「場所が悪い」で止まっていた生活介護が定員に近づくまでの2年|空きが埋まらない理由を5つに分けて潰す
——「空きが埋まらない理由」を一つずつ潰した2年間の記録
【エビデンスと予測の区別について】
・登場する人物・法人は架空です(実際のコンサル支援先を参考に加工)。
・数値はすべて参考値です。事業所の規模・地域・サービス種別によって異なります。
・稼働率改善の要因は複合的であり、本記事に記載の取り組みのみによるものとは言い切れません。取り組み期間中の外部要因(地域の需給の変化・制度改定等)が影響している可能性もあります。
・筆者の経験・推測は「(筆者推測)」と本文中に明示します。
問題発生——定員25名に対して、常時10名前後の空き
「開設から4年経ちましたが、ずっと利用率60%台が続いています。何をやっても埋まらない。もう場所が悪いのか、うちには向かない利用者層なのか、とあきらめかけていました」——生活介護事業所(定員25名)を運営する法人の施設長の言葉です。
定員25名に対して、在籍は常時15名前後。空きが10名分あるということは、その分の報酬がまるごと入っていないということです。しかし施設長は「これ以上どうすればいいかわからない」という状態でした。
(初回面談)
コンサル「利用率が低い理由を、どうお考えですか?」
施設長「場所が悪いのかもしれません。駅から遠いので」
コンサル「駅から遠くても利用率90%以上の事業所はたくさんあります。まず『なぜ埋まらないか』を一つずつ調べましょう。場所のせいにするのは、全部調べてからでいいです」
施設長「……確かに、ちゃんと調べたことはなかったかもしれない」
ここが出発点でした。「埋まらない」は一つの理由ではなく、複数の原因が重なって起きています。そして原因が違えば、打つ手も違います。まとめて「集客」として扱っている限り、手は当たりません。
原因分析——「なぜ埋まらないか」を5つの視点に分解する
空きが埋まらない原因を、次の5つの視点に分けて調べました。ここを分けずに「利用者が集まらない」と一括りにすると、実際には効かない対策に時間を使うことになります。
| 視点 | 調査結果 | 問題の有無 |
|---|---|---|
| ① 既存利用者の出席率 | 4名の利用者が月間出席率5割前後。理由は未確認 | 問題あり |
| ② 退所の理由 | 直近1年で5名退所。うち3名は「事業所の対応への不満」 | 問題あり(重大) |
| ③ 新規の入り口 | 相談支援事業所との接点はほぼゼロ。口コミのみ | 問題あり |
| ④ 見学後の入所率 | 見学5件中、入所1件(20%) | 問題あり |
| ⑤ 地域での認知度 | 近隣の相談支援事業所10か所のうち8か所が「事業所の内容を知らない」 | 問題あり |
ここで見落とされがちなのが①の出席率です。空きというと「在籍者数が足りない」ことばかりに目が向きますが、在籍していても来ていなければ、報酬は発生しません。この事業所では、在籍者数の不足と欠席の多さが同時に起きていました。
そして最も深刻だったのが②です。「事業所の対応への不満」で退所した3名について、退所後にご家族へ改めてお話をうかがうと、共通点が見えてきました。
- 1人目:「職員によって対応が全然違う。ある職員は丁寧だが、ある職員は雑に感じた」
- 2人目:「困ったことを相談しても、翌月も同じことが起きた。改善されない」
- 3人目:「事業所の方針が突然変わって、本人が混乱した。説明もなかった」
共通するのは「事業所側の対応の不一致・不透明さ」でした(筆者推測:この分析は本事例のヒアリングに基づくものです)。支援の質そのものより、支援の「そろっていなさ」が退所の引き金になっていました。
2年間の取り組み——5つを順番に潰す
| 時期 | テーマ | 主な取り組み |
|---|---|---|
| 1〜3か月目 | 退所防止 | 支援の「一貫性」をつくる——職員間の対応統一・家族への定期連絡の仕組み化 |
