利用希望者はいるのに、職員不足で受け入れられない|「採用人数」ではなく入職90日後の定着率を改善し、月商48万円の受入余力を生み出した障害福祉施設
※本記事は障害福祉施設で起こり得る複数の課題をもとに構成した架空のモデル事例です。特定施設の実績ではありません。人数・金額・改善結果は改善方法を説明するための想定値です。
はじめに――利用者募集より先に解決すべき「売上のボトルネック」
定員20名の生活介護事業所。問い合わせはあります。相談支援専門員からも、「利用を検討している方がいます」という連絡が入ります。それなのに管理者は、「今は受け入れが難しいです」と答えていました。定員に達しているからではありません。職員が足りないからです。
そこで法人は求人広告を出しました。応募があり、採用もできました。「これで利用者を受け入れられる」と思った矢先、採用した職員が2か月で退職。再び求人を出す。また採用する。今度は3か月で退職する。気がつけば、「採用、教育、退職、再募集」を繰り返していました。
経営者は「採用難」が原因だと思っていました。しかし分析すると、本当の問題は採用数ではありませんでした。採用した職員が戦力になる前に辞めていたことだったのです。
1.改善前の状況――求人費を使っているのに受入人数が増えない
このモデル事業所では、半年間に4名を採用したとします。一見すると採用活動は成功しています。ところが半年後に残っていたのは2名。しかも新人が退職するたびに既存職員へ負担がかかり、「また新人に教えるのですか」という声まで出ていました。
利用者の新規受け入れも慎重になります。結果として、利用相談があるにもかかわらず、平均実利用人数は16から17名程度にとどまっていました。経営会議では、「もっと求人を出そう」という話ばかりが続いていました。
2.原因分析――退職理由を「本人に合わなかった」で終わらせていた
退職した新人について聞くと、「福祉の仕事が合わなかったようです」「思っていた仕事と違ったのでしょう」という説明でした。しかし入職後の経過を確認すると、共通点がありました。
第一に、入職初日から覚えることが多すぎました。利用者20名の名前、障害特性、送迎、食事、排泄、記録、活動、事故対応。新人は短期間で大量の情報を覚えることを求められていました。
第二に、教える人によって言うことが違いました。A職員は、「そこまで介助してください」。B職員は、「本人にやってもらってください」と言います。新人は、「何が正しいのか分からない」状態になっていました。
第三に、一人で支援できる時期が曖昧でした。入職から何日経ったら単独で支援するのか、明確な基準がありません。「そろそろ慣れたでしょう」という感覚で任されていました。
第四に、困っていることを聞く機会がありませんでした。面談は試用期間終了時だけ。新人が辞めたいと思い始めてから、初めて管理者が気づいていました。
3.具体的な改善策①――「90日新人育成表」を作る
改善の第一歩は求人広告ではありませんでした。入職後90日間の育成を設計することです。
例えば、1週目は利用者の名前、安全管理、施設の基本ルールを覚える。2から4週目は先輩職員と一緒に基本支援を行う。30日目にできる業務、まだ不安な業務を確認する。31から60日は担当できる支援を段階的に増やす。60日目に利用者理解と支援方法を確認する。61から90日は独力で担当できる業務と、引き続き支援が必要な業務を明確にする、という流れです。
重要なのは、「3か月たったから一人前」ではなく、「できることを確認してから任せる」ことです。
4.具体的な改善策②――教育担当を一人決める
新人が複数の先輩から違う指示を受ける問題を解消するため、教育担当者を決めました。もちろん、すべての業務を一人で教えるわけではありません。しかし、「困ったときに最初に相談する人」を明確にします。
さらに、先輩によって支援方法が違った場合には、「新人が判断する」のではなく、「チームで支援方法を統一する」ルールにしました。
新人教育をすると、実は既存職員の支援方法のばらつきまで見えてきます。新人が混乱している施設では、利用者も職員によって違う支援を受けている可能性があります。
5.具体的な改善策③――1日・7日・30日・60日・90日で短時間面談する
退職届が出てから面談しても遅い場合があります。そこで短時間でも、入職初日、7日目、30日目、60日目、90日目を目安に状況を確認します。
質問は、「仕事はどうですか?」だけではありません。「今、一番分からない業務は何ですか」「一人で任されると不安な支援はありますか」「教える人によって違うことを言われていませんか」「人間関係で話しにくいことはありますか」など具体的に聞きます。
早期離職対策とは、辞めそうな職員を説得することではありません。辞めたいと思う前に、仕事上の障壁を発見することです。
6.具体的な改善策④――新人に最初から全利用者を覚えさせない
20名全員の支援を同時に覚える方式をやめました。最初は3から5名。次に別の利用者、というように段階的に広げます。
利用者ごとに、本人ができること、必要な支援、コミュニケーション方法、注意すべきこと、本人の好きなことを簡潔に整理しました。これによって新人は「障害名」ではなく、一人の利用者として理解することができます。
7.具体的な改善策⑤――採用KPIを「応募数」から「90日定着」まで見る
