離職率が高い障害福祉施設に共通する3つの職場環境
——データと現場経験から見えてくること
「また辞めてしまった」「求人を出しても来ない」——障害福祉の現場で、この言葉を聞かない日はありません。
採用の難しさは全職種共通の課題ですが、「定着しない」という問題は、採用より深刻です。せっかく採用しても3か月・半年で辞められてしまう。その繰り返しが、サービスの質を下げ、残った職員をさらに追い詰めていきます。
では、離職率が高い施設には何か共通点があるのでしょうか。介護労働安定センターの調査データと、20年の施設運営・複数法人のコンサル経験から見えてきた「3つの共通点」をお伝えします。
まず、データで現状を確認する
介護労働安定センター「介護労働実態調査」(2023年度)によれば、介護・福祉分野の訪問介護の離職率は約17.0%、施設介護員は約14.5%で推移しています。障害福祉分野も同様の傾向にあり、全産業平均(約15%前後)と比較しても、依然として高い水準にあります。
離職に関する主な理由(介護労働安定センター調査より上位抜粋)
- 職場の人間関係に問題があったため
- 法人・施設の理念・運営方針への不満
- 仕事内容のわりに賃金が低かったため
- 上司・管理者とのコミュニケーションがうまくとれなかったため
- 身体的・精神的につらかったため
※ 給与よりも「職場環境・人間関係・マネジメント」が上位を占める点に注目してください。
注目すべきは、「給与が低いから辞める」という理由が3位であることです。多くの経営者が「うちは給料が安いから仕方ない」と諦めがちですが、実際には職場環境やマネジメントの問題が離職の大きな要因になっています。つまり、給与を上げる前に改善できることがある、ということです。
共通点1:管理者が「管理」しか行っていない
離職率が高い施設の管理者に共通するのは、「マネジメント」を「管理・監視」と捉えていることです。シフトを組む、記録を確認する、ミスを指摘する。それ自体は必要な業務ですが、それだけでは「管理」であって「マネジメント」ではありません。
職員が職場に定着するかどうかは、「この職場で成長できるか」「自分が認められているか」という感覚に大きく左右されます。それを育てるのが本来のマネジメントです。
【よく見られるパターン】
- ミスをした時だけ声をかけ、うまくできた時は無反応
- 職員の「話したい」サインに気づかない、または後回しにする
- 「背中を見て覚えろ」的なOJTで、育成の設計がない
- 管理者自身が現場に入り続け、マネジメントの時間が取れていない
改善の第一歩として有効なのは、月1回・15〜30分の「1on1面談」の定期実施です。業務の話だけでなく、職員の感じていることを聞く時間をつくるだけで、離職の予兆を早期にキャッチできるようになります。「そんな時間はない」という声をよく聞きますが、1人が辞めた後の採用コスト・引き継ぎ負担を考えれば、月30分は十分に引き合います。
共通点2:「なぜこの仕事をするのか」が共有されていない
離職理由の2位が「法人・施設の理念・運営方針への不満」であることを、多くの経営者は軽く見ています。「理念なんて額縁に掲げてあるだけ」——そんな施設では、職員は「ただ仕事をしている人」になりがちです。日々の支援の意味を感じられない職員が、辛い局面を乗り越えるのは簡単ではありません。
障害福祉の仕事は、決して楽ではありません。利用者の変化がゆっくりで、成果が見えにくい。それでも続けられる職員は、「なぜこの仕事をするのか」という自分なりの答えを持っています。
【定着している職員が語ること(コンサル先でのヒアリングより)】
- 「施設長が、利用者の小さな変化を一緒に喜んでくれる」
- 「何のためにこの支援をするのか、会議で必ず話し合う時間がある」
- 「自分がやっていることは意味があると、定期的に感じられる」
理念の共有は、朝礼での唱和ではなく、日常の会話の中に宿ります。「今日の支援でよかったこと」を短く共有する文化をつくるだけで、職場の空気は変わっていきます。
共通点3:「困ったときに相談できない」雰囲気がある
3つ目は、最も見えにくい問題です。「うちはオープンな職場だ」と思っている管理者の施設でも、実態は「相談しにくい」ということは珍しくありません。管理者が忙しそう、以前相談したら「それくらい自分で考えて」と言われた、という経験が積み重なると、職員は黙って抱え込むようになります。
そして、抱え込んだ職員は、ある日突然辞めてしまうことがあります。「辞表を出されて初めて深刻さを知った」という経営者の話を、私は何度も聞いてきました。
「相談できない」職場に共通するサイン
- ヒヤリハット報告が極端に少ない(問題が隠れている可能性)
- 会議で発言するのがいつも同じ人だけ
- 管理者への報告が「良いことだけ」に偏っている
- 退職の申し出が突然で、理由が「一身上の都合」のみ
- 新人が孤立していても誰も気づかない、または気づいても声をかけない
改善には、「相談したら損をしない」という実績の積み重ねが必要です。誰かが相談した時に、管理者が丁寧に向き合う姿を他の職員が見ている。その積み重ねが、職場の心理的安全性を高めていきます。また、ヒヤリハット報告を「責める材料」ではなく「みんなで学ぶ材料」として扱う文化も、相談しやすい職場づくりに直結します。
まとめ——給与の前に、できることがある
離職率が高い施設に共通する3つの職場環境を整理します。
| # | 共通する職場環境 | すぐできる改善策 |
|---|---|---|
| 1 | 管理者が「管理」しか行っていない | 月1回・15分の1on1面談を仕組みとして導入する |
| 2 | 「なぜこの仕事をするのか」が共有されていない | 日常の会話の中で支援の意味を一緒に語る時間をつくる |
| 3 | 「困ったときに相談できない」雰囲気がある | ヒヤリハットを責めず、学ぶ材料として扱う文化に変える |
「うちの職場はどれに当てはまるだろう」——そう感じた方は、すでに改善の第一歩にいます。離職の問題は、給与だけでは解決しません。しかし、職場環境の改善は、お金をかけずに今日から始めることができます。
20年間、私自身も試行錯誤を繰り返してきました。「正解はこれだ」と言い切れるものはありませんが、「これをやったら変わった」という実感を持てるものは確かにあります。その知見を、ぜひ御法人の現場でも活かしていただければ幸いです。
実際に職場環境の改善で離職を減らしたグループホームの取り組みは、改善事例:グループホームの職員はなぜすぐ辞めるのかでご紹介しています。人材の採用・定着・育成のご支援はサービス内容もあわせてご覧ください。
「採用してもすぐ辞めてしまう」「職場の雰囲気を変えたい」といったお悩みは、お気軽にご相談ください。初回相談は無料です。