| 2〜4か月目 | 出席率改善 | 欠席が多い4名への個別対応——「来たくない理由」を一人ずつ聞く |
| 3〜6か月目 | 認知度向上 | 地域の相談支援事業所10か所への訪問・施設紹介シートの作成と配布 |
| 4〜8か月目 | 見学→入所率 | 体験利用制度の導入・見学後のフォロー連絡の仕組み化 |
| 6〜12か月目 | 新規獲得 | 相談支援事業所との定期的な情報交換・月1回の施設だより送付 |
| 12〜24か月目 | 定着・維持 | 取り組みの習慣化・新規利用者の受け入れ体制の強化 |
取り組み①:支援の「一貫性」をつくる(退所防止)
最初に手をつけたのは、「職員によって対応がバラバラ」という問題でした。
(対応を決めるミーティングの一場面)
施設長「ある利用者さんがパニックになったとき、みなさんどう対応していますか?」
職員「声をかけて別室に誘導しています」
別の職員「私はその場で落ち着くまで待っています」
もう一人の職員「とりあえず離れて様子を見ます」
施設長「3人とも対応が違いますね。ご本人はどれが一番落ち着けると思いますか?」
(全員が考え込む沈黙)
施設長「今日から、この方への対応を一つに決めましょう。決め方は、ご本人に聞くことから始めます」
利用者一人ひとりの「個別対応カード」(A5サイズ・ラミネート加工)を作成し、どの職員でも同じ対応が取れる状態をつくりました。「支援がバラバラだった事業所が、そろった支援を提供できるようになった。この変化が最初の退所防止につながりました」と施設長。
取り組み②:欠席が多い利用者に「1対1の時間」をとる
ここが、この事例で最も見落とされていた部分でした。出席率が5割前後の4名それぞれに、担当職員が個別の時間をとって「最近どうですか。来にくいことはありますか」と聞きました。出てきた理由は、拍子抜けするほど具体的なものでした。
- 「月曜日の特定の活動が苦手」→ 月曜のプログラムを個別に調整
- 「トイレが混むのが嫌」→ 専用の時間帯を設定
- 「特定の利用者と同じ席になるのが嫌」→ 座席配置を変更
- 「体調が悪くても無理して来ている。休んでいいか不安だった」→「体調優先で休んでよい・連絡一本でOK」をご家族にも伝達
対応後、4名全員の出席率が翌月から改善しました(50%→78%/48%→85%/52%→90%/55%→72%)。
「聞けば解決できることが、3年間誰も聞いていなかった」——施設長のこの一言が、この取り組みの本質を表しています。欠席は「本人の事情」として処理されがちですが、事業所側で解ける理由が混ざっていることがあります(筆者推測:支援現場での観察に基づくものです)。
取り組み③:見学後の「フォロー連絡」で入所率を上げる
見学5件中1件(20%)という入所率も、大きな伸びしろでした。変えたのは、見学そのものではなく見学の後です。
- 【変更前】見学で事業所を案内して終わり。その後の連絡なし → 入所率20%(5件中1件)
- 【変更後】翌日に「昨日の見学はいかがでしたか」と電話でフォロー/1週間後に「ご検討状況はいかがでしょうか。ご質問はありますか」/2週間後に体験利用(1週間)のご案内/体験利用後に面談を実施 → 入所率65%(20件中13件)
「見学に来てくれた方は、入所を真剣に考えている。その気持ちに応える連絡を怠っていただけだった」(施設長)。
取り組み④:相談支援事業所との関係をつくる
地域の相談支援事業所10か所に施設紹介シートを持参して訪問し、その後は月1回の施設だよりを送り続けました。最初の訪問から半年で、見学依頼が月0〜1件から月3〜4件に増えています。
この領域は打ち手が具体的で、単独で1本分の内容があります。施設紹介シートの作り方、月1回の情報提供の続け方、紹介を受けた後の報告の仕組みまでは、相談支援事業所との連携で利用者紹介が倍増|生活介護の稼働率改善 で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
