産休・育休後に戻ってくる職員が増えた施設の環境整備|3年間で復帰0名から3名全員復帰へ
——「辞めなくて済む」職場を作った施設長の取り組み
- 3年間で産休後の退職3名・復帰0名だった施設が、次の3年間で3名全員復帰に
- 退職者への事後ヒアリングで分かったのは「戻りたくなかった」ではなく「戻れるか分からなかった」
- 月1回の連絡・復帰前面談・時短でも担当を持てる体制の3つで変えた
【エビデンスと予測の区別について】登場する人物・施設は架空です(実際のコンサル支援先を参考に加工しています)。産休・育休に関する記述は労働基準法および育児・介護休業法に基づき、出典を明示しています。「環境整備が職場復帰率の向上につながる」という記述は本事例の観察に基づくもので、統制されたエビデンスではありません。筆者の経験・推測は本文中に「(筆者推測)」と明示しています。
問題発生——「産休に入った職員が戻ってこない」
「うちの施設、女性職員が多いんですが、産休に入った職員が戻ってこないことが多くて。この3年で3名が産休後に退職しています」——生活介護事業所(定員24名)を運営する法人の施設長の言葉です。
施設長は「子育てと福祉の仕事の両立が難しいから仕方ない」と思っていました。しかし「退職された方に理由を聞いたことはありますか」と尋ねられ、「聞いたことがない」と気づきます。
事後ヒアリングで分かったこと
退職した3名に、改めて話を聞きました。
| 対象 | 退職に至った理由(ヒアリングより) |
|---|---|
| 1人目(第1子出産後に退職) | 「復帰したかったけど、時短勤務ができるか聞きにくかった。聞いたら迷惑がられそうで」 |
| 2人目(第1子出産後に退職) | 「復帰するつもりだったが、育休中に誰からも連絡がなかった。忘れられた気がして戻れなかった」 |
| 3人目(第2子出産後に退職) | 「第1子のときは時短で復帰できた。第2子のとき、また同じように働けるか不安だったが、誰にも相談できなかった」 |
3名全員に「戻りたい気持ち」がありながら、「戻れる環境かどうか」が分からなかった——これがヒアリングの結論でした。
前提の確認——育休・時短勤務は「権利」である
取り組みを設計する前に、法令上の位置づけを整理しました。職員に「お願いされたら応じるもの」ではなく、法律上の権利として保障されているものだという認識を、まず管理側が持つ必要があるからです。
| 制度 | 内容(根拠) |
|---|---|
| 育児休業 | 男女を問わず、原則として子が1歳になるまで(一定の要件を満たす場合は最長2歳まで)取得できる(育児・介護休業法) |
| 不利益取扱いの禁止 | 育児休業の申出・取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止(育児・介護休業法第10条) |
| 短時間勤務制度 | 3歳に満たない子を養育する労働者が申し出た場合、原則として1日6時間の所定労働時間の短縮措置を講じなければならない(育児・介護休業法第23条) |
2025年の法改正で、施設側の義務はさらに広がっています
育児・介護休業法は2025年(令和7年)に大きく改正され、4月と10月の二段階で施行されています。本記事の取り組みと重なる部分が多いため、あわせて押さえておく必要があります。
| 施行時期 | 主な改正内容 |
|---|---|
| 2025年4月 | ・所定外労働の制限(残業免除)の対象が、3歳未満の子を養育する労働者から小学校就学前の子を養育する労働者に拡大 ・子の看護等休暇の取得事由・対象者の拡大 ・男性労働者の育児休業取得状況の公表義務が、従業員1,000人超の企業から300人超の企業に拡大 |
| 2025年10月 | ・柔軟な働き方を実現するための措置=3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者について、事業主は「始業時刻等の変更」「テレワーク等」「保育施設の設置運営等」「養育両立支援休暇」「短時間勤務制度」の選択肢から複数を措置し、労働者がその中から選べるようにすることが必要 ・仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化 |
注目していただきたいのは、2025年10月から義務化された「個別の意向聴取・配慮」です。この施設が取り組んだ「復帰前面談」は、当時は自主的な取り組みでしたが、現在は法令上も求められる対応と重なります。「やったほうがよいこと」ではなく「やるべきこと」になったと考えてください。
※ 法令の内容・施行時期・対象範囲は改正により変わります。また各制度の詳細な要件や就業規則への反映方法は、事業所の規模や状況によって異なります。実際の対応にあたっては、必ず最新の法令と厚生労働省・都道府県労働局の情報(厚生労働省)をご確認のうえ、社会保険労務士にご相談ください。
実施した改善策——「戻りやすい職場」を3つの取り組みで作る
① 育休中の「定期連絡」の仕組みを作る
育休取得者に対して、月1回、管理者からメッセージで近況を確認するルールを設けました。内容は「施設の近況報告」と「困っていることはないか」の2点のみです。
施設長「先月お子さんが生まれましたね。おめでとうございます。施設は元気にやっています。お体の調子はいかがですか。復帰のことはゆっくり考えてください。でも何か気になることがあれば、いつでも連絡してくださいね」