以前の採用会議では、応募5名、面接3名、採用2名で「今月は採用できた」と評価していました。これを変更します。応募数、面接数、採用数、入職数、30日定着数、90日定着数、半年定着数まで追います。
採用しても1か月で退職すれば、受入体制の安定にはつながりません。採用のゴールを「入職日」から「定着して戦力化するところ」へ移したのです。
8.売上への効果――職員が定着すると「受け入れられる利用者」が増える
モデルケースでは、新人2名が安定して勤務できるようになったことで、安全な支援体制を確認したうえで、これまで保留していた新規利用者1名を週5日受け入れられるようになったとします。
説明を簡単にするため、1利用日当たりの事業所収入を仮に12,000円とします。1名×週5日×4週間×12,000円で月額240,000円。さらにもう1名を週5日受け入れられれば、月額480,000円の増収余地になります。年間単純換算では576万円です。
もちろん実際には報酬区分、加算、欠席、営業日、人件費などで変わります。また、職員を増やした以上、人件費も増えています。したがって「576万円増収イコール576万円利益」ではありません。
重要なのは、採用費だけをコストと考えず、離職によって失っている受入可能売上まで見ることです。
※上記はモデル事例としての想定です。1利用日当たり12,000円は説明用の仮の金額で、実際の報酬・加算は障害支援区分や利用定員、地域、算定する加算などによって異なります。受け入れ人数は、人員配置基準と安全な支援体制を満たす範囲で判断してください。最新の告示と所管の行政窓口で必ず確認してください。施設の状況によって結果は異なり、同様の成果を保証するものではありません。
9.改善結果――「人が辞めたら採用する」から「辞めにくい施設をつくる」へ
モデル事例では、採用者の90日以内離職が減少し、新人教育に費やしていた既存職員の負担も軽減したと想定します。そして利用者受け入れを再開できました。
管理者の考え方も変わります。以前は、「応募が少ない」が採用問題でした。改善後は、「採用した人が働き続けられる仕組みになっているか」を確認します。採用活動と売上が初めてつながったのです。
10.コンサルタントの視点――職員定着率は「人事指標」であると同時に「売上指標」
障害福祉施設では、人材採用と経営を別々に考えがちです。しかし、利用希望者がいても支援する職員がいなければ売上にはなりません。逆に職員が安定すれば、受入体制を整えやすくなります。
だから、採用人数だけではなく、「一人の職員が定着すると、どれだけの利用者を安全に支援できるようになるのか」という視点で人材戦略を見ることが重要だと考えます。
ただし、売上のために無理に受入人数を増やしてはいけません。必要な配置、安全性、支援品質を確保できることが大前提です。
11.実践アドバイス
新人教育では「何を教えたか」ではなく、「何を一人でできるようになったか」を管理してください。新人が辞めた場合も「合わなかった」で終わらせず、入職何日目に何が起きたのかを確認します。
さらに採用会議では応募数と採用数だけでなく、30日・90日・半年後の定着人数を並べます。退職者が続く部署があれば、採用広告を増やす前に、その部署の教育担当者、業務負担、人間関係、管理者のマネジメントを点検することが重要です。
採用・定着と売上改善チェックリスト
- 採用者の30日・90日・半年定着率を把握している。
- 入職90日までの育成計画がある。
- 新人ごとの教育担当者が決まっている。
- 一人で任せる業務の基準がある。
- 新人へ最初から全利用者を任せていない。
- 7日・30日・60日・90日前後に状況確認をしている。
- 退職理由を「本人都合」だけで終了していない。
- 教える職員による支援方法の違いを放置していない。
- 職員不足によって断った利用相談件数を把握している。
- 職員定着によって増やせる受入人数を把握している。
- 増収額だけでなく追加人件費も計算している。
12.まとめ――求人広告より先に「90日間」を改善する
採用できない、だから求人広告を増やす、それでも職員が足りない。この循環に入っている施設では、一度採用活動を「入職後」まで延長して考えてみる必要があります。
10人応募しても、入職者が定着しなければ受入体制は安定しません。逆に、採用した人が安心して成長できる施設になれば、人材確保と利用者受け入れの両方が安定します。
採用は人事の問題ではありません。施設がどれだけ利用者を受け入れ、質の高いサービスを継続できるかを左右する経営課題です。
次の採用会議では「今月何人応募したか」だけでなく、「半年前に採用した職員は、今何人残っているか」を確認してみてください。そこから、本当の採用改善が始まります。
入職からの90日を30・60・90日で区切って設計し直した例は 入職後3か月以内に辞める職員が多かった施設、新人教育の中身(到達目標・教育担当・面談)を整理した解説は 新人職員が辞めなくなった教育の仕組み、応募から入職までの離脱を分解する方法は 応募はあるのに採用できない、先輩によって支援方法が違う問題は 職員によって支援が違う、すでに提供した支援を売上につなぐ請求の点検は サービスは提供したのに、請求できていなかった もあわせてご覧ください。
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