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改善事例

「どこから紹介された利用者か」を把握していますか?|問い合わせ管理をICT化し、紹介元別データから新規利用につなげた障害福祉事業所

※本記事は架空のモデル事例です。ICT化に際しては個人情報保護、アクセス権限、保存方法等への配慮が必要です。

はじめに――ホームページを作り直す前に調べたこと

生活介護事業所の経営会議。管理者が言いました。「最近、新規利用者が少ないので、ホームページを作り直した方がいいと思います」。制作会社から見積もりを取ると80万円。経営者は迷いました。そこで一つ質問しました。「現在利用している人は、どこから紹介されたのですか?」。

管理者は、「相談支援からだと思います」と答えます。「どこの相談支援事業所ですか?」「そこまでは……」。調べてみると、過去1年間の新規利用者10名のうち、5名が同じ三つの相談支援事業所から紹介されていました。一方、ホームページから直接問い合わせた人は1名。

つまりこの事業所では、ホームページ以上に地域の紹介ネットワークが新規利用の入口になっていたのです。ところが法人は、その重要な情報を記録していませんでした。

1.改善前の状況――問い合わせは「電話メモ」で消えていた

新規問い合わせが入ると、職員が紙に書きます。「○○さんより電話。見学希望」。管理者へ渡します。見学が終わる。契約すれば利用者ファイルができます。契約しなければ、メモはやがて処分されます。そのため、年間問い合わせ件数、紹介元、相談内容、希望曜日、見学率、契約率、利用に至らなかった理由が分かりませんでした。

経営会議で出てくるのは、「最近問い合わせが少ない気がします」という感覚だけです。

2.原因分析――営業活動に「データ」がなかった

原因は営業担当者がいないことではありません。営業情報を経営情報として扱っていなかったことです。第一に、契約者しか記録していませんでした。利用に至らなかった相談ほど、重要な経営情報を含んでいる場合があります。「送迎範囲外だった」「希望曜日が満員だった」「活動内容が合わなかった」「医療面で対応できなかった」。

こうした理由が10件、20件と蓄積すれば、事業所に何が不足しているかが見えてきます。第二に、紹介元を記録していませんでした。誰が施設を地域へ紹介してくれているか分かりません。そのため、地域連携も全事業所へ同じようにパンフレットを配るだけでした。

第三に、ICTを支援記録だけに使っていました。支援記録は電子化しています。しかし営業管理は紙です。ICTを「記録を入力する道具」としか考えていませんでした。

3.具体的な改善策①――問い合わせ台帳をデジタル化する

高価なCRMを最初から導入する必要はありません。法人の情報セキュリティ方針に沿った管理環境で、問い合わせ日、問い合わせ経路、紹介元、希望サービス、希望曜日、送迎、見学日、現在の状況、利用に至らなかった理由、次の対応、担当者を記録します。

個人情報は必要最小限にします。目的は利用希望者を営業対象として追い回すことではありません。事業所にどんな相談が来ているのかを組織として理解することです。

4.具体的な改善策②――紹介元別に集計する

3か月ごとに、A相談支援事業所問い合わせ6件、B相談支援事業所4件、病院3件、特別支援学校2件、ホームページ2件、家族口コミ2件などと集計します。すると地域のどこから相談が生まれているか分かります。さらに、問い合わせ数だけでなく、見学、体験、本利用まで追います。

例えばA相談支援事業所から6件来ても本利用0件なら、支援ニーズと事業所機能が合っていない可能性があります。逆にB事業所から3件中3件が本利用なら、事業所の特徴をよく理解して紹介してくれている可能性があります。

5.具体的な改善策③――「紹介件数ランキング」にしない

ここは非常に重要です。紹介数が多い相談支援事業所だけを優遇する仕組みにしてはいけません。相談支援は利用者本人の利益を中心に行われるものです。目的は、紹介を増やしてもらうための営業ではなく、地域のどこでどんなニーズが生じているかを知ることです。

例えば、ある相談支援事業所から医療的支援に関する相談が多い。別の地域から送迎相談が多い。この違いが事業所のサービス改善につながります。

6.具体的な改善策④――利用に至らなかった理由をコード化する

「契約せず」だけでは情報になりません。そこで理由を、曜日、送迎、支援内容、医療対応、本人希望、他事業所選択、家族事情、連絡終了、その他程度に分類します。例えば半年で30件の相談があり、そのうち8件が「送迎範囲」で終了していれば、送迎エリアを見直す経営判断材料になります。