育休中の職員「ありがとうございます。忘れられていないとわかって、安心しました。復帰に向けて、少し相談したいことがあって……」
「忘れられていない」という実感が、復帰への意欲を支えます(筆者推測:この観察は本事例に基づくもので、統計的なエビデンスではありません)。なお連絡は「復帰を催促するもの」にならないよう、頻度と内容を決めて運用することが前提です。
② 「復帰前面談」を復帰3か月前に設ける
育休復帰の3か月前に、施設長との30分の面談を設けました。議題は「どんな働き方を希望するか(時短・勤務日数)」「復帰後の担当について不安なこと」「職場への要望」の3点です。
「面談を申し込んだら、施設長が喜んでくれた。聞きにくいと思っていたのが、聞いてよかったと思った」という復帰職員の声がありました(本事例での観察)。
前述のとおり、この「意向を聴く」という対応は、2025年10月以降は法令上も求められるものになっています。
③ 「時短勤務でも担当利用者を持てる」体制を作る
時短勤務の職員が担当利用者を持てない、という状態を解消しました。時短であっても「週のうちで関わる時間が多い利用者」を担当として設定し、「この利用者のことはこの職員が一番よく知っている」という役割を明確にしました。
「時短だから戦力外だと思っていたが、担当を持てたことで責任感が生まれた」という復帰職員の声がありました(本事例での観察)。
改善結果——3年後の変化
| 指標 | 取り組み前(3年間) | 取り組み後(3年間) |
|---|---|---|
| 産休・育休後の職場復帰者数 | 0名(3名全員が退職) | 3名(3名全員が復帰) |
| 復帰後の在籍継続 | — | 3名全員が復帰後1年以上継続中 |
| 育休中の連絡 | なし | 月1回の定期連絡(全員に実施) |
| 復帰前面談の実施 | なし | 復帰3か月前に全員と実施 |
| 「育休が取りやすい職場」と感じる職員 | 把握なし | 職員アンケートで「そう思う」が増加傾向(参考値) |
※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。3年間という観察期間は短く、長期的な傾向については継続的なモニタリングが必要です。また育休復帰率が向上した要因は複合的であり、上記の取り組みのみによるものとは言い切れません。同様の成果を保証するものではありません。
施設長の3年後の言葉
「子育てと仕事の両立が難しいのは、施設の問題だったと気づきました。『戻りにくい空気』を作っていたのは私たちでした。月1回のメッセージと復帰前面談——それだけで、3名全員が戻ってきてくれた。採用にかかる負担を抑えられただけでなく、経験のある職員が戻ってくることで支援の質も守られました」
「育休中に毎月連絡をもらって、施設の一員でいられる感覚がありました。復帰するときも、面談で不安を全部話せた。辞めなくてよかったです」(復帰した職員)
成功のポイント
- 「辞めた理由」は本人に聞かないと分からない——推測で「両立が難しいから」と片づけていたことが出発点でした
- 不安は「制度がないこと」ではなく「聞けないこと」から生まれる——制度があっても、使えるかどうかが分からなければ同じです
- 連絡は「催促」ではなく「つながりの維持」——目的を取り違えると逆効果になります
- 時短勤務を「戦力外」にしない——役割があることが、復帰後の定着を左右します
自施設のセルフチェックリスト
次の5項目のうち、いくつ当てはまるでしょうか。
- □ 産休・育休後に退職した職員から、理由を聴き取ったことがある
- □ 育休中の職員と定期的に連絡を取る仕組みがある
- □ 復帰前に、希望する働き方を聴く面談を設けている
- □ 時短勤務の職員にも役割・担当がある
- □ 2025年10月施行の「柔軟な働き方を実現するための措置」への対応を確認済みである
まとめ——「辞めなくて済む職場」は仕組みで作れる
産休・育休後に職員が戻ってこない理由の多くは、「戻れない職場環境」ではなく「戻れるかどうか分からない」という不安から来ています(本事例の観察に基づく記述)。月1回の連絡・復帰前面談・時短でも役割を持てる体制——この3つは、いずれも大きな費用をかけずに始められます。
人材の確保が難しい時代に、すでに経験を積んだ職員が戻ってくることの価値は小さくありません。「産休後に戻ってくる職員が少ない」という施設は、まず育休中の職員に「忘れていませんよ」という連絡を送ることから始めてみてください。
【補足】育児・介護休業法への対応、就業規則の整備、両立支援に関する助成金の申請等は社会保険労務士の専門領域です。Engoodはこれらの業務を代行することはなく、現状の整理・仕組みづくり・社会保険労務士との連携までをご支援します。助成金の要件・名称・支給額は年度により変更されるため、最新の情報は厚生労働省および都道府県労働局にご確認ください。
職員の定着については、非常勤・パート職員を対象とした パート・非常勤職員の定着率を上げた施設がやっていたこと、実際に「辞めたい」と申し出があったときの対応は 「辞めたい」と言った職員が残った施設 をご覧ください。
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