グループホームを追加開設して黒字化するまでの1年|入居率33%・月44万円の赤字から満室へ
——開設直後の「空室・赤字・人手不足」をどう乗り越えたか
【エビデンスと予測の区別について】
・登場する人物・法人は架空です(実際のコンサル支援先を参考に加工)。
・収支・入居率・加算の増収額は、定員規模・物件コスト・地域の需給・職員体制によって大きく異なる参考値です。
・加算の要件・区分は報酬改定および自治体の運用によって異なります。本文では区分名と要件の枠組みまでを扱い、単位数・加算率には触れていません。
・「開設前からの準備が初年度の収支を左右する」という記述は本事例の観察に基づきます。
問題発生——開設3か月で「やるんじゃなかった」と思った
「こんなに大変だとは思っていませんでした。開設から3か月で、正直『やるんじゃなかった』と思いました」——生活介護事業所を母体に、グループホーム(定員6名)を新規開設した法人の理事長の言葉です。
この法人は、既存の生活介護事業所(定員20名・経営は安定)の実績を土台に、利用者の地域生活を支えるためにグループホームの開設を決めました。物件探し・内装工事・行政への指定申請と準備を重ね、開設にこぎつけたのは4月でした。
しかし開設直後から、想定外の問題が次々に起こります。「計画では開設と同時に6名満室のつもりでした。でも実際に入居が決まったのは2名だけでした」。
開設直後の状況(3か月目・参考値)
- 入居者数:2名(定員6名・入居率33%)
- 月間収益:約34万円
- 月間支出:人件費 約52万円/家賃 約18万円/光熱費等 約8万円=合計 約78万円
- 月間収支:△約44万円(赤字)
- 世話人の採用:1名は採用できたが、もう1名が見つからず管理者が兼務
- 入居候補者からの問い合わせ:開設後3か月でゼロ
収入が支出の半分以下。このままでは法人全体の経営を圧迫する——採用・入居者確保・運営の三つが同時に問題になっていました。
【理事長の言葉(3か月目)】
「生活介護はうまくいっていた。だからグループホームも同じようにできると思っていました。でもグループホームは24時間の生活支援で、まったく別のサービスでした。準備が足りませんでした」
原因分析——「計画の甘さ」を生んだ3つの盲点
盲点①:入居者の確保を「開設後に動く」計画にしていた
最大の誤算は、入居者の確保を「開設してから相談支援専門員に知らせる」段取りにしていたことでした。グループホームの入居は、本人・家族・相談支援専門員・行政の調整を経て決まるため、話が動き出してから入居に至るまでに相応の時間がかかります(筆者推測:支援現場での観察に基づくもので、期間は地域・本人の状況によって大きく異なります)。
開設時点で入居者を揃えるには、開設のかなり前から動き始める必要があります。「開設してから案内すればいい」という認識が、そのまま開設直後の空室という結果になりました。
盲点②:収支構造を「生活介護と同じ」だと思っていた
生活介護は日中の通所サービスで、職員配置も日中が中心です。一方グループホームは24時間の居住支援であり、夜間の支援体制にかかる人件費・家賃・光熱費が固定費として毎月出ていきます。
この法人は「定員6名が満室になれば黒字になる」という計算はしていましたが、開設後しばらく空室が続いた場合のキャッシュフローを試算していませんでした。新規事業でいちばん効くのは、うまくいった場合の数字ではなく、埋まらなかった場合に何か月耐えられるかの数字です。
盲点③:世話人の採用が「開設直前」になっていた
世話人の採用活動を開設の1か月前から始めたため、開設時点で人員が揃いませんでした。世話人は特定の資格が要件とされていないぶん未経験からでも就ける職種ですが、それだけに求人が埋まりやすいとは限りません。
「採用は早く始めるほどいい。でも開設前に世話人を採用しても業務がない、という感覚があって直前になってしまいました」(理事長)。
立て直しの記録——1年間で何をやったか
| 時期 | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 開設前 | 準備期 | 【反省点】入居者確保・採用を、開設の数か月前から動き始めるべきだった |
| 1〜3か月目 | 緊急対応 | 相談支援事業所10か所へ個別訪問。空室状況と受け入れ可能な利用者像を説明 |
| 2か月目 | 採用強化 | ハローワークに加え、地域の求職層に届く媒体で世話人を募集。3名採用 |
| 3〜4か月目 | 入居促進 | 体験入居(1週間)の制度を設け、入居前の不安を解消 |
| 4か月目 | 加算整備 | 夜間支援等体制加算の要件を整理して届出。月間の収益が増加 |
| 5か月目 | 5名入居 | 相談支援専門員経由で3名の新規入居。入居率83%に |
| 6か月目 | 収支改善 | 月間収支が△44万円→△12万円へ。赤字幅が縮小 |
| 7〜9か月目 | 満室達成 | 6名全員入居。月間収支が初めて黒字に |
| 10〜12か月目 | 安定期 | 加算の追加算定・世話人の定着・家族連携の強化 |
黒字化のカギになった4つの取り組み
取り組み①:相談支援事業所への「直接訪問」
開設3か月目に、理事長自らが地域の相談支援事業所10か所を訪問しました。持参したのは「施設紹介シート」(A4一枚)と、受け入れ可能な利用者像をまとめた説明資料です。
訪問時に伝えた「受け入れ可能な利用者像」
- 日中は生活介護(自法人)または他事業所に通所できる方
- 夜間の医療的ケアが不要な方(服薬管理は対応可)
- 他の入居者との共同生活に適応できる方
- 家族が定期的に面会・連絡できる方
ポイントは、「こういう方は難しい」も正直に伝えたことです。受け入れの幅を広く見せるほど紹介が増えそうに思えますが、実際にはミスマッチによる短期の退居を招きます。あわせて「空室あり・体験入居可・見学はいつでも受付」を明示しました。
