体験利用は多いのに、なぜ本利用につながらないのか|「一日預かる体験」から「本人の生活課題を解決する体験」へ変えた生活介護事業所
※本記事は障害福祉施設で起こり得る課題をもとに構成した架空のモデル事例です。特定施設の実績ではありません。人数・金額等は改善方法を説明するための想定値です。
はじめに――体験利用まで来るのに、その後連絡がない
定員20名の生活介護事業所。相談支援専門員から紹介がある。家族が見学に来る。本人も体験利用する。職員も、「特に問題なく過ごされました」と報告します。ところが、その後の本利用につながりません。管理者は、「他の事業所を選ばれたのだから仕方がない」と考えていました。
しかし半年間の数字を確認すると、見学12件、体験利用8件、本利用2件という状態でした。問い合わせがないわけではありません。見学にも来ています。さらに体験まで進んでいます。それでも契約につながらない。そこで体験利用の内容を確認すると、問題が見えてきました。
午前は作業、昼食、午後は創作活動、15時に帰宅。全員にほぼ同じプログラムです。つまり施設側は、「うちの施設の一日を体験してもらう」ことを体験利用だと考えていたのです。しかし本人や家族が知りたいのは、「この施設を利用すると、自分の生活がどう良くなるのか」ではないでしょうか。そこで体験利用そのものを作り直すことにしました。
1.改善前の状況――体験利用が「施設紹介」で終わっていた
体験利用前に確認する内容は、氏名、障害特性、食事、服薬、アレルギー、送迎、緊急連絡先など、安全に一日過ごすための情報が中心でした。もちろん必要な情報です。しかし、なぜ新しい事業所を探しているのか、本人は何をしたいのか、現在の生活で何に困っているのか、家族は何を心配しているのか、他施設では何が合わなかったのかといった利用選択に関わる情報は十分確認していませんでした。
そのため、体験終了後の報告も、「穏やかに過ごされました」「昼食は完食されました」「活動にも参加できました」で終わります。これでは本人・家族にとって「この施設を選ぶ理由」が見えません。
2.原因分析――施設が伝えたいことと、利用者が知りたいことが違っていた
本利用につながらない理由を分析すると、三つの課題がありました。第一に、体験利用の目的を聞いていませんでした。本人が求めているのは作業かもしれません。家族が求めているのは安心できる日中の居場所かもしれません。本人に友人が欲しいケースもあります。
将来的な親亡き後を考え、生活範囲を広げたい家族もいます。目的が違えば、見せるべき支援も違います。第二に、「できたこと」しか家族へ伝えていませんでした。体験後、「問題ありませんでした」と伝えるだけでは、施設の専門性が伝わりません。
どのような場面で困ったか、職員がどのように支援したか、本人がどう反応したか、次回はどう支援するとよさそうか。ここまで伝えて初めて、施設の支援力が見えます。第三に、体験後のフォロー担当がいませんでした。体験終了後は、「検討してご連絡ください」で終わっていました。本人や家族が迷っている理由を確認する人がいませんでした。
3.具体的な改善策①――体験前に「三つの質問」をする
体験前面談に三つの質問を追加しました。「現在の生活で一番困っていることは何ですか」「新しい事業所でできるようになったら嬉しいことは何ですか」「これまでのサービスで困ったことはありますか」です。例えばAさんの場合、「大人数の活動が苦手で、以前の施設では午後になると落ち着かなくなった」という情報が得られました。
そこで体験では集団活動への参加だけを見るのではなく、少人数活動、休憩場所、本人が自分で活動を選ぶ場面を意図的に設定しました。体験利用が、単なる見学から支援の仮説検証へ変わります。
4.具体的な改善策②――体験利用者専用の「一日支援仮説」を作る
長い個別支援計画を作る必要はありません。A4一枚程度で、本人の希望、家族の希望、想定される困りごと、試してみる支援、観察するポイントを共有します。例えば、「集団活動から離れた場合、すぐ戻すのではなく静かな場所を提示する」という支援仮説を設定します。
すると職員も、「活動に参加できた・できなかった」ではなく、「どの環境なら本人が安心して過ごせるか」を見るようになります。
5.具体的な改善策③――体験終了後に「支援レポート」を渡す
体験後、本人・家族へ簡単なレポートを返します。例えば、「午前の軽作業では20分程度集中され、その後ご自身で席を離れました」「静かな場所をご案内すると約10分休まれ、その後本人から再び活動へ戻られました」「集団活動への参加を促し続けるより、本人が休息を選択できる環境が合っている可能性があります」といった内容です。
