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改善事例

入職後3か月以内に辞める職員が多かった施設|入職からの90日を30・60・90で区切って設計し直した実例

——「放置されている感覚」が早期離職の引き金になっていた

【エビデンスと予測の区別について】
・登場する人物・法人は架空です(実際のコンサル支援先を参考に加工)。
・オンボーディング(入職者の受け入れ)に関する考え方は、人材マネジメントの一般的な知見を参考にしています。障害福祉分野に特化した統計的エビデンスは確認できていません(筆者推測)。
・「受け入れの改善が早期離職の低下につながる」という記述は本事例の観察に基づくものです。
・公的調査を引用する際は出典と調査対象を明示します。
・筆者の経験・推測は「(筆者推測)」と本文中に明示します。

問題発生——「また3か月で辞めた」が続く

「今年に入ってから採用した5名のうち、3名がすでに辞めています。全員3か月以内でした」——グループホーム(定員12名)と就労継続支援B型(定員18名)を運営する法人の管理者の言葉です。

退職者に理由をたずねると、共通するキーワードが浮かびました。「放置されている感じがした」「何をすればいいかわからなかった」「質問できる雰囲気じゃなかった」——いずれも採用の段階の問題ではなく、入職した後の受け入れの問題でした。

(退職した職員へのヒアリング)
管理者「退職を決めた理由を、正直に教えていただけますか」
退職者「仕事内容が嫌だったわけじゃないんです。でも最初の1か月、誰も声をかけてくれなくて。わからないことがあっても聞けなくて。自分は必要とされていないのかな、と思うようになってしまいました」
管理者「……そんなつもりは全くなかったのですが、そう感じさせてしまっていたんですね」

入職後の受け入れの実態(改善前)

  • 入職初日の対応:施設の案内と就業規則の説明のみ(約1時間)
  • 担当のメンター:なし(「困ったら誰でも聞いて」とだけ伝えていた)
  • 入職後の定期面談:なし
  • 1か月後の振り返り:なし
  • 業務マニュアル:「あるが古い・どこにあるかわからない」

「困ったら誰でも聞いて」は、裏を返せば「誰に聞けばいいか決まっていない」ということです。入ったばかりの職員にとって、これは「聞くな」と言われているのとあまり変わりません(筆者推測:支援現場での観察に基づくものです)。

参考——現場を離れる理由の上位は「人間関係」

公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度 介護労働実態調査」(令和7年7月公表)によると、直前の介護の仕事を辞めた理由として最も多かったのは「職場の人間関係に問題があったため」で24.7%でした。また、職場定着・離職防止の方策として実施率が高いのは「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」74.7%、「人間関係が良好な職場づくり」72.0%、「職場内での仕事上のコミュニケーションの円滑化(面談・ミーティング・意見交換会など)」68.9%と続きます。

※ この調査は介護分野を対象としたもので、障害福祉分野の調査ではありません。参考としてご覧ください。出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」。

「人間関係」と聞くと対立やハラスメントを思い浮かべがちですが、入ったばかりの職員にとっての「人間関係の問題」は、多くの場合まず「関係が無いこと」です。誰とも関係ができないまま1か月が過ぎることが、そのまま退職の理由になります。

改善策——入職からの90日を3つのフェーズに区切る

この法人が設計したのは、新しい研修プログラムではありません。入職から90日の時間を区切り、それぞれの時期に「何をするか」を決めただけです。

フェーズ1:入職〜30日「安心して働ける状態をつくる」

  • 初日:担当メンターを指名して紹介する。施設案内・緊急連絡先の確認・業務マニュアルの場所を説明する
  • 1週目:メンターが毎日5分「今日困ったことはありましたか」と声をかける
  • 2週目以降:週1回15分のメンター面談(「わからないこと・心配なこと」を聞く)

