空きがあるのに利用につながらない|問い合わせから利用開始までを5段階に分けて、止まっている場所を見つける
稼働率が下がると、「相談支援事業所へ営業に行こう」「パンフレットを配ろう」「ホームページを充実させよう」という話になりがちです。施設を知ってもらう活動はもちろん必要です。
ただ、実際に調べてみると問い合わせ自体は決して少なくないという事業所があります。問い合わせはある。見学にも来る。ところが体験利用や正式な利用まで進まない。それでも「利用者が増えない=営業不足」と受け止めてしまう——この記事では、そうした状態を分解して見る方法を整理します。
※ 本記事は、障害福祉の現場で起こり得る複数の課題をもとに再構成したモデル事例です。特定の施設・法人の実績を示すものではなく、記載の数値は改善の考え方を分かりやすくするための想定値です。取り組みの効果は事業所の規模・地域・サービス種別によって異なり、同様の成果を保証するものではありません。
「問い合わせが少ない」——本当にそうでしょうか
想定するのは定員20名の障害福祉サービス事業所です。月平均の稼働率は約78%。できれば90%前後まで引き上げたい状態でした。
管理者にうかがうと「問い合わせが少ないんです」という答えでした。ところが過去3か月の電話記録と見学記録を確認すると、新規の問い合わせは一定数あったのです。
問題はその後でした。「相談支援専門員から電話があった」「ご家族が見学に来た」という記録は残っています。しかし——
- その方はその後どうなったのか
- 体験利用へ進んだのか
- 利用しなかったのであれば、理由は何だったのか
ここまでは整理されていませんでした。施設側の記憶では「条件が合わなかったのではないか」「他の施設に決まったのだと思う」という程度です。つまり利用者が増えない原因が分からないまま、営業活動だけを増やそうとしていた状態でした。
稼働率ではなく「どこで止まっているか」を見る
新規の方が利用を開始するまでを、5つの段階に分けます。
① 問い合わせ → ② 見学 → ③ 体験利用 → ④ 契約 → ⑤ 利用開始
この事業所では「問い合わせから見学」までは比較的進んでいる一方、見学から体験利用へ進む割合が低いことが分かりました。たとえば、ある期間の数字が「問い合わせ10件・見学8件・体験利用3件・契約2件」だったとすれば、課題は見学から体験利用への移行にある可能性が高い、という読み方です(数字は説明のための想定です)。
ここが肝心なところです。段階ごとに、打つべき手がまったく違います。
- 問い合わせ自体が少ないなら、営業・広報の強化が必要です
- 問い合わせはあるのに見学へ来ないなら、電話対応や見学予約の方法に原因があるかもしれません
- 見学には来るのに体験へ進まないなら、見学の内容や説明の仕方を見直す必要があります
- 体験までは進むのに契約しないなら、支援内容やご本人との適合性を検討することになります
稼働率という一つの数字だけでは、どこを改善すればよいのか分かりません。
まず「新規利用者管理表」を一枚だけ作る
複雑な営業管理システムは要りません。一枚の表で足ります。記録するのは次の項目です。
- 問い合わせ日/ご本人の概要/紹介元/希望曜日
- 見学日/体験利用日/契約の有無/利用開始日
- 利用に至らなかった場合の理由
個人情報の取り扱いには十分に配慮したうえで、管理者が進捗を確認できる形にします。これだけで「先週見学された方はどうなった?」がすぐ分かるようになります。
3か月ほどデータが溜まると、「問い合わせはあるが見学につながっていない」「見学後の離脱が多い」といった、その事業所固有の課題が見えてきます。
「利用に至らなかった理由」を分類して残す
この取り組みでもっとも効くのがここです。利用につながらなかったケースを「縁がなかった」で終わらせない。理由を分類して記録します。
- 希望曜日に空きがない
- 送迎範囲外
- 医療的な対応が難しい
- 活動内容が希望と合わない
- 他の施設に決定
- 他の施設のほうがご本人に合っていた
- ご本人が利用を希望しなかった
- ご本人が環境になじめなかった
- ご家族の希望と合わなかった
- 理由不明
このデータは経営判断に直結します。「送迎範囲外」が多ければ送迎ルートの再設計を検討できます。「希望曜日に空きがない」が多ければ曜日別の稼働を見直せます。「活動内容が合わない」が多ければ、プログラムそのものの改善材料になります。
契約にならなかったケースも、経営改善の情報です。これを捨ててしまうと、毎回ゼロから原因を推測することになります。
▶ 「希望曜日に空きがない」が積み上がったときの打ち手——曜日ごとの利用者数と職員配置のずれを見つける方法は 「赤字曜日」を見つける|月次損益では見えない収支のずれを曜日別に分解する で解説しています。
施設は「空きを埋めたい」、ご本人は「生活を良くしたい」
見学のあり方を見直す前に、施設と利用を考えている方との視点のずれを確認しておきます。