診断をするのではありません。職員が何を観察し、どのように支援したかを具体的に伝えるのです。これによって家族は、「預かってくれる施設」ではなく、「本人を見てくれる施設」としてサービスを評価できます。
6.具体的な改善策④――体験翌日に一度だけフォローする
体験後に何度も営業電話をする必要はありません。翌日など適切なタイミングで、「昨日の体験後、ご本人の様子はいかがでしたか」と確認します。ここで契約を迫るのではなく、「気になったことはありませんでしたか」「ご本人は何と話されていますか」「他に確認したいことはありますか」と尋ねます。
利用しない場合も、可能な範囲で理由を聞きます。その理由を蓄積することで、活動、送迎、食事、雰囲気、利用曜日、本人との相性など、施設側の改善点が見えてきます。
7.売上への効果――体験から本利用への転換が1名増えるだけでも大きい
モデルケースとして、半年間8件の体験から2名が本利用していた状態を考えます。改善によって新たに2名が、本人の希望に基づき週3日利用するようになったと仮定します。説明用に1利用日当たりの事業所収入を12,000円とすると、2名×週3日×4週間×12,000円で月額288,000円の増収。
年間単純換算では約346万円です。もちろん実際の報酬額、加算、欠席、営業日、人件費等によって異なります。ポイントは、広告費を増やして問い合わせを倍にしたわけではないことです。すでに施設に関心を持ってくれた人へ、サービスの価値を十分伝えられるようにした結果として生まれる売上です。
※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算は障害支援区分や利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。利用日数は本人の希望と支給決定の内容が前提で、受け入れ人数は人員配置基準と安全な支援体制を満たす範囲で判断します。最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。
8.改善結果――「問題なく過ごした」から「この人にはこう支援する」へ
モデル事例では、体験利用後の職員会議が変化したと想定します。以前は、「Aさん、特に問題ありませんでした」でした。改善後は、「Aさんは集団活動より個別活動の方が落ち着いていた。休憩を自分で選択できる環境を作れば継続利用しやすそうだ」という話になります。体験利用そのものが職員教育にもなったのです。
9.コンサルタントの視点――体験利用は無料サンプルではない
福祉事業所の体験利用では、施設の一日をそのまま経験してもらうケースがあります。しかし利用者が施設へ合わせられるかを見るだけでは十分ではありません。見るべきなのは、施設がその人へ合わせた支援を提供できるかです。この違いがサービス品質であり、結果として選ばれる理由になります。
10.実践アドバイス
体験前に本人・家族の「一番困っていること」を一つだけ確認してください。そして体験中に、その課題に対して施設がどんな支援を提供できるか試します。体験後には「楽しく過ごされました」ではなく、観察した事実と支援内容を伝えます。
利用につながらなかった場合も理由を記録し、3か月ごとに集計すると施設の弱点が見えてきます。
チェックリスト
- 体験利用の目的を本人に確認している。
- 家族の希望だけでなく本人の希望も確認している。
- 現在困っている生活課題を確認している。
- 体験者全員へ同じプログラムを当てはめていない。
- 体験中に試す支援方法を決めている。
- 観察内容を職員間で共有している。
- 体験後に具体的な支援内容を説明している。
- 契約を急かすフォローになっていない。
- 利用に至らなかった理由を記録している。
- 体験から本利用への推移を定期的に確認している。
11.まとめ――体験利用で売るのは「施設」ではなく「支援の価値」
立派な建物、多彩な活動、新しい設備。もちろん魅力になります。しかし本人や家族が最終的に知りたいのは、「ここなら自分のことを理解してくれるだろうか」ということです。だから体験利用で最も見せるべきものは設備ではありません。職員が本人を理解しようとするプロセスそのものです。それがサービス品質になり、結果として本利用と売上につながります。
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