10件が「水曜日希望だが満員」なら、曜日別稼働調整の材料になります。営業データがサービス開発データへ変わります。

7.具体的な改善策⑤――月1回15分だけ営業データを見る

新しい長時間会議は作りません。管理者会議の15分だけ使います。今月の問い合わせ数、紹介元、見学数、利用開始数、利用に至らなかった主な理由、未対応案件を見るだけです。そして一つだけ、「この数字から来月何を変えるか」を決めます。

例えば、「木曜の空きを相談支援事業所へ伝える」「送迎エリアの問い合わせが多い地域を再検討する」などです。

8.売上への効果――広告費を増やす前に「紹介率」を上げる

モデル事例では年間問い合わせが30件。そのうち本利用が6件だったとします。問い合わせから利用開始率20%です。情報管理とサービス改善によって、利用者本人の希望と事業所機能が合うケースについて利用開始までの連携が円滑になり、8件が本利用になったと仮定します。

2名増です。それぞれ週3日利用、1利用日当たり12,000円と仮定すると、2名×週3日×4週×12,000円で月額288,000円。年間単純換算では約346万円です。80万円のホームページ改修が不要という意味ではありません。

ホームページは重要です。しかし投資する前に、「現在どこから利用者が来ているのか」を知ることが先です。

※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算は障害支援区分や利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。問い合わせ情報の取扱いは、個人情報保護法や法人の規程に沿って行ってください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。

9.改善結果――「営業した件数」ではなく「地域のニーズ」が見えるようになった

改善前は、「今月パンフレットを50部配りました」が営業報告でした。改善後は、「今月問い合わせ5件。うち3件が水木希望。2件は送迎条件が課題。1件は来月利用開始予定」と報告できるようになりました。これは大きな違いです。パンフレット50部は活動量です。問い合わせ内容は市場情報です。経営判断に使えるのは後者です。

10.コンサルタントの視点――ICT化とは紙をパソコンに変えることではない

障害福祉施設のICT化では、電子記録、勤怠、請求、シフトなどが注目されます。しかしICTの価値は、これまで見えなかった情報を経営判断に使えるようにすることにもあります。問い合わせ情報を紙からExcel等へ変えただけなら、単なる電子化です。

そこから、どこから相談が来ているか、何を求められているか、なぜ利用につながらないかまで分析して初めて、経営ICTになります。

11.今回のテーマに特化した実践アドバイス

過去1年間に利用開始した人について、まず「誰から紹介されたか」を調べてください。次に今後3か月だけ、すべての問い合わせ経路を記録します。高価なシステムは後で構いません。データが10件、20件と集まってから、「何を改善すれば利用者のニーズに応えられるか」を考えます。

営業担当者の訪問件数をKPIにする前に、問い合わせの発生経路をKPIにしてください。

ICT・営業改善チェックリスト

  • 年間問い合わせ件数を把握している。
  • 紹介元を記録している。
  • ホームページ経由件数を把握している。
  • 家族口コミ等の経路も把握している。
  • 問い合わせから見学への移行を把握している。
  • 見学から利用開始への移行を把握している。
  • 利用に至らなかった理由を記録している。
  • 未対応案件が分かる。
  • 次の担当者が明確である。
  • 個人情報を必要以上に保存していない。
  • アクセス権限を管理している。
  • 紹介数だけで関係機関を評価していない。
  • 営業データをサービス改善へ使っている。
  • 広告投資前に現在の流入経路を確認している。
  • 月1回はデータを経営会議で確認している。

12.まとめ――新規利用者を増やす前に「なぜ今の利用者が来たのか」を知る

利用者を増やしたい。すると、ホームページ、SNS、パンフレット、営業訪問、広告を考えます。もちろん、どれも選択肢です。しかし、その前に一つ調べてください。現在利用している人たちは、どうやってこの施設を知ったのでしょうか。

そこに事業所の本当の集客力が隠れています。さらに、利用に至らなかった相談にも重要な情報があります。送迎が足りない、曜日が合わない、支援機能が足りない、情報提供が遅い。こうした声を蓄積すると、次に何へ投資すべきかが見えてきます。

ICTは、そのための道具です。紙をなくすことがICT化のゴールではありません。現場で毎日起きていることを「経営に使える情報」へ変える。そこまでできたとき、障害福祉施設のICTは初めて売上改善の武器になります。

相談支援事業所との連携を見直した例は 相談支援事業所との連携で利用者紹介が倍増、見学から契約までの流れを見直した例は 見学は来るのに、なぜ契約につながらないのか、空きがあるのに利用開始につながらない原因の解説は 空きがあるのに利用につながらない、送迎範囲で断っていた問い合わせを見直した例は 「送迎できません」で断っていた問い合わせを売上に変える、曜日別の空き枠を数えた例は 定員は埋まっているように見えるのに、なぜ売上が伸びないのか もあわせてご覧ください。

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