訪問から2週間以内に3件の見学依頼が入り、10か所のうち4か所とは継続的な関係が生まれて紹介が途切れなくなりました。「足を運んで顔を見せることの効果は大きかった」と理事長。
取り組み②:「体験入居」の制度化
入居を検討している本人・家族の不安を解消するために、1週間の体験入居制度を設けました。「本当に生活できるか不安」「他の入居者と合うか心配」という声に応えるためです。
体験入居をした3名は全員が正式入居に至りました。「決断できない理由を一つずつ取り除くことが、入居につながりました」。体験入居は現在も続いており、新規入居の入口になっています。
取り組み③:夜間支援等体制加算の届出
開設時に届け出ていなかった夜間支援等体制加算について、要件を整理したうえで届出を行い、4か月目から算定を開始しました。夜間支援従事者を配置して夜間・深夜の支援体制を確保している場合に算定できる加算で、支援の形態や利用者数に応じて区分が分かれます。この増収が赤字の縮小に直接効きました。
「加算の確認は後回しになりがちですが、グループホームは開設の時点で算定できる加算を把握しておくべきでした」(理事長)。
グループホームの開設時に確認しておきたい主な加算
- 夜間支援等体制加算:夜間支援従事者の配置・夜間の支援体制に応じて算定
- 重度障害者支援加算:重度の障害のある方への支援体制の整備に応じて算定
- 医療連携体制加算:看護職員等との連携体制により算定
- 福祉専門職員配置等加算:有資格者の配置割合に応じて算定
- 福祉・介護職員等処遇改善加算:早い段階で区分と要件を確認しておく
【重要】算定できる加算はサービス種別・事業所の体制・自治体の運用によって異なり、報酬改定によって新設・変更されます。また加算は体制届の提出が前提で、届出には「算定を開始する月の前月◯日まで」といった期限が設けられているのが一般的です。あとから気づいた加算をさかのぼって算定できるとは限りませんので、開設の段階で算定できる加算を洗い出しておくことが前提になります。取扱いは自治体によって異なりますので、必ず所管の行政窓口でご確認ください。
取り組み④:世話人の「定着」に最初から手を打つ
採用した3名の世話人が定着するよう、着任時研修・夜間対応マニュアル・週1回の管理者面談を整備しました。「採用できても辞められると振り出しに戻ります。定着の仕組みを最初から作ることが重要だとわかりました」(理事長)。
特に効いたのは、一人で夜間に対応する不安への手当てでした。緊急連絡のフローチャートと、利用者ごとの夜間対応カードを整えたところ、「手順があるから安心して働ける」という声が届いたそうです。
1年後の変化——収支と体制
| 指標 | 開設3か月目 | 6か月目 | 12か月目 |
|---|---|---|---|
| 入居者数 | 2名(33%) | 5名(83%) | 6名(100%・満室) |
| 月間収益 | 約34万円 | 約88万円 | 約108万円 |
| 月間収支 | △約44万円 | △約12万円 | +約16万円(黒字) |
| 世話人数 | 管理者が兼務 | 2名 | 3名・定着 |
| 相談支援事業所との関係 | 接点なし | 4か所と定期連絡 | 7か所から紹介実績 |
| 算定している加算 | 2種 | 4種 | 6種 |
※ 上記はコンサル支援先の事例をもとにした参考値です。収益・支出は定員規模・物件コスト・地域の需給状況・職員体制によって大きく異なり、支出は採用状況や体制の変化に応じて各月で変動します。同様の成果を保証するものではありません。
【理事長の1年後の言葉】
「開設3か月で『やるんじゃなかった』と思った事業所が、1年で黒字になりました。でも一番の収穫は、グループホームという新しいサービスを通じて、生活介護とは違う形で利用者の生活を支えられるようになったことです。最初の苦労があったから、今がある。そう思えるようになりました」
これからグループホームを開設する方へ——準備の順番
この法人の経験から、開設前にやっておきたいことを時期ごとに整理します。
- 【開設の約1年前〜】物件の選定と収支シミュレーション(満室・7割入居・半数入居の3パターン)/行政との事前協議の開始
- 【開設の約半年前〜】相談支援事業所への事前周知(「◯月に開設予定」の案内)/世話人の採用活動の開始/入居候補者リストの作成(既存利用者・相談支援専門員経由)
- 【開設の約3か月前〜】入居者の具体的な調整(本人・家族・相談支援専門員との面談)/世話人への研修・マニュアル整備/算定できる加算の洗い出しと届出の準備
- 【開設時】入居者が少なくても成立する最低限の収支の確認/相談支援事業所への開設案内(施設紹介シートを持参して直接訪問)/体験入居制度の整備
まとめ——新規事業は「準備の量」が1年後の数字を決める
この事例が示しているのは、グループホームの開設は開設当日からではなく、その半年から1年前から始まっているということです。
入居者の確保・職員の採用・加算の準備——これらを「開設してから動く」では、最初の数か月の収支がそのまま重い赤字になります。逆に言えば、開設前に動いておけば、同じ物件・同じ定員でも初年度の景色は変わります。
「グループホームを開設したいが、何から準備すればいいかわからない」「開設したが入居者が集まらない」——どちらの段階からでもご相談いただけます。
※ 本記事は経営改善の観点から事例を整理したものです。開設に伴う指定申請など官公署に提出する書類の作成を代理・代行する業務は行政書士、資金調達や税務に関する事項は税理士、就業規則・労働条件に関する手続きは社会保険労務士の業務です。Engoodは、収支の見立て、入居者確保の設計、加算の洗い出し、職員体制づくりといった経営面のご支援を行い、士業の業務を代行することはありません。
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