見学は来るのに、なぜ契約につながらないのか|「施設を説明する見学」から「本人の生活を一緒に考える見学」へ変えた生活介護のモデル事例
―「施設を説明する見学」から「本人の生活を一緒に考える見学」へ変え、利用開始につなげた障害福祉施設―
※本稿は、障害福祉施設で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、数値等は改善の考え方を分かりやすくするための想定です。
はじめに――問い合わせはある。見学もある。それでも利用者が増えない
今回のモデル事例は、定員20名の生活介護事業所です。事業所では稼働率向上を経営課題の一つとして、相談支援事業所、特別支援学校、医療機関などへの情報提供を積極的に行っていました。その成果もあり、問い合わせは毎月入ります。施設見学にも来てもらえます。ところが、なかなか契約につながりません。ある3か月間を確認すると、問い合わせ18件、見学11件、体験利用5件、実際の契約2件という状況でした。管理者は、「地域に競合施設が多いから仕方がありません」と考えていました。しかし見学対応を確認すると、別の問題が見えてきました。
見学者が来ると、管理者は非常に丁寧に施設を説明しています。「こちらが作業室です」「入浴設備があります」「送迎はこの地域まで行っています」「昼食はこちらで提供しています」「活動は午前と午後に分かれています」。30分ほどかけて施設の特徴を説明します。最後に、「何かご質問はありますか?」と聞きます。家族は、「大丈夫です」と答えます。そして帰宅します。施設側は十分説明したつもりです。しかし、本人や家族が「ここを利用したら生活がどう変わるのか」をイメージできていなかったのです。
改善前の状況――見学者全員に同じ説明をしていた
見学時の説明内容を確認すると、ほぼマニュアル化されていました。施設概要、利用時間、送迎、昼食、入浴、活動内容、職員配置、一日の流れ、利用料金。どの見学者にも、ほぼ同じ順番で説明します。説明自体に問題があるわけではありません。しかし、見学者によって知りたいことは違います。例えば18歳で特別支援学校卒業後の進路を探している本人・家族と、50代になり現在の通所先へ通うことが難しくなった人では、施設選びの理由が違います。医療的な支援を心配している家族、送迎を最優先する家族、本人の活動場所を探している家族、家族自身の介護負担が大きくなっている家庭。それぞれの課題が違うにもかかわらず、施設側は同じ説明をしていました。つまり見学が、「相手を知る時間」ではなく「施設を説明する時間」になっていたのです。
原因分析――見学を「営業」と考えすぎていた
管理者には、「施設の良いところを伝えなければ契約してもらえない」という意識がありました。そのため、設備が充実している、活動が豊富、職員が優しい、送迎がある、昼食がおいしいといった施設の強みを一生懸命説明します。しかし障害福祉サービスを探している本人・家族が考えているのは、施設の機能だけではありません。「本人はここで落ち着いて過ごせるだろうか」「今の生活で困っていることが改善するだろうか」「親が高齢になっても利用を続けられるだろうか」「本人が嫌がらず通えるだろうか」という生活上の問題です。必要だったのは施設の魅力を一方的に説明することではなく、「なぜ今、新しいサービスを探しているのか」を理解することでした。
改善策――見学から利用開始までの7つの見直し
改善策① 施設説明の前に「今回探している理由」を聞く
見学対応の順番を変えました。以前は、施設説明、館内見学、質問という順番でした。改善後は最初に10~15分程度、本人・家族の話を聞きます。例えば、「今回、新しい事業所を探されているきっかけは何でしょうか」「現在の生活で一番困っていることはありますか」「ご本人はどのようなことがお好きですか」「通所先を選ぶうえで大切にしたいことは何でしょうか」などです。すると、同じ「見学」でも背景がまったく違うことが分かります。施設側が説明すべき内容も変わります。
改善策② 本人と家族の希望を分けて確認する
見学では家族が説明する場面が多くなります。しかし本人の希望と家族の希望が同じとは限りません。例えば家族は、「いろいろな活動へ参加してほしい」と考えている。一方、本人は静かな環境で同じ作業を続けることを好んでいる、という場合があります。そこで可能な範囲で、本人が興味を示す場所、表情、活動への反応、本人なりの意思表示を確認します。言葉で意思表示できる人には、本人にも直接尋ねます。見学段階から、「この施設は家族だけでなく自分のことも見てくれる」と感じてもらえる対応を意識しました。
