職員が「この施設で働き続けたい」と思う瞬間|定着率が高い施設の共通点
——定着率の高い施設10か所のヒアリングから見えた共通点
「うちの施設は職員がよく辞める。給料を上げる余裕もないし、もう採用し続けるしかない」——この言葉を、何人の施設長から聞いたかわかりません。
一方で、同じ地域・同じ給与水準でも、職員がほとんど辞めない施設が確かに存在します。離職率が5%以下、中には10年以上続けている職員が半数以上という施設もあります。
そういった「定着率の高い施設」には、何か特別なものがあるのでしょうか。今回は、コンサルティング活動を通じて関わった障害福祉施設のうち、職員定着率が高い10か所にヒアリングを実施し、「職員が働き続けたいと感じる瞬間」と「施設側が共通して行っていること」を整理しました。
ヒアリング対象施設の概要
- 対象:神奈川県・東京都内の障害福祉施設10か所
- サービス種別:生活介護4か所・グループホーム3か所・就労支援B型2か所・多機能型1か所
- 規模:定員10〜35名
- 直近3年間の平均離職率:いずれも10%未満(業界平均約14〜16%と比較して低水準)
- ヒアリング対象:管理者・職員(在職5年以上)各施設2〜3名
※ 本記事の内容は、個別施設のヒアリングと観察をもとにした考察を含みます。
「この施設で働き続けたい」と思った瞬間——職員の声
まず、在職5年以上の職員に「この施設を辞めずに続けてきた理由・続けたいと思った瞬間」を聞きました。給与・待遇以外の回答を中心に整理します。
【職員から届いた「続けたいと思った瞬間」(原文ママ・一部要約)】
「利用者さんが私の顔を見て笑ってくれたとき。この人のそばにいたいと思った」(生活介護・勤続8年)
「失敗したとき、管理者が責めずに『次どうする?』と聞いてくれた。この人の下で働きたいと思った」(グループホーム・勤続6年)
「自分の提案が実際に支援に取り入れられた。自分がこの施設を作っている感じがした」(就労支援B型・勤続7年)
「育休から戻ったとき、みんなが『待ってたよ』と言ってくれた。ここに帰る場所がある、と感じた」(多機能型・勤続10年)
「施設長が利用者さんの小さな変化を覚えていて、職員の支援を具体的に褒めてくれた。見てくれている、とわかった」(生活介護・勤続9年)
注目すべきは、「給与が高いから」「休みが取りやすいから」という回答がほとんど出なかったことです。職員が語った「続けたい理由」のほとんどは、「関係性」「承認」「自分の意味」に関するものでした。
定着率の高い施設10か所に共通していた「7つのこと」
ヒアリングと観察を通じて、定着率の高い施設に繰り返し見られたパターンを7つに整理しました。
共通点①:管理者が「失敗を責めない」文化を意図的に作っていた
10か所すべての施設で確認できたのが、「失敗したときの管理者の反応」の一貫性です。ミスが起きたとき、管理者は「なぜそうなったか」ではなく「次どうするか」を最初に聞く習慣がありました。
「失敗を責めると、次から報告しなくなる。報告しなくなると、問題が大きくなる。だから失敗を責めないのは、職員のためでもあるし施設のためでもある」(ある施設長の言葉)。この文化は言葉で言うだけでなく、管理者自身が「自分のミスを認める」姿勢を見せることで定着していました。上が失敗を認めると、下も報告しやすくなります。
共通点②:「小さな変化」を具体的に言葉にして伝えていた
定着率の高い施設の管理者は、職員への承認が「具体的」でした。「よくやってくれている」「ありがとう」ではなく、「昨日の○○さんへの声かけ、あのタイミングは良かった」「先週の支援記録、具体的で読みやすかった」という形で伝えていました。
「抽象的な褒め言葉は、本当に見てくれているかどうかわからない。具体的な場面を挙げてくれると、ちゃんと見てもらえていると感じる」という職員の声が複数ありました。
【管理者の声かけ・定着施設 vs 離職が多い施設の比較】
定着施設の管理者:「今日の○○さんへの食事介助、体の角度に気をつけてくれていたね。ああいう対応が大事なんだよ」
離職が多い施設の管理者:「みんなよく頑張ってくれている。引き続きよろしく」
どちらも「褒めている」が、職員の受け取り方は全く異なります。
共通点③:職員の「提案が通る」経験を作っていた
定着している職員の多くが「自分の意見が反映された経験がある」と話していました。大きな提案でなくていい。「この記録様式、こう変えたらどうか」「この利用者に対してこう関わってみたい」——小さな提案でも、真剣に検討されて実際に変わった経験が、「この施設を自分が作っている」という感覚を生みます。