施設側には稼働率という経営課題があります。そのため見学の方が来ると、「火曜日と木曜日なら空きがあります」「週3日利用できます」と、つい空き状況から説明したくなります。
しかしご本人・ご家族が事業所を探し始めた背景は、一人ひとり違います。
- いまの事業所では午後になると疲れてしまう
- 学校を卒業したあと、日中を過ごせる場所を探している
- 家にいる時間が増え、生活のリズムが崩れてきた
- 集団活動が苦手なので、少人数で過ごせる場所を探している
- 家族の介護の負担が大きくなってきた
探しているのは「空いている施設」ではなく、自分たちの生活の課題に合うサービスです。このずれに気づかないまま見学を重ねても、利用にはつながりにくくなります。
見学を「施設説明」から「利用後の生活を想像する時間」へ
まず、いまの見学を振り返ってみてください。確認のしかたは二つあります。
- 見学の時間のうち、施設側が話している時間はどれくらいか。40分の見学のうち30分以上を施設の説明に使い、ご本人・ご家族に聞いたのは「何曜日を希望されますか」「送迎は必要ですか」といった利用条件だけ——ということは珍しくありません。
- 見学が終わったあと、案内した職員に「今日の方は、なぜ新しい事業所を探していたのですか」と聞いてみる。ていねいに説明したのに答えられないなら、施設のことは伝えても、ご本人のことを理解しないまま見学が終わっています。
従来の見学は、「こちらが食堂です」「ここで作業をします」「送迎車は3台あります」「職員は◯名です」と、設備の説明が中心になりがちです。
しかしご本人・ご家族が知りたいのは建物のことではありません。「ここへ通ったら、どんな一日を過ごすのか」です。
そこで順番を変えます。まずご本人・ご家族から次のことをうかがいます。
- 今回、事業所を探そうと思われたきっかけ
- いまの一日の過ごし方と、困っていること
- ご本人が好きなこと・得意なこと
- 反対に、苦手な環境(人の多さ、音、場面の切り替えなど)
- これまでのサービス利用で困ったこと
- 新しい事業所で、どんな生活になればよいと思われるか
ここで聞くのは営業のための情報ではありません。ご本人がサービスを使うことで、どんな生活を目指しているのかを理解するための質問です。
そのうえで「その課題であれば、当施設ではこういう支援ができます」と説明する。施設の説明から、ご本人を中心とした利用イメージの共有へ変えるということです。
施設の特徴を全部説明しない——聞いたことに合わせて説明を絞る
見学のたびに、全員へ同じ説明をしていないでしょうか。最初に聞いたご本人の状況に合わせて、説明する内容を変えます。
- 「大人数が苦手」という方には……少人数で過ごせる場所や、静かに休めるスペースを案内する
- 「体力的に一日利用できるか不安」という方には……利用時間の組み方や休憩のとり方を説明する
- 「家族の送迎の負担が大きい」という場合は……送迎できる範囲と時間を具体的に確認する
施設が持っているサービスを全部並べるのではなく、ご本人の課題に関係するところを重点的に伝えます。
あわせて、「空きがあります」を最初の魅力として伝えないことも意識してください。空きがあることは利用の条件にすぎません。ご本人・ご家族が知りたいのは「ここなら自分に合った生活ができるか」です。
見学の最後に「次の一歩」を決める
見学の終わりに「ご検討ください」「何かあればご連絡ください」と送り出すと、ご本人・ご家族の側から改めて連絡しなければ話が進みません。
押しつけにならないことを前提に、具体的な選択肢を提示します。「もしよろしければ、次は半日だけ体験してみませんか」「◯曜日でしたら実際の活動をご覧いただけます」「相談支援専門員さんも交えて一緒に考えましょうか」「気になっていた活動の日に、もう一度見学してみますか」。ご本人・ご家族の希望に合わせて選べる形にします。
その場で契約を迫るということではありません。見学のゴールを「説明が終わること」から「次の判断ができる状態になること」へ変えるという意味です。
体験利用では「特別なおもてなし」をしない
体験利用の日だけ職員を増やしたり、特別なプログラムを用意したりすると、正式な利用が始まったあとにギャップが生まれます。「聞いていた話と違う」という早期の利用終了につながりかねません。
そこで体験利用では、可能なかぎり通常の一日を経験していただきます。通常の送迎、通常の活動、通常の昼食、通常の休憩、通常の職員配置。
そのなかで「この環境でご本人が過ごせそうか」「施設側が必要な支援を提供できそうか」を双方で確認します。体験利用は営業イベントではなく、適合性を確認する機会だと位置づけておくことが、結果的に長く通っていただくことにつながります。
契約率だけでなく「適合率」を見る——合わないときは、ほかの選択肢へつなぐ
稼働率が低いと、施設には焦りが生まれます。空いている曜日を埋めたい、早く契約してほしい、問い合わせを逃したくない。その焦りが強くなるほど、ご本人・ご家族とのミスマッチは起こりやすくなります。無理に利用開始へつなげても、「思っていたサービスと違った」となれば短期間で利用終了になりかねず、ご本人にも施設にも良い結果になりません。