2年後の変化
| 指標 | 着手時 | 1年後 | 2年後 |
|---|---|---|---|
| 平均在籍者数(利用率) | 約15名(60%) | 約19名(76%) | 約24名(約95%) |
| 月間収益(試算) | 約270万円 | 約342万円 | 約432万円 |
| 退所者数(年間) | 5名(うち3名が不満による退所) | 2名(自然退所のみ) | 1名(自然退所) |
| 相談支援事業所との接点 | ほぼゼロ | 7か所と定期的な関係 | 10か所すべてと関係 |
| 見学後の入所率 | 20% | 45% | 65% |
※ 上記はすべて参考値です。事業所の規模・地域の需給・サービス種別・利用者の障害支援区分によって大きく異なります。2年という取り組み期間中の変化であり、それ以外の外部要因が影響している可能性もあります。同様の成果を保証するものではありません。
【施設長の2年後の言葉】
「2年前、『場所が悪い』と言い訳にしていた自分が恥ずかしい。場所は関係ありませんでした。問題は5つあって、5つに対策を打ったら、5つとも改善した。それだけのことでした。でも『それだけのこと』をちゃんとやりきるのが、難しかった。2年間、一つも手を抜かなかった職員たちに感謝しています」
「一番の変化は、職員が『うちの事業所には価値がある』と思えるようになったことです。定員に近い事業所で働く職員の顔は、空きだらけのときとは全然違う。自信が生まれると、支援の質も上がる。すべてがつながっていました」
【ある相談支援専門員の言葉(2年後)】
「2年前とは別の事業所みたいです。支援が一貫していて、連絡がこまめで、見学に行くたびに職員さんが生き生きしている。うちの担当の方を紹介したくなる事業所になりました」
振り返って——稼働率改善の本質は「集客」ではなかった
- 気づき①:退所を防ぐことが、新規獲得より効率的
在籍者が1名退所すると、新規を1名入れても現状維持にしかなりません。退所防止(満足度の向上・支援の一貫性)を先に置くほうが、結果的に早く埋まります(本事例の観察)。 - 気づき②:「なぜ来ないか」を聞いていない事業所が多い
欠席が多い利用者に理由を聞いていないケースは珍しくありません(筆者推測:支援現場での観察)。聞けば解けることが、聞かれないまま放置されています。 - 気づき③:見学に来た方を「逃がさない」フォローが効く
見学まで来た段階で、検討はかなり進んでいます(筆者推測)。見学後の連絡を丁寧にするだけで、入所率は変わります。
つまり、稼働率改善は「集客」より先に「定着」と「フォロー」だということです。
まとめ——「場所が悪い」は、調べる前に出てくる言葉
この事例が示しているのは、稼働率が低い事業所には理由があるということです(筆者推測:本事例および複数の支援事例からの観察です)。「場所が悪い」「地域に需要がない」という外部要因に原因を求めた瞬間、改善の動きは止まります。
「なぜ退所したか」「なぜ欠席するか」「なぜ見学後に入所しないか」——この3つの問いに、いま数字で答えられるでしょうか。答えられないのであれば、対策より先に、そこを調べることから始めてみてください。
相談支援事業所との連携づくりの具体は 相談支援事業所との連携で利用者紹介が倍増|生活介護の稼働率改善、新規利用者に定着してもらう受け入れ体制は 新規利用者が3か月で退所していた施設|受け入れ体制で定着率を改善、就労継続支援B型での地域連携と情報発信の事例は 稼働率65%だった就労継続支援B型事業所が半年で95%になった5つの取り組み もあわせてご覧ください。
稼働率の改善・退所防止・見学からの入所率の引き上げ・地域連携の強化のご相談は、稼働率改善支援やサービス内容もあわせて、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。