定着率の高い施設の管理者は、職員の提案を「却下するとき」も必ず理由を説明していました。「採用されなくても、ちゃんと考えてくれたとわかれば納得できる」という声が印象的でした。
共通点④:「この利用者のことをいちばん知っている」という実感があった
長く続ける職員に共通していたのは、「担当利用者との関係の深さ」でした。何年もかけて積み重ねた関係の中で、「この人のいちばんの理解者は自分だ」という実感が、仕事の意味になっていました。
逆に、担当制がなく誰でも対応するという体制や、頻繁な担当変更がある施設では、この「つながり」が育ちにくい傾向があります。担当制の設計と、担当職員が利用者をじっくり知る時間を守ることが、定着の土台になっていました。
共通点⑤:「休みが取りやすい」空気が意図的に作られていた
有給休暇の取得率が高い施設は、「取っていいですか?」ではなく「取ります」と言える空気がありました。管理者自身が率先して休みを取り、「休むことを申し訳なく思わなくていい」というメッセージを言葉と行動で示していました。
「休みが取れない」「急な欠勤が怖い」という環境は、ストレスを蓄積させ離職を早めます。シフトの余裕を意図的に作り、急な休みをカバーできる体制を整えることが、職員が長く続けられる物理的な条件です。
共通点⑥:「なぜこの仕事をするのか」を折に触れて語っていた
定着率の高い施設の管理者は、理念や「なぜこの仕事をするのか」を、会議・面談・日常会話の中で繰り返し語っていました。「額縁に掲げた理念」ではなく、「今日の○○さんのこんな姿が、私がこの仕事を続ける理由だ」という形で。
障害福祉の仕事は、成果が見えにくく、つらい場面も多いものです。それでも続けられる職員は、「なぜここで働くか」という自分なりの答えを持っています。管理者がその問いを語り続けることが、職員が自分の答えを見つける助けになっていました。
共通点⑦:「長く働くほど得になる」設計があった
給与水準が高いわけではなくても、「勤続年数に応じた処遇の改善」が明確な施設は定着率が高い傾向がありました。昇給基準・キャリアパス・資格取得支援——これらが「見えている」施設では、職員が「ここで頑張れば将来が変わる」と感じられます。
処遇改善加算の上位区分への移行や、キャリアパス表の整備が、単なる加算取得だけでなく職員の定着にも機能することを、複数の施設が実証していました。
7つの共通点——実践難易度と即効性
| 共通点 | 実践難易度 | 即効性 | コスト |
|---|---|---|---|
| ①失敗を責めない文化 | 低(管理者の意識変化) | 高 | ゼロ |
| ②具体的な承認の言葉 | 低(習慣化が必要) | 高 | ゼロ |
| ③提案が通る経験 | 中(仕組みが必要) | 中 | ほぼゼロ |
| ④担当利用者との深い関係 | 中(体制設計が必要) | 中〜長期 | 低 |
| ⑤休みが取りやすい空気 | 中(シフト設計が必要) | 中 | 低〜中 |
| ⑥理念を語り続ける | 低(継続が必要) | 低〜中 | ゼロ |
| ⑦長く働くほど得になる設計 | 高(制度整備が必要) | 低〜中 | 中 |
実践難易度が「低」でコスト「ゼロ」の①②は今日から始められます。特に②「具体的な承認の言葉」は、明日の朝礼から変えられる、最も即効性の高い取り組みです。
まとめ——「給料を上げられないから仕方ない」は思い込みかもしれない
10か所のヒアリングを通じて見えてきたのは、職員が施設を離れる最大の理由は「給与の低さ」ではなく「承認されない」「意見が聞かれない」「成長できない」という感覚だということです。
逆に言えば、給与を大きく上げなくても、職員が「ここで働き続けたい」と感じる施設を作ることはできます。必要なのは、お金よりも管理者の姿勢と、日常の小さな積み重ねです。
「うちの施設は職員がよく辞める」と感じている管理者に試してほしいことが一つあります——明日、一人の職員に「具体的な場面を挙げて」声をかけてみてください。それだけで、何かが少し変わり始めます。
あわせて、離職率が高い障害福祉施設に共通する3つの職場環境(なぜ辞めるのか)や、職場環境の改善で離職を減らしたグループホームの改善事例もご覧ください。職員の離職・定着でお悩みの方は、職員の離職・定着支援のページもあわせてどうぞ。
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