改善策③ 「できます」だけでなく「できないこと」も説明する
契約につなげたいと思うほど、「対応できます」と言いたくなります。しかし、受け入れ後に、「そんな話は聞いていなかった」となれば、本人・家族だけでなく職員も困ります。そこで、送迎範囲、医療的支援、個別対応、入浴、食事、利用時間、職員配置などについて、施設で対応できる範囲を具体的に説明しました。できないことがある場合には、「できません」だけで終わらず、「この方法なら可能です」「この部分は別のサービスと組み合わせる方法があります」など代替案を検討します。契約件数を増やすことより、利用開始後のミスマッチを減らすことを優先しました。
改善策④ 見学から体験利用までの「空白期間」をなくす
見学後の流れも確認しました。以前は、「ご検討いただいて、利用される場合はご連絡ください」で終了していました。本人・家族からすると、その後どうすればよいのか曖昧です。そこで見学時に、体験利用、相談支援専門員との調整、必要書類、利用開始までの流れを具体的に説明しました。希望があれば、その場で体験利用候補日を一緒に考えます。契約を急がせるのではありません。次に何をすればよいか分かる状態にすることが目的です。
改善策⑤ 体験利用を「一日預かる日」にしない
体験利用も見直しました。以前は通常利用者と同じスケジュールに参加してもらい、「問題なく過ごせました」で終了することがありました。改善後は事前に、本人が好きなこと、苦手なこと、コミュニケーション方法、食事、移動、休憩、不安になったときのサインなどを確認します。そして体験後には、何に興味を示したか、どこで不安が見られたか、どのような支援で落ち着いたかを本人・家族へ具体的に伝えます。体験利用を、本人と施設双方が「合うかどうか」を確認するアセスメントの機会と位置づけました。
改善策⑥ 契約しなかった理由を記録する
ここが今回の改善で特に重要なポイントです。以前は契約にならなかった場合、「他施設に決まりました」で終わっていました。そこで、分かる範囲で理由を分類しました。希望曜日が合わない、送迎範囲外、活動内容が本人に合わない、医療的対応が難しい、他施設を選択、本人が希望しなかった、家族の希望と合わなかったなどです。これは契約しなかった本人・家族を評価するためではありません。自施設が選ばれない理由を経営改善に使うためです。例えば「送迎範囲」が理由として多ければ、送迎体制を検討する価値があります。「希望曜日」が多ければ、曜日別稼働率との関係を分析できます。「本人に合う活動がない」が多ければ、サービス内容を見直す材料になります。
改善策⑦ 「問い合わせ→見学→体験→契約」を別々に数える
稼働率改善では、最終的な契約数だけを見るのではなく、途中経過を数値化しました。例えば、問い合わせ20件、見学12件、体験8件、契約5件なら、どこで離脱しているかを見ることができます。問い合わせは多いのに見学が少ない、見学は多いのに体験につながらない、体験は多いのに契約にならない。それぞれ改善策が違います。これを利用開始までの導線として管理しました。
問い合わせから利用開始までの各段階を一枚の管理表で追う方法や、段階ごとの見直し方は、空きがあるのに利用につながらない|問い合わせから利用開始までを5段階に分けて、止まっている場所を見つける で詳しく解説しています。
改善結果――「説明が上手になった」のではなく「ミスマッチが減った」
モデル事例では、見学対応と体験利用を見直したことで、見学後に体験利用へ進む割合と、体験後に利用開始へ進む割合が改善した想定です。しかし、それ以上に重要だったのは、契約後のミスマッチが減ったことです。以前は利用開始後に、「思っていた施設と違いました」「本人が行きたがりません」というケースがありました。改善後は、利用開始前に本人の反応を確認し、施設でできること・難しいことも説明しています。そのため、「契約してから合うかどうかを確認する」のではなく、「合うことをある程度確認してから契約する」という流れへ変わりました。
※ 本稿は複数の課題をもとに再構成したモデル事例であり、記載の件数や改善の内容は考え方を説明するための想定(参考値)です。実際の結果は、地域の状況・事業所の体制・利用者の状態などによって異なります。同様の成果を保証するものではありません。