だからこそ、契約に至った割合だけでなく、ご本人のニーズと施設の支援が合っていたか(適合)を見てください。自施設では対応が難しいニーズであれば、相談支援専門員と連携して、ほかの事業所や社会資源につなぐ。それも福祉事業所として大切な役割です。
その姿勢は相談支援事業所や地域からの信頼につながり、長い目で見れば「あの事業所なら合う方を紹介できる」と思ってもらえる施設づくりにもつながります。紹介元との関係づくりの実例は 相談支援事業所との連携で利用者紹介が倍増 をご覧ください。
稼働率は「営業数字」ではなく「選ばれている結果」
稼働率の低下には、さまざまな原因があります。問い合わせが少ない/対応が遅い/見学につながらない/見学の内容に魅力がない/体験への導線がない/ご本人との適合性が低い/利用開始後に欠席が多い/短期間で利用終了している——これらをすべて「営業不足」として扱うと、問題を見誤ります。
とくに押さえておきたいのが、稼働率=新規利用者数ではないということです。新しい方を5名迎えても、既存の方が5名終了すれば稼働率は変わりません。利用終了を1名防ぐことは、新規を1名獲得することと、稼働率の上では同じ意味を持ちます。
本来は「新規の利用」「利用の定着」「欠席への対策」を一体として考える必要があります。稼働率は営業活動の結果だけでなく、支援の質、家族対応、職員体制、送迎、活動内容、医療連携といった施設全体の状態が数字に表れたものです。
▶ 出席率・退所理由・新規の入り口・見学後の入所率・地域での認知度という5つの視点で空きの原因を分解し、2年かけて定員に近づけた実例は 「場所が悪い」で止まっていた生活介護が定員に近づくまでの2年、利用開始後に定着していただくための受け入れ体制は 新規利用者が3か月で退所していた施設|受け入れ体制で定着率を改善、紹介元との関係づくりは 相談支援事業所との連携で利用者紹介が倍増 をご覧ください。
実践のポイント
- ① 「問い合わせ件数」だけを数えない……問い合わせ→見学→体験→契約→利用開始まで追い、どこで人数が減っているかを見ます
- ② 見学者への最初の質問を決めておく……説明を始める前に「今回、どのようなことで利用先を探されていますか」と聞くだけで、話す内容が変わります
- ③ 見学後24時間以内に記録する……数日経つと「なぜ利用につながらなかったのか」という肝心な情報を忘れてしまいます
- ④ 曜日別の稼働率を見る……月平均90%でも月曜100%・金曜75%ということがあります。「満員です」と一括りに断らず、空いている曜日を提案できる体制にします
- ⑤ 利用終了者も分析する……新規ばかり追わず、なぜ利用が終了したのかも確認します
- ⑥ 「空きがあります」を最初の魅力にしない……空きは利用の条件にすぎません。先に聞いたご本人の課題に合わせて、関係するところから説明します
- ⑦ 見学のあと、案内した職員に「なぜ探していたか」を聞く……答えられなければ、見学が施設の説明だけで終わっています
- ⑧ 利用につながらなかった理由を会議で見る……会議の報告を「今月は見学が4件」で終わらせず、「見学のあとに止まった2件はなぜか」まで振り返ります
稼働率改善チェックリスト
- □ 月間の稼働率を把握している
- □ 曜日別の稼働率を把握している
- □ 新規の問い合わせ件数を記録している
- □ 問い合わせから見学へ進んだ割合を把握している
- □ 見学から体験利用へ進んだ割合を把握している
- □ 体験利用から契約へ進んだ割合を把握している
- □ 利用に至らなかった理由を記録している
- □ 見学時にご本人・ご家族の困りごとを聞いている
- □ 見学の時間の大半を、施設側の説明に使っていない
- □ 見学の方全員に同じ説明をしていない
- □ 自施設と合わない場合に、ほかの選択肢も尊重している
- □ 利用終了者の終了理由を分析している
- □ 新規の獲得だけでなく、既存の方の定着も確認している
まとめ——「利用者を増やす」より先に「どこで止まっているか」を見る
稼働率が低いと、つい「もっと営業しよう」「もっと問い合わせを増やそう」と考えます。しかし、すでに問い合わせがある事業所なら、その前に確認できることがあります。
その方は見学へ来たのか。見学のあと、体験利用をしたのか。なぜ契約に至らなかったのか。利用開始後、続けて通えているのか。
一人の方が施設を知り、見学し、体験し、利用を始め、安心して通い続けるまでには、いくつもの接点があります。その一つひとつを改善することが、結果として稼働率を高めます。
そしてもっとも大切なのは、稼働率100%そのものを目的にしないことです。ご本人に合わない施設へ無理に利用をお勧めしても、長く通うことにはつながりません。ご本人・ご家族の希望と、施設が提供できる支援が合っているかを丁寧に確認したうえで、利用開始までの障壁を取り除いていく。それが持続的な稼働率の改善につながります。
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