなく実施でき、3名の通所日数が回復しました。月間利用率83%から91%への改善は、月約16万円の増収に相当しました。

改善③:固定費の見直しで月3.5万円削減

毎月の固定費を一覧化したところ、「使っていないクラウドサービスの契約が2件継続していた」「リース契約の見直しで安価なプランに変更できるものがあった」ことが判明しました。合計で月3.5万円・年間42万円の削減です。「小さい金額に思えるが、今の状況では1万円が重かった」とL理事長。

6か月後の変化——数字と意識の両方が変わった

指標 着手時 3か月後 6か月後
普通預金残高 約52万円 約180万円 約310万円
月次収支 △21万円 △3万円 +18万円(黒字転換)
月間利用率 83% 89% 91%
算定加算数 3種 6種 6種(定着)
理事長の試算表確認 ほぼ見ない 毎月確認 毎月15日に確認(習慣化)
資金繰りの見通し 把握なし 1か月先 常時3か月先まで把握

※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。事業規模・サービス種別・地域区分により異なり、同様の成果を保証するものではありません。

【L理事長の6か月後の言葉】
「半年前、来月の給料が払えるか不安で眠れなかった。今は3か月先の資金繰りが頭に入っている。同じ人間とは思えないくらい変わった。変わったのは数字だけじゃない。自分が経営者として数字と向き合えるようになったことが、一番大きな変化です」

この事例から学べること

教訓①:資金繰りの危機は「突然」来ない

K法人の危機は、ある日突然起きたのではありません。月次の赤字は3か月前から拡大していました。試算表を毎月確認していれば、少なくとも2か月前には対策を打てていました。「数字から目を背けることが最大のリスク」——この教訓は、すべての施設経営者に共通します。

教訓②:危機のときほど「正直に動く」が有効

未払い先への連絡・銀行への相談——L理事長が状況を正直に説明し、誠実に動いたことで、いずれも相手が協力してくれました。「隠す」「先送りする」という選択は、問題を複利で悪化させます。

教訓③:「緊急の収益改善」は加算棚卸しから

資金が底をつきかけた状況で最初にやるべきことは、コスト削減ではなく収益の改善です。加算棚卸しは即効性が高く、コストをかけずに月単位の増収を生みやすい施策です。危機のときほど、まず収益を確認してください。

資金繰りが苦しくなったときの優先順位

  • Step1:現状把握(通帳・試算表・未払い一覧を一枚にまとめる)
  • Step2:緊急の資金手当(銀行・未払い先との交渉)
  • Step3:収益の改善(加算棚卸し・稼働率改善)
  • Step4:コストの見直し(固定費の洗い出し)
  • Step5:財務管理の習慣化(月次確認・資金繰り表の定着)

Step1〜2は「今月を生き延びるため」、Step3〜5は「二度と同じことを繰り返さないため」の取り組みです。

まとめ——「数字を見ない」が最大のリスク

K法人の危機の本質は、資金不足そのものではありませんでした。「数字から目を背けていた」という経営姿勢が、問題を発見できない状態を生み出していました。

毎月の試算表を確認する。資金繰り表で3か月先を把握する。この2つの習慣さえあれば、K法人の危機は防げていた可能性が高いといえます。どちらもお金をかけずに始められます。

「うちの法人も最近、口座残高が気になる」「試算表をちゃんと読んだことがない」という施設長は、今すぐ直近3か月の試算表を取り出して開いてみてください。そこに、改善の手がかりが見つかるはずです。

なお、本事例で効果の大きかった「加算の見直し」は 処遇改善加算を上位区分に移行した事例、「稼働率の改善」は 新規利用者の定着事例 でも詳しくご紹介しています。経営再生・収支改善のご支援は サービス内容 をご覧ください。

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