ここで効いたのは初日にメンターを指名したことでした。「誰でも聞いて」を「この人に聞いて」に変えるだけで、質問までの心理的な距離が変わります。

フェーズ2:30〜60日「仕事に慣れる・貢献を実感する」

  • 1か月後面談(管理者と15分):「できるようになったこと・まだ不安なこと」を確認する
  • 担当する利用者を1〜2名に絞る——「この方のことは自分が一番知っている」という状態を意図的につくる

このフェーズの肝は後者です。全体を薄く見る状態が続くと、自分がいる意味を実感できません。担当を絞って「この方については自分が一番わかっている」という手応えを早い段階でつくることが、続ける意欲につながりました。

フェーズ3:60〜90日「この職場で続ける意欲を育てる」

  • 2か月後面談(管理者と30分):「3か月経って、どう感じているか」を丁寧に聞く
  • 「この職場で1年後どうなっていたいか」という問いを一緒に考える
  • 3か月後:試用期間の終了・本採用の確認

※ 試用期間や本採用の取り扱いは就業規則・労働条件に関わる事項です。制度として定める際は、社会保険労務士にご相談ください。Engoodは受け入れの流れづくりをご一緒しますが、就業規則の作成・変更や労務手続きの代行は行いません。

なお、担当者制や週15分の面談といった「教育の中身」をどう組み立てるか——到達目標のチェックリスト、失敗を責めないルール、定着率の数値管理までは、新人職員が辞めなくなった教育の仕組み|障害福祉施設の新人教育を「教える」から「育てる」へ で解説しています。本記事は「いつ・何をするか」という時間の設計に絞ってご紹介しました。

導入後の変化——1年間

指標 導入前(1年) 導入後(1年)
採用数 5名 4名
3か月以内の退職者 3名(60%) 0名
6か月後の在籍率 40%(5名中2名) 100%(4名中4名)
新入職員の「相談できる人がいる」感覚 把握なし 4名全員が「メンターに相談できた」と回答
管理者の「受け入れに自信がある」感覚 「不安」 「仕組みができた」

※ 上記は参考値です。対象となる人数が5名・4名と少ないため、割合の変化は一人ひとりの個別の事情に大きく左右されます。また1年間という短い期間の観察であり、長期的な定着については継続的なモニタリングが必要です。受け入れの仕組み以外の要因(職場環境・人間関係・処遇等)も定着に影響します。同様の成果を保証するものではありません。

【入職6か月の職員の言葉】
「最初の1か月、メンターの方が毎日声をかけてくれました。わからないことを聞いていいんだ、という安心感がありました。今でも困ったことがあれば相談できます。この職場に入ってよかったと思っています」

【管理者の言葉】
「メンター制度を始めてから、新入職員の表情が変わりました。以前は入って1か月が過ぎると顔が暗くなる人がいた。今は1か月目が一番楽しそうにしています。迎え方でここまで変わるとは思いませんでした」

まとめ——「入職初日に何をしているか」から見直す

採用にかけたコストと時間は、入職後3か月で辞められてしまうと、ほとんど回収できません。逆に、最初の90日を丁寧に設計しておくと、その後長く働き続ける職員が育ちやすくなります(本事例の観察に基づく記述です)。

この事例で新しく増えた業務は、初日のメンター指名、毎日5分の声かけ、週15分の面談、節目の面談だけです。新しい制度をつくったというより、これまで誰も決めていなかった「いつ・誰が・何をするか」を決めた、というのが実態に近い表現でした。

「採用してもすぐ辞める」とお感じの方は、まず「入職初日に何をしているか」を書き出してみてください。そこが空白であれば、伸びしろはそこにあります。

新人教育の中身のつくり方は 新人職員が辞めなくなった教育の仕組み、組織全体の見直しで離職率を下げた実例は 離職率25%だった障害者施設が1年で8%まで改善した組織改革、パート・非常勤の定着は パート・非常勤職員の定着率を上げた施設がやっていたこと、定着率が高い職場に共通する要素は 職員が「この施設で働き続けたい」と思う瞬間 もあわせてご覧ください。

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