コンサルタントの視点――稼働率改善は「利用者を集めること」ではない
稼働率が低い施設では、営業が足りない、紹介が少ない、地域に競合が多いと考えがちです。しかし問い合わせがあるのに利用につながらないのであれば、問題は営業量ではなく、利用開始までのプロセスにある可能性があります。問い合わせ、見学、体験、契約、利用開始、継続利用。この一連の流れを確認してください。どこで止まっているのかによって、改善策はまったく違います。
障害福祉の稼働率改善で最も避けたいのは、数字を上げるために誰でも受け入れることです。短期的には稼働率が上がっても、ミスマッチによって本人が利用をやめれば持続しません。稼働率改善とは、施設を必要としている人と、その施設が提供できる支援を正しく結びつけることです。
今回のテーマに特化した実践アドバイス
- 直近10件の見学結果を確認してください。契約した・しなかっただけでなく、問い合わせ、見学、体験、契約のどこまで進んだかを確認してください。
- 見学時は「説明7:質問3」を逆転させてください。施設側が話し続けているなら、最初の15分だけでも本人・家族の話を聞く時間に変えてみます。
- 「何を探しているか」より「なぜ探しているか」を聞いてください。「生活介護を探しています」だけでは情報が足りません。なぜ現在の生活を変えたいのかを確認すると、本当のニーズが見えてきます。
- 見学者の質問を記録してください。同じ質問が何度も出る場合、ホームページやパンフレットで情報が不足している可能性があります。
- 契約しなかった理由を月1回集計してください。断られた件数を失敗と考えず、サービス改善のデータとして扱います。
- 体験利用後は本人の「できたこと」だけを報告しないでください。楽しそうだった場面、疲れた場面、拒否した場面、必要だった支援も含めて家族へ伝えます。
- 利用開始後30日で「見学時の説明と違いがないか」を確認してください。利用開始がゴールではありません。本人・家族が期待していた支援と実際の支援にズレがないか、早い段階で確認します。
見学・体験・利用開始チェックリスト
- 問い合わせ件数を把握しているか。
- 見学件数を把握しているか。
- 体験利用件数を把握しているか。
- 契約件数だけでなく途中の離脱状況を確認しているか。
- 見学前に本人・家族の基本的なニーズを確認しているか。
- 見学時に施設説明だけでなく本人・家族の話を聞いているか。
- 本人自身の希望や反応を確認しているか。
- 施設でできないことも説明しているか。
- 見学後の次の手順を具体的に伝えているか。
- 体験利用をアセスメントの機会として活用しているか。
- 契約に至らなかった理由を記録しているか。
- 選ばれなかった理由をサービス改善に活用しているか。
- 利用開始後にミスマッチがないか確認しているか。
まとめ――「施設を売る」のではなく、「その人に合う生活を一緒に探す」
見学者が来ると、私たちはつい施設の良いところを説明したくなります。設備、活動、送迎、食事、職員体制。もちろん説明は必要です。しかし本人や家族が本当に知りたいのは、それらの機能そのものではありません。「ここを利用したら、この人の生活はどうなるのか」です。朝、どのように通うのか。どこで過ごすのか。好きなことはできるのか。苦手なときにはどう支援してもらえるのか。家族の負担はどう変わるのか。数年後も利用できるのか。そこまでイメージできて初めて、施設は「見学した場所」から「自分の生活の選択肢」になります。
そして、すべての見学者に契約してもらう必要はありません。本人に合わない施設なら、契約しないことが適切な場合もあります。むしろ大切なのは、自施設で支援できる人には、その価値を正しく伝える。自施設では十分に支援できない人には、それを誠実に説明する。この姿勢です。稼働率を上げるために利用者を集めるのではありません。本人が必要としている生活と、施設が提供できる支援が一致する人に利用してもらう。その積み重ねが、結果として安定した稼働率につながります。
次の施設見学で、設備説明を始める前に一つだけ質問してみてください。「今回、事業所を探そうと思われた一番のきっかけは何でしょうか?」その答えの中に、施設が説明すべき本当の内容と、利用につながらない原因の両方が隠れているかもしれません。
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